第二章第14話 攻略再開

2021/03/08 人物名の取り違えを修正しました

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 素晴らしい誕生日となった翌日はゆっくりと休んで英気を養った。そしてさらにその翌日、俺は再び迷宮前の拠点へと戻ってきた。


「やあ、待っていたよ。ディーノ君。ゆっくり休めたかい?」


 俺を待っていてくれたらしいカリストさんが笑顔で出迎えてくれた。


「はい。おかげさまで。しっかり魔物を倒して稼ぎますよ」

「はは。やる気満々なようで何よりだよ。それじゃあ、行こうか」

「はい」


 こうして俺たちは世間話もそこそこに地下の前線基地へと向かって歩き始める。


「今、状況はどんな感じですか?」

「あまり変わらないかな。ただ、ギルドはようやく教会に掛け合ってくれたとは聞いたよ」

「今までやってなかったんですか?」

「そうらしいよ。ただ、教会に寄付するよりも高い金額を僕たちが要求したからだろうね。それでやっとだよ」


 カリストさんはそう言ってうんざりした表情を浮かべた。


「はぁ……」


 曖昧に返事をした俺は支部長の事を思い出した。


 たしか、トーニャちゃんの弟だったな。それから何故か俺がガチャで引いた武器や防具を寄越せと言ってきたんだった。


 む、なんだか思い出したら少し腹が立ってきたぞ。


「経緯はアントニオさんから聞いているからそんな顔になるのは仕方ないんだろうけど、あんまり喧嘩しない方が良いよ? あの人はアントニオさんをこの町に置いておきたい領主様の意向で支部長になった人だからね」

「え?」

「アントニオさんほどの人は中々いないからね。王都に行けばもっと稼げた人なのに、こんな田舎町にいつまでもいてくれたことを疑問に思わなかったかい?」

「それは……。言われてみればそうですね」

「だから、あの人も色々と大変なんだよ。特に、アントニオさんが引退してしまったからね。忙しいだろうし、お金のやりくりも大変なんだと思うよ」

「なるほど……」


 支部長にしてもらった理由がなくなれば立場も危うくなる。となると、それを理由に貰えていたお金が貰えなくなった、といったことだろうか。いや、立場を守るためにお金が必要になったのかもしれない。


「ま、だからといって僕たち『蒼銀の牙』にボランティアをしろというのは筋が通らないからね」

「それで吹っ掛けたんですか」

「そういうこと。僕たちが降りてしまえばクビになるのは確実だろうからね」

「それはそうですね。お金を払わなかったなんて話が広まったら誰も仕事をしなくなりますからね」

「ああ。そういうことだね」


 そんな話をしながら歩いていると、俺たちは地下二階の前線基地に到着した。


「あ! ディーノくん! こっちこっち!」


 そんな俺を目ざとく見つけたルイシーナさんが手を振って呼んでいる。俺たちはそんな彼女のところに歩いて行くと、リカルドさんとメラニアさんがやってきた。


「よう。ゆっくり休めたか?」

「はい。おかげさまで。あ、メラニアさん。もしかして疲れてませんか?」

「ええ……そうですわね。わたくしもこのところずっと休む暇もありませんでしたの。今日はもう上がらせてもらいますわ」

「お疲れ様です。ゆっくり休んでください」

「ええ……」

「早く来てくれると良いですね。教会の人」

「そうですわね……」

「三人とも、僕はメラニアを上まで送ってくるから準備していてくれるかい?」

「わかりました」

「おう。ちゃんと送ってやれよ」

「もちろんだよ」

「それでは、失礼しますわ」


 こうしてカリストさんは体調の悪そうなメラニアさんをエスコートして再び地上へと向かったのだった。


◆◇◆


「よう。休みは何してたんだ?」

「ゆっくりしました。タグの更新をして、それからちょっとガチャも引きましたね」

「おお。あのウンコか」

「もう馬の糞は勘弁してくださいよ」

「んなこと言ったってウンコが出まくりなのは変わらねぇだろが」


 リカルドさんはそう言って豪快に笑った。


「それで、何か良いものは手に入ったの?」

「【槍術】が出ました。でも俺は剣を使うんで関係なかったですけど」

「まあ、凄いじゃない」

「やっぱりスキルが手に入るのはすげぇよな」

「そうですね。でも、俺としては剣術をレベルアップしたかったんですけどね」

「あとは何だ? ウンコか?」


 あの悪臭を思い出すのであまりウンコを連呼してほしくはない。


「あとは、そうですね。なんか、うちの妖精の食べ物? らしいのが出ましたね。俺らは食べると良くないらしいですけど」

「ああ、そういえば言ってたな。妖精がいるって」

「妖精の食べ物ってどんなものなの?」


 リカルドさんは興味なさそうだがルイシーナさんは興味があるようだ。


「なんとかの蜂蜜、だったかな?」

『精霊花の蜜、だよっ!』


 近くにいたフラウからすかさずツッコミが入る。


「ああ。精霊花の蜜、だそうです」

「精霊花の蜜!? あの伝説の!?」

「知っているんですか?」

「一部で有名なのよ。精霊界にしか生えないという精霊花の蜜はものすごく美味しいって」

「ん? 妖精以外は飲んじゃダメって聞きましたよ?」

「そうなの? でも、古い書物によると飲んだ人がとても気に入ったって書いてあるそうだけれど……」

「(どうなんだ? フラウ?)」

『知らないよー。妖精以外が飲むとダメって聞いただけだもん』

「なるほど……」

『あ、でもあげないよっ! あの蜜はあたしのだからねっ!』


 小さな瓶に小分けにして一部を持ち運んでいるフラウは、持っているその瓶を隠すようにしてそう言った。なお、どういう仕組みなのかは知らないがフラウの持ち物も他人には見えていない。


「(分かってるよ。フラウ。取らないから)」


 俺はそう答えてからルイシーナさんに向き直る。


「うちの妖精も、なんでダメなのかは知らないそうです。ただ、すごく楽しみにしているので……」

「そう。でもまた出たら少し分けて欲しいわ」

「うーん。でも食べちゃダメって説明にも書いてありますし……」

「それじゃあ、仕方ないわね……」


 こうして他愛もない会話をしていると、メラニアさんを地上に送り届けたカリストさんが戻っていた。


「お待たせしたね。準備は良いかい?」

「はい」


 俺たちは第三階層へと向かって歩き始めたのだった。

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