第二章第17話 フラウに捧げる二百連(前編)

「ま、そんなわけでだ。教会の治癒師は明日いっぱいであっちの仕事を片づけて、明後日には迷宮に行ってくれるそうだから安心しろ」

「……わかりました」


 どうやら一応ちゃんと仕事はしてくれていたようだ。ただ命を張って戦っている俺たちに事情の説明くらいはしてくれても良いと思うのだが、それはわがままなのだろうか?


 こうして俺はギルドを後にし、滅茶苦茶に荒された自宅へと戻ると片付けを始めた。一方のフラウはというと、精霊花の蜜が置いてあった場所を見て寂しそうにしている。


 どうやら家に戻ってきて思い出してしまったようだ。


「ああ、くそっ。滅茶苦茶にしてくれやがって」

『……ホントだね』

「フラウ。また引いてやるから元気出せって」

『うん……ありがと』


 いつも元気なフラウがこんなふうにしょげている姿は見るに忍びない。こちらまで胸が締め付けられるような思いだ。


「よし。わかった。フラウ。デポジットが 6 万あるから、片付けが終わったら二百連引こう」

『……うん』

「ほら、元気出せって。俺がもう一回、精霊花の蜜を引いてやるから」

『……でも、そのデポジットは迷宮で閉じ込められたときのためのものでしょ? そんな大事なものを、使えないよ』

「大丈夫だって。迷宮で魔物を退治して、ちょうどそのくらいの金額が入るからさ。それを入金すれば元通りだよ」

『……本当に?』

「本当だよ。大丈夫だから安心しなって。それにさ。俺、フラウには元気でいて欲しいから」

『……うん。うんっ! ありがと! ディーノっ!』


 フラウはそう言って俺のところに飛んでくるとほっぺにちゅーをしてくれた。


「よし。それじゃ張り切って片付けるとするか!」

『おーっ!』


◆◇◆


「さあ、フラウ。取り戻すときだ」

『うん! ディーノ! お願いねっ!』

「ああ、任せておけ」


 俺はガチャの画面を開くと流れるようにガチャを引くボタンをタップした。もはやこの一連の動作は無意識でもできるようになってきているのだから、このガチャにはずいぶんと慣れてきたものだ。


 そんなことを考えて一人悦に入っている俺を尻目に、画面の中ではいつものように妖精が宝箱をぶら下げて飛んでいる。


 木箱、銅箱、木箱、銅箱、木箱、木箱、銅箱、木箱、銅箱、木箱だ。


「げっ。ヤバい! いきなり爆死か!?」

『大丈夫! ディーノ! 諦めないでっ!』


 そうだった。フラウはもっと深い絶望を味わってたんだ。この程度で諦めてどうするんだ!


 そう思い直した俺は頭を軽く振ると気合を入れる。


「行ける! 変われ! 変われぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 そんな俺の気合が通じたようで、三つ目の銅箱が銀箱へと変化した。


「よーし! 変わった。来いっ! ステータス強化! 来いっ!」


 その箱から出てきたのは【STR強化】だった。


「よし! 最初からステータス強化! よし! よし! よーし!」

『すごーいっ! おめでとう! ディーノっ!』

「ああ。ありがとう。だが、俺の今回の狙いは【精霊花の蜜】の一点狙いだからな。この勢いで、必ず引いてやるよ」

『うんっ!』


 フラウは満面の笑みを浮かべてそう答えてくれた。


 フラウのその笑顔はとても眩しくて。


 それはまるで、俺が必ず【精霊花の蜜】を引くと信じてくれているようで。


 こいつは燃えてきた!


 俺は残りの箱を開けていくが、残念ながら銀箱へと変化したものはなかった。最後の木箱が銅箱に変わって堅パンが出てきたのも地味にありがたかった。


 だが、この引きを見るに今日はついている気がする。


 俺は流れを途切れさせないようにすかさず次の十連を引くボタンをタップした。


 木箱、木箱、木箱、銅箱、木箱、木箱、銅箱、銀箱、木箱、木箱だ。


「よし! 銀箱! 俺はこいつを変える! 金に変える! 来い! 【精霊花の蜜】! 来い! 来い! 来いぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」


 きらりと銀箱が光り金箱へと変化する。


「よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉしっ! 蜜! 蜜だ! 精霊花! 来い! 来い! 来いぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 あらん限りの気合と共に開いたその金箱から出てきたのは【MGC強化(大)】だった。


「ああああああああっ! くそっ! くそっ! くそっ!」

『おめでとう! ディーノっ! やったね! 魔力がかなり上がったよ!』

「フラウ……。でも【精霊花の蜜】じゃ……」

『いいよっ! ディーノがこうして神引きしてくれてあたしは嬉しいんだっ!』

「フラウ……」


 ああ。フラウはなんて優しいんだ。自分のことよりも俺のことを……。


 そうだ。思い返してみればフラウは俺のために自分の命を犠牲にしようとしたことだってあったじゃないか。


 それに今だってこうして俺が強くなることを望んでくれているんだ。あれほど楽しみにしていた蜜をさておいて!


 それならっ!


 ここで引いてやらねば男が廃るってもんだ!


「任せろ! まだ百八十連もあるんだ。しっかり決めきってやるからな」

『うん! 楽しみにしているねっ!』

「ああ!」


 俺は残りの箱を開けると次の十連を引いていく。


 爆死だった。


 その次の十連も、さらにその次も爆死だった。


『ディーノ? 大丈夫?』


 フラウが心配そうに俺のことを覗き込んできた。きっと俺のメンタルを心配していくれているのだろう。


 たしかに今までの俺は爆死が続くとすぐに後ろ向きになっていた。


 たがっ! 今の俺は違う。フラウの優しさを理解し、その優しさに応えるために強くなったのだ。


 こんな程度でへこんだりなんかしない。


「大丈夫だよ。俺は絶対に【精霊花の蜜】を引いてやるから」

『うん。ありがとう。ディーノ』

「ああ。任せろ』


 そう言った俺は、再びガチャを引くボタンをタップしたのだった。


================

果たして盗まれた蜜を取り戻すことができるのか? 次回、堂々決着の時!


と、本編風の次回予告を入れてみました(笑)


次回は 3/9 (火) 21:00 更新予定となっております。

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