第52話 食料危機とガチャ

 その後、もう一回ガチャを引いた俺は『☆3 とろとろ牛すじ煮込みカレー』が出てようやく食事にありつけた。


 ありつけたのだが……その前に引いた馬の糞のせいでこの絶品カレーに妙な先入観を持ってしまったのは言うまでもない。


 それともう一つ、非常に重要なことをカレーを食べる段階になって気付いた。


 そう。もう気付いているかもしれないがこのカレー、カレーなのにライスが無いのだ。


「(なあ、フラウ。もしかしてこのガチャ、ライスは出ないのか?)」

『えっ? ……ライ……ス?』


 俺にそう聞かれたフラウの視線は宙をさまよう。


『あ、えっと、えっとね?』

「……」

『……えへへ、失敗しちゃった』


 そう言ってフラウは誤魔化すようにてへぺろと可愛い仕草をする。


「(……今からライスを追加することは?)」

『ごめんね。もう無理なの。あ、でも、ほら! 冒険者ガチャと断魔装備ガチャには堅パンもあるしさ。ね?』

「……」


 まあ、仕方ないか。☆3一点狙いというのも中々に奇妙な状況ではあるが背に腹は代えられない。


 そう気を取り直した俺は手持ちの堅パンを牛すじ煮込みカレーに浸すと先入観を振り払って口に運んだ。


 あ、うまいな。これ。先入観さえなければ最高のカレーだ。さすが☆3、まるで三ツ星レストランの料理のようだ。


 まあ、俺は前世でも今世でも三ツ星レストランなんて行ったことないけどな。


****


 それから四日が経ち、俺たちは第十一階層までやってきたのだが、ついにこの時がやってきてしまった。


 そう、俺たちの携帯していた食料が尽きようとしているのだ。


 魔物の肉を食べようにもここは迷宮の中だ。そのため魔物を倒せばすぐに魔石だけを残して消滅してしまう。そう、つまり迷宮内で食料を確保することはできないのだ。


「んー、まずいわねン」

「こうなったら安全を考えずに突撃するしかないんじゃないですかい?」


 トーニャちゃんに対してリカルドさんがそう提案する。


「リカルド、先の長さが分からない状況だとそれは厳しいんじゃないかな?」

「じゃあどうしろって言うんだ?」

「今まで通り、安全に配慮しながら着実に進むべきだと僕は思うよ」


 カリストさんとリカルドさんの意見が対立して議論を始めてしまい、俺もそのやり取りを聞いて少しイラっとしてしまった。やはり腹が減るとイライラが募ってしまうのは本当のようだ。


「お二人とも、こんなところで喧嘩をしてはいけませんわ」

「そうよ。状況を考えなさいよ」

「ああん? じゃあ二人はどうするべきだって言うんだ?」

「そういう話じゃないわよ。まず喧嘩をやめなさいって言っているのよ」


 メラニアさんとルイシーナさんが諫めてくれるがリカルドさんはそのルイシーナさんとも言い争いを始めてしまう。


『ほら! 早くガチャを引こうよっ! それで解決だよ?』

「あー、それもそうか」

「ディーノ! 何がそうなんだ!?」

「そうよ! ディーノくんもこんな余計な言い争いはしない方が良いと思うわよね!?」

「お二人とも、落ち着いて下さいませ」


 俺がフラウに言った言葉が聞こえたらしいリカルドさんの矛先が俺に向き、そしてルイシーナさんまでもが乗っかってきてメラニアさんがそれをたしなめる。


「あ、ええとですね。確率は低いんですが、俺のスキルで堅パンが出せるかもしれないんですが……」

「何だと!? あの 10 マレで馬の糞が出てくるアレか!?」

「いや、まあ、そうなんですが別の奴もあるんです」

「ああ、そういえばディーノちゃん。ギルドで堅パンと干し肉を出していたわねン」

「アントニオさん! それは本当ですかい?」

「ええ。ただ、随分と高い買い物になるわよン。確か二百回買っていくつかだったわよねン」

「二百回ってことは、2,000 マレか? そんくらいなら払うぞ!」

「いえ、そうではなくあっちのガチャは 54,000 マレかかります。運が良いとこの剣が買えるガチャの残念賞の枠に堅パンが入っているだけなんです」

「……ツケはできねぇのか?」

「お金を入れないとダメなんで無理です。俺もそんなに手持ちが無いですし……」

「……」


 俺がそう言うとリカルドさんは黙ってしまった。するとトーニャちゃんが口を開く。


「背に腹は変えられないわねン。これでガチャを引きなさい」


 そう言ってトーニャちゃんは懐から見慣れない硬貨を六枚取り出した。


「これは?」

「これはミスリル貨よン。これ一枚で 10,000 マレの価値があるわン」

「……いいんですか?」

「死んだら何にもならないもの。ただし、生きて帰れたら精算よン。リカルドちゃんたちもいいわねン?」

「……ああ」

「僕たちは問題ないですよ」

「じゃあ、決まりねン」


 俺はトーニャちゃんから生まれて初めて見るミスリル貨を受け取ると『断魔装備ガチャ』のチケットを二百連分購入した。


────

〇チケット購入


・断魔装備ガチャチケット × 1 枚:300 マレ [購入する]

・断魔装備ガチャチケット × 10 枚: 2,900 マレ [購入する]

・断魔ガチャチケット × 100 枚: 27,000 マレ [購入する]


保有チケット:

 ・冒険者ガチャ:200 枚

デポジット:

 ・6,000 マレ

────


「あれ? お釣りが出ない?」

『出ないよっ。でも次回に買う時にちゃんと使えるから安心してねっ』


 なるほど。そういうことか。


「お釣りが出ないならそれも帰ったら精算よン」

「あ、はい。分かりました」


 俺はトーニャちゃんにそう返事をすると大きく息を吸い込んでガチャに集中する。


「じゃあ、行きます!」


 俺はガチャの画面に戻るとガチャを引くボタンをタップするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る