世界異世界転移
多門@21
第1話 最悪の接触 開戦前夜
2020年4月21日
東京 首相官邸
「首相!ホワイトハウスから電話が入ってます。」
「そうかわかった。すぐにでる。」
執務室の机の上にある電話を静かに取った。
「ミスタープレジデント。どうされましたかな?」
「新田首相、君も知ってると思うが世界が丸々そのまま異世界に転移してしまったせいで日本の西側には何も無くなったはずだった」
今現在、地球...いや"元"地球圏の国は異世界に全て例外なく転移してしまい、地理関係が変異しているのだ。
北アメリカの西方に日本とオーストラリア などが存在し、東方にオセアニアが位置する。アフリカ大陸は中華人民共和国の南方に...という感じだ。
丁度メルカトル図法で書かれた地図をロシアとアメリカの間で切り開きアメリカの西方に日本が位置している状態だ。
そしてその周りには、未知の世界が広がっている。
「君も知っての通り我が国はこの天変地異のせいでロストしたいくつかの人工衛星を全部打ち上げ直した。
まぁ、全部が全部消えてしまわなかったのは不幸中の幸いだったよ。
そして我が国の偵察衛星の1つが日本の西方9000キロ地点にオーストラリア程のサイズの大陸と文明を発見した。
衛星写真を解析した分析官の報告によるとその文明の発達度合いは中世から近世のレベルだそうだ。
そこでだ、せっかく新しい世界で文明を見つけたことだし外交特使を派遣しようと思うんだが、一緒にどうかな?
位置的に日本も無関係というわけにはいかないだろう、今そっちに資料を送った。確認してみてくれ」
手元のPCに暗号化処理されたファイルが送られてきた。
そのファイルの中身はどれも画像ファイルになっていた。
その内一枚を開いてみると港を撮影した写真だった。
そこに何隻もの船が写っていたがどれも見慣れない形をしている。
いや正確には、知ってはいるが、今時珍しい形をしているのだ。
全木製でマストには帆がついて、船首に大砲を括りつけた船から横に張りだした大砲が数十門並んだ船まである。
戦史にはそこまで詳しくはないが、恐らくガレオン船から戦列艦....である事は見て取れる。
これらが地球の歴史上では活躍した時代には200年以上の開きがある。
「興味深いですね。我が国としてもこの世界で友好的な関係を持てるに越した事は有りませんから、この提案は日本にも利益があると言えるでしょう。
本来なら委員会の会議にかけないといけない所ですが。このような特殊な状況かですから事後承認させれば問題無いでしょう。
では、こちらからも10人ほど外交官を派遣しましょう。護衛はどうしましょうか。」
「合衆国は第七艦隊からタイコンデロガ級2隻とSEALsの精鋭部隊を1分隊ほどを送り込もうと思うが。」
「では、日本からイージス護衛艦と陸自の部隊を出しましょう。」
と言う事で、通常とは異なる形ではあるが、特使の派遣が決まった。
出発は4月30日、目的地までの航海は一週間程である。
勿論これはある種のギャンブルだ。
これがいい方に傾くか、最悪な方に転ぶかは天のみぞ知るところだろう。
特使の派遣が決まったとなればもちろんいきなり未知の世界行きの辞令が下る可哀想な外交官もいる。
菅野 忠(25)この男に辞令が下った。
「4月30日に横須賀を出港する護衛艦に乗船せよ。一ヶ月分の出張の準備をする事。以上」
と書かれた一枚の紙を彼は受け取ったのだ。
理不尽きわまりない。
ほとんど何も知らされてない上に新世界行きと言うわけだ。
菅野忠、 外務省のアフリカ局の中ではかなり若手な方だ。
なぜ若手の彼が選ばれたのか?
当然だが、今各省庁は世界の大変動への対応で猛烈に忙しい。
国が傾いてもおかしくないようなこの状況で日本経済が崩壊せずに持ちこたえているのは彼らの陰での活躍によるものだと言っても過言ではない。
そんな時にベテランを訳の分からない国に派遣などできる訳が無い。
そこで、そこそこ優秀だが、この状況にいきなり入っても使えない戦力外の若手である彼に白羽の矢が立ったのだ。
他のメンバー9人も同様の方法で選ばれている。
4月30日早朝、静かに護衛艦あしがらは横須賀を出港し米海軍とのランデブーポイントに向かった。
朝日を背に受けながら、特使艦隊はゆっくりと新世界に向けて進むのだった。
***********
一週間後早朝 旗艦 タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦シャイロー CIC
1週間何事もなく、予定通り順調に航海していたのだが。平穏な航海は終わりが近づいていた。
「水上レーダーに感っ!50メートルクラスの船が3隻
このままだと1時間後に接触します。艦隊運動をしていることから、軍艦だと思われます。レーダーの反射が小さく発見が遅れました!」
隊司令は艦橋の司令席でいつものように、アメリカンドリップのモーニングコーヒーをすすっていたがイージス担当士官から報告が入り。
艦橋内のディスプレイに目をやると確かに三隻の船が艦隊を組んで航行しているのがわかった。
この時2つの選択肢があった。1つは、あえて接触する。
もう1つは、レーダーシステムを生かして目的地ギリギリまで隠密に侵入する。
敢えて接触することを選択した。今回の目的は外交であるからだ。
インカムを持ち、チャンネルを艦隊間無線に変え、命令を下す。
「こちら旗艦シャイロー、艦隊全艦へ。
レーダー上に現地の沿岸警備艦ないしは軍用艦と思しき艦艇3を捕捉した。
今回の任務の目的を加味し、これらの艦へ接触を図る。
接触予定時刻は0725、約1時間後である。
各艦は水上の警戒を厳に。隊列を単横陣に変更。戦闘配置につけ」
各艦の中が慌ただしくなる。非番の者は叩き起こされ、見張り要員も増員される。
同乗している外交官達も緊張隠せずにいる。
***********
数十分後
監視員がデッキで望遠鏡をのぞいていると水平線上に帆のついたマストが3隻分を捉えた。
「こちらライトデッキ、方位012にアンノン3隻を視認にて確認!マストが見える事から、目標は帆船と断定」
帆で動く三隻の船はもどかしい程の速度でゆっくりと近づいて来る。
距離が1kmを切ったか切らないかくらいになると三隻のガレオン船が発砲 シャイローの鼻先に水柱が三本立った。
甲板の上で指揮官らしき男が拡声器の様なものを持って叫んできた。
「こちらは、バステリア帝国沿岸警備隊である!貴様らは帝国の領海と知って侵犯しているのか。所属と目的を答えんと即刻沈めるぞ!」
交渉に来ていきなり開戦となっては堪らないというもので、慌てて
「アメリカ合衆国海軍所属シャイロー以下 目的は外交だ。敵意は無い!繰り返す 敵意は無い 発砲をやめてくれ」
「この海域から朝貢船が来るという話は聞いていない、次回からは事前に報告をするように!」
その後、特使艦隊はガレオン船の後ろにつき、バステリア本国に誘導されるのだった。
誘導されること3時間、ついに特使艦隊はバステリア帝国の首都が面する湾にたどり着いた。
湾に入って一際目を引いたのは、港に並んでいた2、300隻の全木製で船腹に百近い砲門を持った戦列艦であった。
ミサイル巡洋艦の乗組員達はそれを脅威というより物珍しさに興味を惹かれた。
湾内には軍艦の他にも交易船の様な非武装の帆船も多数停泊していた。
そしてもう1つ、彼らの興味をそそったものは空の上を飛び交う竜達であった。竜の上には人が1人、騎馬の様に騎乗していた。
さらに湾奥に進むと、巨大な城を中心とした街が見えてきた。その街は、丘の上城を中心に囲むように色々な煉瓦造りの建物が並んでいてファンタジー物の映画にでも出て来そうな風景だった。ただしひとつ違うものがあった。
バステリアに上陸した後、諸々の事務手続きを経て、外交官達は、この大陸を統べる皇帝への謁見が許されたのだった。
一行は城の中心に位置する大広間に通された、入り口から奥へと進むと一段高いできる限りの装飾を施した椅子の上に座った初老の男がいた。この男こそがバステリア帝国皇帝 ロアール・ネロ 皇帝だ。
その皇帝がゆっくりと口を開いた。
「面をあげい、今回は一体何用で西の未開の地からわざわざ足を運んだのだ?」
すでに皇帝はアメリカ、日本を対等の相手として扱う気は無いようだ。しかし、こちらとてプロの外交屋である。これしきでは何も感じない。
「我々アメリカ合衆国と日本国は貴国と対等な立場での国交と相互不可侵条約を結びたいと思い赴きました。」
外交官の言葉にその場がどよめいた。
「ほう、今なんと。最近耳が遠くてな 対等...相互不可侵などが聞こえたような まさかのな対等という言葉はそれなりの力を持つ物が使う言葉である。ましてや我が帝国相手に東の蛮国どもが何を言う?もう一度問おう、答え次第では貴様らの国は消えるぞ」
外交官達は交渉は不可能かもしてないと思い始めていた。
「陛下の聞き間違いではございません。我が国は貴国と対等な条件で国交と相互不可侵条約条約を結びたく思います。」
これを聞いた皇帝は不気味な笑みを浮かべ脇に控える宰相の方を向いた。
「宰相よ聞こえたか?」
「はっ、よく聞こえてございます」
「どうしても国を滅ぼしたいようじゃ」
「全く、身の程知らずにも程がありますな」
「今すぐにで動かせる軍隊はいかほどか?この蛮族を教育してやらなければなるまい。」
「東洋艦隊50万ほどでしたらすぐにでも海を越えさせられましょう。」
「東洋艦隊か、ちと多すぎる気がするが良いだろう。見せしめにはちょうどいい。ただちに、こいつらの国を更地に戻し、女子供も含め全て奴隷にして連れてこい。そして、こいつらは血祭りに上げろ、明日の朝に皇城の前の広間で首を刎ねろ、戦さ前の一興じゃ」
「直ちに!近衛っ、こいつらを連れて行け」
「はっ!」
引き締まった返事とともに近衛兵達が外交官達の両脇を掴み、奥の扉の方へ引きずっていく。
「ちくしょう!合衆国を敵に回した事を後悔するぞっ」
アメリカの外交官の1人が声を上げた。
「ふっ、喚くが良い、帝国の精鋭が未開の国の軍隊に負ける事などありえん。
それと、この文をこやつらの船に届けさせろ、最後の情けじゃ。」
その内容は、事実上の無条件降伏の勧告状だった。
1、直ちに全ての武装を解除する事
2、貴国の政府に我が国の政治顧問を置く事、政治顧問の権限は全ての権限よりも優先とする。
3、20万人を奴隷として差し出す事
4一切の徴税権を帝国に譲渡する事
5これらを拒否または無視した場合50万の軍勢が攻め込む
である。
外交官達は衛兵にどこかに連れて行かれた。それを横目に見ながら皇帝は笑った。
「あやつらの国の国民が可哀想だ。奴らが一言帝国に従うと言えば良いものを......。あいつらの成りを見たか、黒一色の服を着ておった、文明のレベルが知れてるな。あいつらの乗ってきた船も大砲が一門しか付いていないらしいじゃないか、港に停泊している帝国の艦隊を見れば勝てない事くらいわかるだろうに」
外交官達が処刑される事を護衛艦隊は無線でモニターしていた。政府と連絡の上、直ちに救出することが決まった。
巡洋艦シャイローのヘリ甲板上では、救出部隊が出撃の準備を整えていた。
彼らの戦闘服の左肩のベルクロには「SEAL s TEAM 6 」と刺繍されたパッチが付けられていた。
そう、彼らはネイビーシールズ チーム6 通称「デブグル」である。彼らはシールズの中でも特に優秀な隊員を引き抜いて過酷な訓練を通り抜けたメンバーのみで編成された最強中の最強の部隊である。
今回はこのデブグル一個分隊と陸自の最強部隊 特殊作戦群一個分隊が投入される。
救出が成功する事は言うまでもない、さてもすればバステリア帝国の誰にも彼らの存在を悟られずに完遂しかねない。
「作戦の概要を伝える。そのまま作業をしながら聞いてくれ。」
隊長格の男が準備中の隊員に説明を始める。
「作戦は単純だ、外交屋達につけたビーコンを頼りに、ヘリで彼らの真上に降り、その後電動ソウで屋根に突入路を開口。そこから突入 そして彼らを連れて帰る。いいかな?」
「Sir yes sir!」
「今回もいつも通り内部の詳しい情報は一切ない。各自必要と思う装備を自由に持ち込んでくれ」
「Sir Yes sir!」
「それと銃にはサイレンサーを装着。これだけは絶対だ」
「作戦開始は3時間後の日没後だ。以上」
彼らは、慣れた手つきで思い思いの荷物を詰めていく。
日没後
「時間だ。ヘリに乗り込め!」
次々にヘリ隊員が乗り込んでいくのだが、全ての隊員が常人ならざるオーラを放っていた。
ドアガン要員が最後に乗り込み搭乗が完了した。
甲板のLSOがエンジンスタートの指示を出すと、コンプレッサーがエンジンに空気を置くりこむ音とともにローターがゆっくり回転し始め少しづつ回転数を上げていく、直ぐにダウンウォッシュが甲板を叩きつけた。
エンジンがさらに回転数を上げ次第に母艦を離れていく。
夜となると、首都上空の警備にあたっていた竜騎士達もいないので、空に今敵はない。機内にはエンジンの音だけが鳴り響いていいる、静かなものだ。今回参加しているSEALsの面々はこのような作戦は何度も経験している。いつもの仕事と何ら変わりはない。
街には明かりがついているが、外交官達が捕らえられている監獄には見張りが立っている外壁上を除いて殆ど明かりがついていない。
「ビーコン反応地点12時の方向100メートル!」
その方向には監獄とそれを監視する櫓が設置されていた。
櫓の中には遠くを見つめる兵士らしき者がいる。おそらく見張りだろう。
「降下地点はあの監視櫓横の屋根の上にする。誰か、櫓の見張りを狙撃しろ!」
座席に座っていた隊員の1人が静かにドア付近まで出て来て、静かにサイレンサーを装着したM40スナイパーライフルを構えた。
パスッ
空気の抜けたような音と共に弾丸が放たれるとすぐに見張りの眉間に風穴が空いた。
そしてもう一発
パスッ
今度は見張り台を照らしていた松明を倒して消した。
「クリア」
ヘリは静かに降下地点上空まで移動する。
『先行2人降下』
をハンドサインで示すと電動ソウを背負った隊員が慣れた手つきで足音1つ立てずにラペリング降下し、電動ソウ持ち替え直ぐに開口に取り掛かる。
ものの数秒で手際よく、正円の穴をくりぬいた。
それを確認した隊員達が次々と足音1つ立てずに、次々とラペリング降下してくる。
穴の中は明るく、真下は廊下であった。
2人が先行して中の安全を確認し、それに続いて続々と監獄の中へ侵入していった。
隊員達は誰一人言葉を発さず連携していた。
廊下の両脇二列にならび先頭はHK416を構えながら細い廊下を進む。
廊下の角に人の背中を見つけると右手で後続の隊員にハンドシグナルで停止し狙い続けるよう指示を出し、背後まで忍び寄り口を押さえて、首筋にバイヨネットそ突きたて”処理”した。
看守からは鍵を奪い廊下の目立たない位置に移動させる。
看守は、誰に襲われたかも知らないまま絶命したのだった。
さらに奥へ行くと、ビーコン反応の示す方向がばらけ出した。
外交官達は別々の独房に放り込まれているのだ。
そこから2人1組に分かれて更にそれぞれの房へと浸透していった。
それぞれの場所で隊員達は驚くほど早く完璧に仕事をこなし、誰一人として存在を認識される事なく仕事をこなしていった。
牢の鍵を途中で奪った鍵を使い解錠し全員を解放し、そして来た道を連れ出した20人の外交官達を囲みつつ元来た方向へ帰っていると、静かすぎることに気付いた近衛が同じフロアに集まり始めていた。
隊員達は外交官たちを囲うように並びただ歩くかの様に脅威を排除しながら進んでいく。言うまでもなくCQBのプロ相手では全く勝負にならない、城内ということもありマスケット銃を装備した兵はいなかったのも幸いした。
侵入した時に開けた穴を這い上がり、屋上に強行着陸し待機していたヘリ3機にに分乗し地獄を脱出した。
三隻の船は帝都から誰1人欠けることなく脱出を成した。アメリカに宣戦布告したのだから開戦は避けられないだろう。何せ、殲滅戦を宣言しているのだから。全く予想だにしなかった形での第三次世界大戦が始まるにかも知れない
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