第二章第5話 引退

 いやはや、なんとも気持ちのいい朝だ。勝利の余韻に包まれて眠る夜も良いが、その翌日の爽やかな朝というのも気持ちいものだ。


 だらしなく大口を開け、よだれを垂らしながら寝ているフラウを残して俺は朝食の準備をする。今日はオートミールと干し肉のリゾットだ。


 貧相だと思うかもしれないが俺たちはこんな感じの食事が普通だし、そもそもしばらく戻ってきていなかったから保存食しか残っていないので仕方がない。


 俺は料理をしながら自分のステータスを開いて確認し、それを眺めては一人ほくそ笑んだ。


────

名前:ディーノ

種族:人族

性別:男性

職業:冒険者(E)

年齢:13

ギフト:ガチャ


ステータス:

HP:3/3

MP:2/2

STR:3

VIT体力:7

MGC魔力:2

MND精神力:1

AGI素早さ:6

DEX器用さ:2


スキル:

剣術:2

体術:1

弓術:1

杖術:1

水属性魔法:2

火属性魔法:1

風属性魔法:1

────


 そう、見ての通りついに俺の VIT体力AGI素早さがギフト持ちのスタート地点を超えたのだ。しかも三属性の魔法持ちだ。


 そのうえ俺の装備は凸の付いた断魔装備がフルセットだ。このまま鍛えつつガチャを引き続けていけば一流冒険者も夢ではないのではないだろうか?


 それに断魔装備ガチャも気付けばあと八日だ。つまり今回コンプできなければおそらく盾は手に入らなかったと思われるので、ギリギリのこのタイミングでこうしてコンプできたこと本当に運が良かったと言えるだろう。


「それにしてもあっという間だったな」

「何が~?」


 振り返るとフラウが寝ぼけまなこを擦りながらこちらにフラフラと飛んできた。


「ああ、おはよう。断魔装備ガチャが実装されてもう二か月近く経つんだなって思ってな」

「おはよ~。そっかぁ。もうそんなに経ってたんだね。でもコンプできたから良かったじゃない」

「そうだな。フラウのおかげだ」

「も~。そんなにおだてても何もでないよ~? それよりもご飯まだ~?」


 フラウはまだふわふわしている様子だ。どうやらまだまだ寝足りないらしい。


「はいはい。すぐにできるから待ってろ」

「ん~」


 そう言ってフラウはテーブル上に腰かけるとまたそこで船を漕ぎ始めた。


 ここでふと疑問が浮かんだ。


 そういえば、フラウは迷宮の中では何も食べていなかったような?


 そう思った俺はフラウの分の朝食を山盛りにしてやる。


「おい。フラウ。できたぞ」

「あ、ご飯。ありがとー」


 急にシャキッとした様子になったフラウはパクパクとオートミールを口に運んでいき、そして瞬く間に自分の体ほどあった食事を全て食べきった。


「おかわりっ!」


 室内にフラウの元気な声が響き渡るのだった。


****


「セリアさん、おはようございます」

「あら、おはようございます。ディーノさん。早速お仕事ですか? 少しはお休みになられたほうが……」

「一応顔だけは出しておこうと思いまして」

「その割にはフル装備じゃないですか。あ! 盾が!」

「はい。昨日の報酬で引いて盾が出ました」


 俺がそう報告するとセリアさんの表情が雲った。


「ディーノさん? もしかして全部使ってしまったんじゃないでしょうね?」

「そ、そんなことないですよ。ちゃんと、使い切らずに盾を引いたら撤退しましたから」

「……それなら良いですが、注意してくださいね? 冒険者は危険と隣り合わせなのですから、一生暮らせる分のお金をきちんと貯めてください。アントニオさんだって、あっ」


 セリアさんはそう言って口をつぐんでは慌てて顔を伏せた


「え? トーニャちゃんが? トーニャちゃんに何かあったんですか?」

「いえ、その……」


 すると後ろからトーニャちゃんの呑気な声が聞こえてきた。


「あらン? ディーノちゃんじゃない。あたしに会いに来てくれたのン?」

「トーニャちゃん?」

「そうよン。どうしたのン? あたしとイイコト♡したくなったのン?」


 普段通りの様子に見えるが……。


「あの、セリアさんがトーニャちゃんに何かあったったって……」

「あらン? 言っちゃダメじゃないのン」

「す、すみません。アントニオさんと深いご関係のディーノさんでしたのでつい、危険と隣り合わせなので貯金をして下さいと……」


 セリアさんはそう言って申し訳なさそうに頷いた。


「そう。ま、どうせすぐに公表するんだからいいわねン。あたし、引退するのよン」

「え?」

「ちょっと傷が深かったのよ。メラニアちゃんのおかげで命は助かったんだけど、戦うのはもう無理そうなのよねン」

「そんな……」


 トーニャちゃんがそんなことになっていたなんて!


 だが思い返してみればたしかにどうして助かったのか分からないレベルの重傷だったような気はする。


 それを考えればこうして命が助かったことを喜ぶべきなのかもしれないが……。


「だ・か・ら、これからは若くて可愛いオトコノコをイイオトコ♡にするお仕事をすることにしたのよン」

「アントニオさん。男の子だけではなく女の子もですよ」

「あらぁ。わかってるわよン。女の子にも一応教えるわよ」


 口ではそうは言っているがトーニャちゃんの表情は随分と嫌そうだ。


「アントニオさん!」

「はいはい。分かってるわよン。じゃあ、またね、ディーノちゃん♡」


 そうしてトーニャちゃんは俺にウィンクをするとギルドの奥へと歩いて行ったのだった。


「そうだったんですね……」

「はい……。アントニオさんほどの方でも一度の事故でこのような事になってしまうのです。ですので、きちんと貯金を心がけてくださいね」

「はい……」


 あのトーニャちゃんですらそうなってしまったという現実を見せつけられると、何も言い返せなくなってしまう。


 確かに俺は調子に乗って使いすぎてしまったかもしれない。


 よし、断魔装備をコンプしたのだからしばらくは無課金でしっかり貯金を作ろう。


 そして、余裕ができたらその時の余ったお金でガチャを引こう。


 俺は心の中でそう決意する。


「あ、そうそう。ところでですね。ガチャで出た鉄の鎧とかの不用品を売ろうと思うんですけど、どこかで買い取って貰えませんか?」

「それでしたら、当ギルドで買い取りますよ。以前こちらでギフトをお使い頂いた時の記録を元に買い取りの目安金額を作成しておきました」


 そう言うとセリアさんは棚の中から書類を取り出して見せてくれたが、俺はその買取価格を見て目を丸くする。


 う、安い。


 予想はしていたが、やはりかなり安くなってしまうようだ。


「すみません。元の値段が高いことは承知しておりますが、鎧やブーツなどはサイズの問題もあり修繕が必要となってしまいますので、あまり高く買い取ることは難しいのです」

「そうですか……」


 だが、言われてみればそれもそうだ。


「わかりました。後で持ってくるので買い取ってもらえますか?」

「はい」


 こうして俺は不用品をギルドに買い取ってもらうため、家へと戻るのだった。

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