第3話 接敵!

バステリア帝国 東方遠征艦隊

旗艦 アドミラル・デスター


「エル、君は今回の戦いをどう思うね?」


こう尋ねたのは、この度の遠征艦隊の総司令官である、ミケル・デスター提督だ。


エルとデスター提督は、貴族として社交の場で数度顔を合わせた事はあるが、こうして上官と部下として顔を合わせるのは初めてである。


「帝国の勝利は、疑うまでもありません。

当然ながら、このような大規模の艦隊を帝国軍以外で見たことも聞いたこともありません。」


実際に数においてバステリア帝国を凌駕する国はこの世界にはまず無い。


「もしかすると、先月のエルフ討伐作戦のように、この艦隊を見た途端に降伏を申し出ることもあるのでは無いでしょうか。」


「そうかもしれんな、ニホンとアメリカの使者たちが乗っていた船には砲が一門しか付いていなかったらしい。

一方で我が艦隊には100門級の戦列艦が300隻いる。

いくら蛮族でも彼我の戦力差には気づくだろう。」


「戦わずして敵を屈服させる提督の戦略は慈悲深く、最良の選択と言えるでしょう!」


エルの目は、尊敬の眼差しで提督を視界に捉えていた。


「そうだろう、私はなんせ、名家のデスター家の者だからな、生まれた時既に天才だったのだ。ハッハッハ。」


この男は典型的な家名で出世して来た七光り無能タイプなのである。エルが言った通り、彼はほとんど戦ったことがないのだから、素人だったりするのである。


「デスター提督の麾下の我が艦隊は無敵です!」


エルも全く一切の疑いなく、バステリア帝国の勝利を信じていた。

いや、エルだけでは無いだろう、見渡す限り、帝国軍の船で埋め尽くされているのだ。

この光景を目にしているこの戦いに参加する指揮官から末端の兵まで皆、勝利を信じて疑わなかった。


蛮族を蹂躙し、完膚なきまで叩きのめすであろう無敵の艦隊は順風満帆にその船足をニホンに向け進めていた。


日米連合艦隊旗艦ニミッツ


「ついに俺たちの出番だぜ、バリー!俺たちは一番最初に敵のファッキンな面を拝めるらしい。」


ヘルメットを片手にフライトデッキに上りながら相棒に話しかけているのは、ジョナサン・ブレスター中尉 F/A-18 Fのパイロットだ。

そして、バリーことバリー・アダムズ少尉 電探員だ。


2人はデッキの上でデッキクルーによって引き出されたF/A-18 F に乗り込み、慣れた手つきで始動を始めた。


「エンジンスタート」

デッキクルーが腕を回し指示を出す。


甲高エンジン音が響きコンプレッサーがエンジンに空気を送り込み、腹に響く低い音とともにエンジンが始動しているのが分かる。


機体がゆっくりと進み、カタパルトの前に移動すると一斉にデッキクルー達が機体を囲み発進の準備を始める。


その間に2人は、システムのチェックを急ぐ。


「ラダーグリーン、エンジングリーン、HUD接続完了!」


手で外にいるシューターに準備が整った事を伝えると。周りにいたカタパルト要員が離れ、噴射防護壁がゆっくりと一枚づつ上がる。

全ての準備が整い、エンジンスロットをアフターバーナーに入れ、発艦に備える。


アフターバーナーの推力を抑え付けているため機内にエンジンの振動と轟音が伝わる。


シューターが姿勢を低くし艦首の方を指し発進の合図を出すと


発艦リフトオフ!」


蒸気式のカタパルトによって機体は強制的に離陸速度まで加速され、母艦から打ち出される。


この時に二人にかかるGは4Gだ。

機体が一瞬下がり艦を離れたことを感じる。


艦を離れ高度を採るとすぐさま誘導の指示が入る

「こちらニミッツ、ジャック3直ちに高度を6000ftまで上昇。方位を321に。」


「こちらジャック3ラジャー。直ちに高度を6000ft、方位321に向ける。」


操縦桿を傾け支持された方向に機体を正確に向ける。さしてきつくは無いGを2人は感じ機体が目的の方向に向かう事を感じ取る。


「当該空域にはE-2ホークアイが待機している。以降はそっちの管制に入ってくれ。コールサインはシーカーキングだ。」


「ジャック3ラジャー、オーバー」

この交信を以て管轄が変わる。


「バリー、俺たちの敵って中世レベルの艦隊って噂だぜ。」


「まじかよ。冗談だろ!映画のミッドウェーだって相手はジャパンの空母艦隊だったぞ!」


亜音速で飛行していると数十分で400キロなんて飛んでしまう。


「おっと、そろそろだぜ。バリー、空の上の最強のストーカーに繋げてくれ。」


「オーケー、シーカーキング、こちらジャック3指示を請う。」


「こちらシーカーキング、何人のことをストーカーなんて言ってやがる。無線入りっぱなしだったぞ。」


「そいつぁ悪いHAHAHA。」


「ジャック3、ボギー上空を低空飛行して画像を記録しろ。こんな時間だが敵さんにモーニングコールしてやれ。敵の戦力評価までならオーケーだそうだ。オーバー。」


「ジャック3ラジャー!とびっきりのモーニングコールをしてやるぜ。ジョン頼んだぞ。」


「行くぞバリー、頭打つなよっ。」


機体をロールさせ、コックピットを海面側に向け操縦桿を一気に引き急激に機体の高度を下ろす


海面すれすれまで機体を下ろし、アフターバーナー全開で進んだ。あと、数十秒もすれば敵艦隊が視界に入るだろう。この惑星は地球に比べ大きいので、水平線も遠く視界が効く。


ドーンと音の壁を叩き割る音が響いた瞬間、機体は音速を超えた。


「シーカーキング、こちらジャック3現在マッハで海面を飛行中!そろそろ視界に入る。」


音を遥か後方に置きざりにしたまま、無音で艦隊に向け突き進む。


水平線の上に無数の帆が見えた。敵艦隊だ


「ビンゴだっ!このまま敵さんと同じ目線で奴らのガラガラの脇元を通過するぞ!バリーカメラの準備はいいか?」


「オフコース!」


そう言うとなぜか私物の一眼レフを取り出した。偵察ポッドで撮影するのはもちろんだが、上に報告できないような"おふざけ"の記念写真はこれに収めるのだ。


「奴らの寝起きの顔をちゃんとカメラに収めるんだぞ。」


「準備オーケーだ!」


「中指立てて友好の挨拶するのを忘れるなよ。」


「勿論だ!」


数秒後、艦隊のど真ん中、海面すれすれ甲板と同じ高度を超音速で通過した。

超音速の物体が真横を通ったのだ、ソニックブームによって艦尾の船長室のガラスは砕け散り、甲板上の軽い荷は飛び散った。

敵艦隊の端から端まで飛んだ後は推力にものを言わせ垂直に上昇し、偵察ポッドによる撮影を開始した。


その時、帝国軍艦隊は蜂の巣を突いたようになっていた。


「敵襲ー!敵が来たぞぉ!」

敵襲を知らせる鐘が鳴らされる。


「あれはなんなんだ、あんな竜騎見たことがないぞ。!」


「提督、いかがなさいますか。」


デスター提督は全く状況を読み込めずに唖然としてその場に棒立ちしている。


「・・・」


「提督っ!」


部下の声に我に帰りすぐに指示を飛ばした。


「通信球を使いすぐさま全艦隊の制空竜騎兵を飛ばし、蹴散らせっぇ!」


通信球とは他の文明圏にあるとある魔術先進国から輸入した、魔導具である。高価であるが、使用するものの資質に左右されずさらにリアルタイムの通信を可能とする優れものだ。


「おのれ蛮族め、おとなしくしてれば奴隷にしてやったものを、皆殺しだ!」

ただの、おふざけが過ぎた偵察であるのにこの動揺のしようだ。


次々と他の船から、制空タイプの竜騎兵達が飛び上がってく。


「飛べ飛べ飛べ!準備できたものから直ぐに上がれ!! 帝国の力を蛮族どもに思い知らせてやれ!帝国竜騎兵団の力を見せてやれ!」


各艦で檄をとばしながら、次々と竜騎を空に上げていく。


竜騎兵は飛び立つために滑走を必要としない、故にどの艦にも載せることができるのだ。


飛び上がった数は3000、小国ならこれだけで十二分に国を滅ぼせる今で言うところのアメリカの原子力空母のような存在である。この世界では竜騎兵団の威力とはそんなものだ。


「こちらジャック3、敵のお出迎えが来た、交戦許可をリクエストする。戦力評価をしたい。」


「ジャック3、無茶はするなよ交戦規定に従い交戦許可は下りている。ウエポンズフリー、ウエポンズフリー!」


「ジャック3ラジャー!エンゲージ」


「ジョン、バードストライクに気をつけろよ。さすがにドラゴンがエンジンに入るのはまずい。」


蚊柱か何かのような数の竜に警戒を発する。


「まずは、一撃離脱をしてみるか。」


高度的には優位な位置にいたのでそのまま急降下をすれば、敵の頭に出る。操縦桿を倒し、機体を垂直に下に向けた。またしても機体が音速を超え機体全体が振動し軋む音がする。


レティクルの中央に指揮官らしい竜騎を入れ

「GUN fire!」

機首の20mmバルカンを放った。弾道は吸い込まれるように狙った獲物へと向かい正確に貫いた。


まず、戦闘機の銃撃を受けて、生きていられる生き物はそう多くないだろう。この竜騎も例に漏れず声をあげることも出来ず肉片へと化した。全く原型をとどめていない。


世界最強、無敵であった竜騎兵団の隊長がいきなり堕とされたのだ。あるものは驚き慄き、あるものは、怒っりまたあるものは現実を理解できなかった。


「次はAIM-120をためすぞ」

「ジョン、このままだと囲まれる一回上に上がろう」

一旦高度を上げつつ距離を置きAIM-120の最低射程外まで出る。


「バリー、奴らの竜、火を吐いてるぞ、全く俺たちは何と戦ってんだ」


竜騎は攻撃手段の一つとしてブレス攻撃を持つ。射程は30メートル程度、人間があびればひとたまりもない。


「よしそろそろだな。」


機首を反転し、必死で追いかけてくる竜騎士の中から1人を選び、


「ターゲットロックオン!」


レーダーが目標を捉えたことがブザーによって知らされ発射の準備が整った。


「Fix2 fire!」


翼下のハードポイントからAIM-120が勢いよく発射された。アクティブレーダー追尾の形式を持つAIM-120は竜騎を決して逃しはしなかった。刹那のうちに狙われた竜騎は跡形もなく消し飛んだ、肉片が残ってるかもわからないくらいに。


それでもなお竜騎兵達は隊長の仇を取ろうと必死で追いかけてきた。しかし、ジェット戦闘機に追いつける生き物などいない。そもそも、マッハで飛ぼうものなら乗っている人間はバラバラになってしまう。


「戦力評価をは大体終わったな。全く七面鳥撃ちかよ。まぁ、とりあえず帰るか。シーカーキング、こちらジャック3、戦力評価は完了した。帰還する。」


「こちらシーカーキング、お仕事御苦労さん、了解した。すでに戦闘データは艦隊に送った。貴機は、ニミッツに到着後直ぐに装備を換装して出撃する手はずになっている。残念だったな。偵察はお家に帰るまでが偵察だからなハハハハお気をつけて オーバー」


「クソッタレめ、どこまで俺たちを使う気なんだちくしょう。またファンタジーから飛び出したような奴と戦わないといけないのか。またくるぜ !」


F/A-18F ジャック3は帰途へ着いた。


バステリア帝国東方艦隊旗艦 グレート・デスター


「ハッハッハ、奴ら我らが竜騎兵団を恐れ何も出来ずに尾を巻いて逃げていったぞ。見たか蛮族め、このまま奴らの国を滅ぼしてやる!奴らには無慈悲な鉄槌が降るだろう。」


デスター提督はそう満足げに言った。

兵達もその言葉を信じ湧いていた。あまりにも勝ち続け自分達を精強無比だと信じるとなかなか現実を直視することは出来ないのだ。負けるわけが無い ..と。


「旗艦ニミッツ、こちらジャック3」


「こちらVFA-154飛行隊長。言いたいことは分かるな?こんバカが貴様ら空の上で何やってたんだ!?一瞬レーダーから消えたぞ。またお得意の超低空飛行か?あぁん?」


そう敵艦に"モーニングコール"をかけた時のことだ。


「ピューリッツァー賞を狙って撮影していただけであります!いい写真が取れたであります。」


「またか、ったくこいつらは...まぁいい早く帰ってこい。貴様らには直ぐに次の仕事をしてもらう。制空隊を送り込む、貴様らはそのα小隊に参加してもらういいな?」


各空母の甲板の上には続々と艦隊防衛装備、つまりフル装備をしたF/A-18が引き出されていた。

迎撃してくる竜騎兵団を排除するためだ。

そして、艦隊にとどめを刺す任を負っている臨戦態勢のイージス艦隊が近ずいていた。そうとは知らずにバステリア帝国艦隊は意気揚々と近ずいていた。


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