第26話-2 呼び出し

「マスター、お連れしました」

「おう、ご苦労。あれ、カリンの嬢ちゃんじゃねえか。トマスのおやじはどうした?」

「兄さんと仕入れに出てて、今は留守にしてるわよ」

「そうか、そりゃ悪かったな。そこの男に用があったんだ。嬢ちゃんはもういいぞ」


 そう言ってきたのは、熊の獣人。大柄で厳つい顔だが身なりはいいな。ここの責任者か何かか。


「ユヅキは言葉があまり分からないから、言葉の分かる私の友達も連れてきたわ。でもアイシャに変な事したら許さないわよ!」

「嬢ちゃんは怖え~な。でも助かったよ。ありがとな」


 カリンが厳つい熊獣人と話をした後、振り向いてアイシャと言葉を交わす。


「アイシャ、ごめんだけど、一緒にお願いね」

「ええ、いいわよ」


 カリンは店番がある。先に店に帰った後、俺達ふたりは別の部屋に案内された。応接室なのか、豪華なソファーと低いテーブルがあり、お茶が用意されていた。

 座った俺達の向かいには、マスターと呼ばれていた厳つい熊の獣人が座わり、その後ろには秘書だろうか、白く長い耳を持つウサギ獣人の女性が立っていた。


「俺はジルレシス。ジルでいい。ここのギルドマスターをやっている」

「私はアイシャ。この人はユヅキさんです。で、ご用件は何でしょうか。ジルさん」


 俺を紹介してくれているみたいだが、少し早口で話の内容までは理解できないな。


「実はな、昨日の事なんだが、東の街道に大岩が落ちてきて通れなくなってたんだが。知ってるかい?」

「ええ。詳しくは知りませんが、カリンがそんな事を言っていました」

「その岩の撤去に、ここの領主から正式に依頼が来ててな。誰かを派遣しなきゃなと思っていたんだが、その日のうちに岩は無くなり街道は開通した」


 テーブルの上に地図のような物を広げて、何やら説明しているようだ。


「調べたらトマスとこの息子と人族が門を出て、帰ってきたら街道は通れるようになってたって言うじゃねえか。その後、街道から町に入った商人が、人族が岩を退けたと言っていたそうだ」

「それでユヅキさんを呼び出したのですか」

「ああ、トマスの店に人族がいると聞いたものでな。それに、この件については領主から報奨金が出ている」


 熊獣人がテーブルの上に、お金の入った革袋を置く。


「ギルドに登録している冒険者なら規定通りの報奨金を出せば済むが、他の者となると色々と事情を聴かなきゃならん」


 アイシャと話していた熊獣人が、今度は俺の方を見て話してくる。


「で、ユヅキの旦那よ。どうやってあの大岩を退けたんだ。ひとりか、それとも仲間がいたのか?」

「ユヅキさん・ 昨日・ 岩・ どうやって・ 無くしたの?」


 どうやら昨日の大岩を斬ったことを聞いているようだな。説明しようとしたが、こちらの言葉で分からない単語も多く片言の説明になる。


「岩・ この剣・・ どけた・岩・ 下に落ちた」

「ひとりで?」

「カリン・ 兄さん・ 一緒」

「すみません、ジルさん。剣を使ってカリンのお兄さんと一緒に岩を退けたようですが、詳しくは聞き取れませんでした」

「そうかい。すまないがその剣を見せてくれねえか」


 俺は腰から剣を鞘ごと熊の獣人に渡した。獣人は鞘から剣を抜いて確かめる。


「片刃のファルシオンだな。ここらじゃ見かけねえが、別に変わった剣でもねえな。これをてこにして岩を移動させたということか?」

「どうでしょう。まだあまりこの国の言葉を話せないので」

「最近この国に来た外国人か……こんなプレートは待ってなかったか」

「いえ、そのような物は荷物の中にありませんでした」

「そうか……よし、それじゃあ、この金は旦那に渡すとしよう。手伝ったというトマスの息子と話をして分配してくれ」


 後ろに立っていた秘書らしき獣人が銀貨を10枚重ねたものを6列、テーブルの上に並べた。そのうち6枚をジルの前に置いて、「どうぞ」というように手のひらをこちらに向けてくる。

 受け取れということか。6枚は手数料ということのようだな。


「アイシャ、お金の革袋を貸してくれないか」

「ダメだよ、これはユヅキさんのお金だもの。一緒にできないわ」

「財布が無いなら、こちらから出そうか。オイ」


 秘書さんが真新しい革袋を持ってきてくれた。


「それはサービスだ、受け取ってくれ。また何かあったらこのギルドに顔を出してくれよ。歓迎するぜ」


 俺達はお金を受け取って、冒険者ギルドを後にした。


 ◇

 ◇


「あの人族、大岩を剣で斬ったと報告にはあったが、それほどの達人には見えなかったな。剣も普通の剣だし傷ひとつない新品だった」


 岩を斬る程の達人が持つ剣なら、もっと使い込まれているはずだ。冒険者でもないようだったしな。


「現場には斬ったという岩どころか破片すら無かったらしいし、岩を斬るなど本当かどうかも怪しい。そんな事ができる奴はこのギルド中を探しても居ないだろうな。だが大岩が無くなったのは事実だ。いったいあの男は何者だ」


 隣りに立つ秘書を見やる。


「この町にはつい最近、一度だけ姿を現しています。それ以前の消息は不明です」

「すまんが、もう少し調べてくれんか、ソニア」

「はい。了解しました、マイ・マスター」



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【あとがき】

 改訂前の26話を分割して26話-1、26話-2としています。

 話を追加したため、ハート応援の数が極端に少なくなっています。

 もしよろしければ、ハート応援を押して頂けると大変ありがたいです。


 今後ともよろしくお願いいたします。

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