運を天に任せて成り上がり!
一色孝太郎
第一章
第1話 ハズレギフトと堅実な人生、そして別れ
俺の名前はディーノ。今年で十四歳だ。俺はここサバンテの町で建設作業員として働いている。両親は去年、流行り病で仲良く逝ってしまったので一人暮らしだ。
ちなみに、去年の流行り病はかなりの住人の命を奪い取っていったのでこの町では俺のような境遇の人間は大して珍しいものではなかったりする。
さて。突然だが俺は今日、神殿で新成人を祝う成人の儀に参加してギフトを授かってきた。授かったギフトは何と『ガチャ』だ。どうやらこの『ガチャ』というギフトは誰も授かったことがないらしく、神官様もどんなギフトなのかは知らなかったのだが、俺はこれが何なのか理解できる。
というのも実は俺には前世の、日本人のサラリーマンだった時の記憶があるのだ。ただ、記憶があるといっても前世のころの名前や年齢はおろか性別すら覚えていない。
だが、ガチャの事だけは鮮明に覚えている。前世の俺はとあるソシャゲのガチャに有り金を全ツッパしただけでは飽き足らず、そのガチャを更に引くために借金に借金を重ねてしまった。そして最後は良くないところから大量に借りてしまい、臓器を売らされた挙句に保険金目的で殺されてしまった。
だから俺は心に決めたのだ。今世ではもう、ガチャは引かない、と。
せっかく授かったギフトだが、せっかくこうして転生できたのだから今度こそは堅実な人生を歩みたいのだ。
「ちょっと! ディーノ!」
俺が家に帰るために歩いていると後ろから声をかけられた。こいつは俺の腐れ縁の幼馴染のエレナだ。燃えるような赤い髪に気の強そうな青い瞳が特徴の、いわゆる黙っていれば美少女というやつだ。
「何一人で帰ってるのよ。あんたはあたしのモノなんだから、ちゃんと待ってなさいよね」
「……ああ」
俺は何となく返事を返す。
このやり取りを聞いていて分かると思うが、俺はこいつが苦手だ。遠慮というものを知らずにずかずかと土足で踏み込んでくるとうえにすぐに手が出る。
「何よ。その返事は。あたしは今日『剣姫』のギフトを授かったの。どう? すごいでしょ?」
自慢気に胸を張ると俺にドヤ顔を見せつけてくる。
「ああ、すごいな」
「そうでしょうそうでしょう。あたしの未来はこれでバラ色よ。もう王都の高等学園からお誘いがかかっているのよ? 卒業したら騎士団に入るのもいいし、冒険者になって上を目指すことだってできるの」
「ああ、そうだな。すごいな」
「そうよ。あたしはすごいのよ。何の役に立つのかも分からないあんたの『ガチャ』なんかとは違うのよ」
「ああ、そうだな」
俺は自慢を聞くのが面倒になったので適当に相槌を打つ。
「だからね。あんたはあたしの召使いにしてあげるわ。あたしの召使いとして、高等学園に一緒に来るのよ」
「ああ……ん?」
危ない。危うくそのまま頷くところだった。
「ありがたいお誘いだが、俺は遠慮させてもらうよ」
「そうよね。やっぱりあんたもあたしと一緒に来たいわよねって、ええっ?」
肯定されると信じ切っていたエレナは驚きの声をあげる。
「いや、俺はハズレギフトだからエレナについていくのは無理だろう。素直にこのまま建設作業員を続けて堅実な人生を送ることにするよ」
「な、な、な……」
断られることなど微塵も考えていなかったらしいエレナは顔を真っ赤にしてわなないている。
あ、これはまずいやつだ。
そう直感した俺は衝撃に備えて歯を食いしばる。
「ディーノのバカー」
そしてエレナの神速のストレートが俺の顔面を襲い、俺は数メートルほど吹っ飛ばされた。
「もう、あんたなんか知らない!」
目の前にちかちかと星が散る中エレナはそう言って走り去っていったのだった。
****
ギフトを、そしてエレナの拳をもらった翌日もきっちりと仕事をこなして心地よい疲労の中帰途についていた。今はまだ一月も半ばということで寒たい風が凍えるように冷たいが、きっちりと仕事をしたという満足感は何とも心地よい。
ちなみに最近の仕事は
この世界には魔物が存在しており、しかもかなり凶暴な上に高い頻度で町を襲ってくるのだ。そのため、町を外敵から守るための街壁は生命線と言って良いだろう。だからこうして痛んだ街壁を修復する仕事が消えることはないので建設作業員は堅実な仕事と言えるだろう。
「おい、ハズレ野郎!」
そんな俺に誰かが俺に声を掛けてきたが無視した。
「おい! ディーノ! 無視すんじゃねぇよ!」
「何だ? フリオ」
名前を呼ばれたので返事をしたが俺はそのまま歩き続ける。
「おい! 呼んだんだから立ち止まれよ! 何勝手に歩いて行ってるんだ!」
そのまま歩き続けた理由はもちろん面倒だからだ。こいつは事あるごとに俺に絡んでくるムカつく野郎なのだ。
「待てよ! お前みたいなハズレ野郎はエレナには相応しくない。エレナから身を引けよ!」
と、まあいつもこんな感じなのだが、俺としても引き取ってくれるならあの腐れ縁の暴力幼馴染を是非とも引き取ってほしい。
根は悪いやつではないのだが、毎度毎度何かしらの暴力を振るってくる女などこちらから願い下げだ。せめて普通に話し合いで解決できる相手が良い。
「おい!」
無視して歩いていた俺はフリオに胸倉を捕まれるとそのまま片手で宙づりにされてしまった。
「なっ!? がっ、く、くるし……」
「俺はハズレ野郎とは違うんだ。もう今までの俺じゃねぇんだよ」
そう言ってフリオは俺を見てニヤリと笑った。
ああ、そういえばこいつは昨日の成人の儀で『戦士』のギフトを貰っていたんだったな。
「エレナから身を引け。分かったな?」
「ぐ、っ……」
答えようにも首が締まって声が出せない。
「おい! 何とか言えよ!」
答えられないのを拒否と受け取ったフリオは更に締め上げる力を強くする。
このままでは窒息する、そう思ったその時だった。
「ちょっと! 何やってんのよ!」
エレナの声が聞こえたかと思うとフリオはパッと俺の胸倉から手を放した。そのまま地面にへたり込んだ俺は激しく咳き込む。
「こいつ!」
その様子をみたエレナは腰に下げていた木刀を一閃するとフリオはまるでマンガのように何メートルも吹っ飛んで行ったのだった。
「フリオ。あたしのモノに手を出したら許さないんだからね!」
そう宣言して木刀をフリオの鼻先に突きつけたエレナに対してフリオはガクガクと首を縦に振る。
いやいや。助けてくれたことはありがたいが俺はお前のモノになった覚えはないぞ?
「ディーノ。これでもう分かったでしょ? あんたのギフトはハズレなんだからフリオみたいな雑魚にも勝てないのよ。だから、あたしの召使いとして一緒に来なさい。分かったわね?」
「いや、だからそれは断る」
「どうしてよ! 何でダメなのよ!」
「いくら腐れ縁とはいえ、召使いはごめんだ」
「ディーノのバカー!」
昨日と全く同じように神速のストレートが俺の顔面を襲い、俺は数メートルほど吹っ飛ばされた。
いや、昨日よりも長い距離を吹っ飛んだかもしれない。
そんなことを思いながら俺は走り去るエレナを見送ったのだ。
エレナが見えなくなったのを確認した俺は家に帰ろうと立ち上がった。すると今度はフリオから恨みがましい目で俺の前に立ちはだかった。
「おい、フリオ。俺は帰るからどいてくれ」
「……ディーノ。お前エレナの誘いを断ってんじゃねーよ!」
そう叫んだフリオに俺はストレートをまたも顔面にくらい、その場に
一体どこをどう見たらそんな結論になるのか理解ができない。
「いや、お前。エレナから手を引けって」
「うるさいうるさいうるさい!」
そう言ってフリオは何度も俺を殴ると俺から立ち去って行ったのだった。
くそっ! お前は俺に一体どうしろというんだ?
****
成人の儀から一週間が経過した。
あれから毎日のように俺に召使いになれと言ってきたエレナが今日は来なかった。俺としては無駄に殴られる事が無くなるのでありがたい。
フリオの奴もあれ以来俺に何も言ってこなくなったが、それと合わせるように他の知り合いとも一気に疎遠となった。
やはり俺のギフトがハズレだという事が大きいのだろう。というのも、この世界においてギフトと言うものは人生を大きく左右するものだ。フリオのように『戦士』のギフトを授かっただけでいきなり力が強くなるのだ。他にもギフトに関連して【剣術】などの戦闘に関する色々なスキルが身に着くようになるのだ。
このギフトを活かせるかどうかでその人の人生は大きく変わり、活かせた人は成功者になる可能性が高いし、ハズレギフトを受け取った人は負け犬になる可能性が高いのだ。
その理由は単純で、ギフトを持っている人にギフトをもたない人が勝てることなどまずあり得ないからだ。
だから、『戦士』のギフトを持っているフリオは戦いに強くなるので冒険者や傭兵、場合によっては騎士にもなれる可能性がある。一方の俺のようなハズレギフトを持っている者は誰でもできる仕事をして生きていくことになるのだ。
要するに、将来が無い俺を知り合いたちは見限ったという事なんだと思う。まあ、それはこの世界の常識なので仕方がないし、そんな程度の事で見限るようなやつを俺は友達だとは思わないが。
あ、まあ、エレナは見限っていないし俺の事を一応心配をしてはくれているのだとは思うが、さすがに毎日殴られるのは勘弁願いたい。
そんな事をされるくらいなら俺は自分の力で堅実に生きていきたい、そう思うのだ。
****
それから更に一週間が経った。今日は雨が降っているので街壁修復の仕事はお休みになったので家の中の掃除をして過ごしていると、突然ドアがノックされた。
こんなに朝早くから一体誰だろうか?
そんな疑問を抱きつつドアを開けると、そこには傘を差したエレナの姿があった。俺は身構えつつも室内に招き入れると椅子に座らせた。
「悪いな。今掃除をしていたから散らかっていて」
「いいよ……」
そう言ったエレナにいつもの元気は無く、無言で椅子に座っている。
「どうしたんだ? こんな雨の日に」
俺が尋ねてもエレナはじっと机を見たまま俺と視線を合わせようとしない。
それからしばらくの間沈黙が支配し、意を決したようにエレナがそれを破った。
「あのね。あたし、今日のお昼の馬車で王都に向かうんだ」
「……そっか」
「……ディーノは、寂しくないの?」
「そう、だな。多少は寂しいかもな」
「ならさ。もう一回だけ言うけど、あたしの、召使いになって一緒に来てよ」
いつになく殊勝な態度だと思ったが結局要求はそれだった。
「だからさ。前にも言ったけど、召使いにはならないよ」
「どうしてよ。ディーノはハズレギフトなんだよ? このままじゃ……」
俯いているためエレナがどんな表情をしているのかはわからないが、きっと心配してくれているのだろうという事はわかる。
「その、さ。心配してくれるのはありがたいけど、召使いはやっぱりイヤだからさ。俺は俺で、自分で生きていきたいんだ」
「……そう。わかったわ。これからあたしが王都で活躍して大金持ちになって、それから召使いにして下さいって頼んだってもう遅いんだからね!」
「ああ。わかってるよ。サバンテからエレナの活躍を応援しているよ」
「……バカ」
小さな声でそう呟いたエレナは顔を伏せたまま立ち上がるとそのまま俺の家から飛び出していった。腐れ縁のエレナがいなくなるのはやや寂しい気もするが、こうした方がお互いに取って良いはずだ。
召使いがイヤだとか、毎日の暴力はイヤだという事はもちろんあるが、そもそもエレナは俺をそばに置いておくべきではない。
『剣姫』のギフト持ちであるエレナに対して俺のギフトは『ガチャ』なんていう人生を破滅に導くギャンブルのハズレギフトなのだ。ハズレギフト持ちを囲っていると言われた時点でエレナは低くみられるだろう。
だから、そう。これでいいのだ。
それからエレナは何も言わずに王都へと旅立って行ったのだった。
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