第48話 トラップ

2021/01/21 魔物の珍しさの表記の誤りを修正しました

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 ついに第二階層の通路を突破した俺たちは部隊を二つに分けた。一つはこの危険なエリアで湧いたゴブリンを狩って制圧した状態を維持する部隊、そしてもう一つはその先にあるホールの調査をする少数精鋭の部隊だ。


 俺はトーニャちゃんや『蒼銀の牙』の皆さんと一緒にホールの調査をする部隊に選ばれた。ここの制圧状態を維持する部隊は既に第一階層で浄化作業をしている領主軍へ連絡に向かっており、トーニャちゃんと『蒼銀の牙』という二大戦力を前に出したとしても退路の確保には問題ないはずだ。


 回収した魔石の入った袋を残る部隊に預けた俺たちは通路を抜けてその先へと慎重に足を踏み入れた。


 なるほど。確かにフラウの言う通りその先はホールのような場所になっており、その広さは第一階層のものよりも少し狭いように見える。


 そしてランタンの灯りに照らされたホールの先には扉があり、その両脇には蝙蝠のような巨大な羽を持ち醜悪な姿をしたいかにも強そうな石像が一体ずつ飾られている。


 怪しい。


 あれはやっぱり動くんじゃないだろうか?


 そう思って俺は足を止めるがトーニャちゃんたちは気にした様子もなく歩いて行く。


「え? 大丈夫なんですか?」

「ん? 何がだい?」

「その石像、動いたりしないんですか?」

「ははは。まさか。迷宮の核には罠を作る知能なんて無いからね。さっきのエリアみたいにたまたま厳しい地形が生まれることはあっても石像に擬態した魔物を配置するなんて事は今までどんな迷宮にだってなかったよ」

「……そう、ですか」


 どうにも腑に落ちないがカリストさんが言うならそうなのかもしれない。


 俺が無理矢理納得して進もうとするとトーニャちゃんが立ち止まった。


「んー、そうねン。ディーノちゃんがそう言うなら、先制攻撃しちゃいましょ」

「え? 罠は無いんじゃ?」

「そうねン。今までは無かったわン。でも、今回も無いとは限らないでしょ? 冒険者なら、不安があるならそれを必ず解消せずに先に進む決断をしちゃダメよん」

「……はい」

「カリストちゃんも、ダメじゃない。こんなにいたいけなオトコノコが不安がっているんだから、きちんとエスコートしてあげないとダメよン」


 そう言っていつの間にかカリストさんの隣に立っていたトーニャちゃんはカリストさんに触れるか触れないかのギリギリの距離に立ってカリストさんの顔を覗き込んだ。


「あ、は、はい。アントニオさん」


 さすがのカリストさんもトーニャちゃんには頭が上がらないらしく、タジタジになっている。まあ、タジタジになっているのは距離が近いからでもあるとは思うが。


 そしてまたいつの間にか俺のそばに戻ってきたトーニャちゃんが今度は俺に密着してきた。


「それじゃあ、ディーノちゃん。修行の成果を見せちゃいなさい」

「え? 俺ですか?」

「そうよン。ディーノちゃんのその素敵な剣であの怖い石像を倒しちゃいなさいン。教えた通り、腰を意識するのよン」


 そう言ってトーニャちゃんは俺の腰を微妙な手つきで触ってきた。今回は断魔の鎧を着ているおかげで背筋に悪寒が走ることは無かったので何とかなりそうだ。


「わかりました」


 俺はそう答えると断魔の聖剣を抜き、そして一気に距離を詰めると左側の石像を袈裟斬りにする。


 音もなく豆腐のように切れた石像はそのまま地面に転がり、そしてあっという間に魔石を残して消滅した。


「え? 魔物!?」

「ディーノちゃん、避けなさい!」


 魔石になったことに驚いて反応が遅れてしまった。


 俺が顔を上げると右側の石像が動き出しており、そして口を大きく開いていた。


 そして口から灰色のブレスが俺に向かって放たれた!


「うわっ!」

「ディーノちゃん!」「ディーノ君!」


 俺はそのブレスをまともに受けてしまった。


 トーニャちゃんが動いている石像に攻撃を仕掛けるがひらりと躱したそいつは宙へと舞い上がる。


「このっ! よくもディーノくんを!」


 ルイシーナさんが水の矢を撃ってそいつに追撃するがひらりひらりと躱されて距離を取られてしまう。


 そしてメラニアさんがリカルドさんに守られながら大慌てな駆け寄ってきた。


「ディーノ様!」


 メラニアさんが切羽詰まった様子で俺に魔法を掛けてきた。


「あの? メラニアさん?」

「え? あれ? ディーノ様? どうして石化していなんですの?」

「え? 石化?」

「あれはきっとガーゴイルですわ。ガーゴイルは石像に擬態するとても珍しい魔物で、その石化のブレスを受けた生き物は石にされてしまうのですわ。迷宮でガーゴイルが出るなんて……」

「そ、そうだったんですか……」


 どうしてだろうか?


『ちょっとー! その宝冠のおかげに決まってるでしょー! それを被っていればガーゴイルみたいな悪魔系の敵からの状態異常は 50% の確率で無効化されるんだよっ!』


 おお! なるほど!


「どうやらこの断魔の宝冠のおかげみたいです。運が良ければあいつからの状態異常攻撃が無効化されるんでした」


 俺がそう言うと明らかにメラニアさんは驚いたようなホッとしたような表情を浮かべた。


「それは……良かったです」

「はい。ありがとうございます」


 俺は立ち上がるとガーゴイルに向けて剣を構えた。


 だが、空を飛んでいるガーゴイルに攻撃を当てる方法がさっぱり思いつかない。


 これ、一体どうやって倒せばいいんだ?

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