太陽と緑のマンドラゴラ劇場

満堂 豪(72)の場合

 マンドラゴラ農家の朝は早い。寒空にイヤーマフを付け、早朝5時の土に触れるのだ。

 鉄条網に囲まれた畑を眺め、満堂豪(72)は我々取材班にしみじみと語る。


「この辺一帯がな、マンドラゴラ畑だったんだよ。昔は珍品として売れるから〜って理由で専業農家がたくさん居たんだが、今は数えるほどしか居ねぇ。この鉄条網だって、自腹だ」


 他の畑を見れば、猪や猿などの害獣対策に電気柵を設置していた。なぜここだけが鉄条網なのか訊ねると、満堂氏は呆れながら語る。


「馬鹿お前、畜生がマンドラゴラなんて狙うわけねぇだろ? 抜こうとすれば叫ぶし、葉は食えたもんじゃない。奴らは、俺ら人間より賢いんだよ」


 白い息が、外気に混じって溶けていった。やはり、人の手による被害が多いのだろう。取材の申し出を行った時から、どこか刺々しい声色は変わらない。


「その辺、この前来たやつ埋めたところだ。踏むなよ?」


 飛び出した白骨を蹴り、彼はそこに唾を吐いた。何が埋まっているのかは聞く気になれない。


 満堂氏は作業服にゴム長靴を履く、標準的な農家のスタイルだった。イヤーマフは防音と防寒を兼ねているのか、身を切るような寒さの中をズンズンと突き進んでいく。時折膝を庇うような動きが気になったが、それ以上カメラが捉えることはできなかった。満堂氏から、収穫中に近づくことを禁止されているのだ。取材班は離れた場所でヘッドフォンの音量を上げ、彼からの合図を待った。


 肌を撫でる不快な衝撃は、ヘッドフォン越しでも感じる。数分後、視界の端で大きくOKサインをする満堂氏を確認した時、まず安心感が先行したのはその為である。

 マンドラゴラは、収穫時に大きな叫び声を上げる。聴いた者を発狂させるとも言われているが、記録に残す手段がないためあくまでも噂だとされていた。満堂氏によると、それは事実らしい。


「だから、未来ある若者を継がせるわけにいかねぇんだよ。ジジババになれば耳も遠くなるし、どうせ死んでも老い先短いから誰も気にしねぇ。まぁ、継ぎ手以外に来る若者は全員畑の下にいるけどな!」


 満堂氏はどこか達観した笑みを浮かべる。最近は度胸試し目的の無断収穫や薬効目的の盗難が目立つらしい。マンドラゴラ農家の窮状を訴えるSNSの投稿が拡散されたことによって、これらの情報は我々の耳にも伝わるようになった。

 同時に、マンドラゴラの薬効が広く知られてきたのも事実だ。製薬会社と専属契約を結ぶマンドラゴラ農家も増え、新たなビジネスモデルとして注目されつつある。


「新規参入者が増えてこの文化が続けばいいんだが、なかなかそうもいかねぇよ。マンドラゴラ栽培は面倒で、掛かる手間も多い。儲かる儲からないの話じゃねぇんだよ。俺らは、誇りを持ってやってるからな……」


 作業場で農具のメンテナンスをしながら、満堂氏は語る。彼はこの小屋で数十年、一人でマンドラゴラ農家を続けていた。飾られている女性の写真を時折眺めながら、自嘲じみて笑うその姿が特徴的だった。


「嫁も娘もマンドラゴラに殺されたんだよ。収穫中の、不慮の事故だった。だが、それでもこれが生業なんだ。儲かりはしねぇし、危険な仕事だ。それでも、育ったマンドラゴラを収穫するときはやっぱり嬉しいんだよな。可愛い奴らだよ……」


 膝を庇いつつ、満堂氏は力強く「生涯現役」だと語った。


 そんなマンドラゴラ農家の満堂氏が愛用しているのは、稲荷製薬の新商品『マンドラDX』!

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「これを飲んでから、朝のつらさも軽減されたよ!」(効果には個人差があります)


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