第33話 クロスボウ
「アイシャ。俺は町に降りて、鍛冶屋の親方にクロスボウを見せに行ってくるよ」
「そうね、完成したら見せる約束だったわね。ひとりでも大丈夫?」
「ああ、山道で注意する場所は覚えているし、鍛冶屋までの道も大丈夫だ。アイシャは町での用事は無いか?」
「そうね。また今度カリンの所に行くし、今は無いわね」
「じゃあ、今日は留守にするが、よろしくな」
前にひとりで行ったときは大イノシシに出くわしてしまったが、見通しの利かない場所を注意して進めば大丈夫だ。
今日はクロスボウも持っているしな。遠距離から攻撃できる武器を持っているのは心強いものだ。
無事山道を降りて町の城門までたどり着いた。門番さんも慣れてきたのか通行料を差し出すと驚きもせず受け取ってくれる。
門を通って、城壁沿いの道を下った先の鍛冶屋に向かった。
「親方いるかい?」
「おう、あんたかい。例の弓はできたのか」
「ああ、今日持ってきた。これが前に言っていたクロスボウだ」
背中に担いでいたクロスボウをカウンターに置く。
「ほほう、変わった形をしているな」
「ここに作ってもらった部品が組み込まれている。この引き金を引くとこいつが動く」
「弓の弦をここに引っ掛けるわけか。なるほど。ちょっとすまねえが、裏で試し撃ちしてくれねえか?」
工房の裏庭に案内されると、そこは広場になっていて試し切り用の木などが何本か立っている。
「この木に的を付けるから、あっちから矢を飛ばしてくれ」
15mほど離れた場所からクロスボウで的を狙ってゆっくり引き金を引く。
矢は中心を外したが、的の端に当たって木の板が割れてしまった。
「なるほど、なかなかの威力じゃねえか。その弓は誰でも扱える物なのか?」
「俺は素人で普通の弓が扱えなくて、こいつを作ったんだ。多分誰にでも扱えると思うぞ」
「すまんが一度弟子にも撃たせてもらえねえか?」
「ああ、いいぞ。お弟子さんには練習用の矢じりをもらったしな」
「すまんな。おーい、ちょっと来てくれ。お前もこれを見るのは初めてだろう、一度撃ってみてくれ」
「へい、親方。で、どうすれば良いんですかい」
俺はクロスボウをお弟子さんに渡して説明する。
「まず、先端を下にして足で押さえる。弓の弦を引いてここまで持ってくるんだ。そうそう、カチッと音がしたら手を放して大丈夫だ」
「両手じゃないときついですね」
「そうだな。後は矢をつがえて、ここから覗いて的を狙う。手前と奥の照準と的を一直線にしてくれ」
体の小さなお弟子さんが、なんとかクロスボウを構えて狙いを定める。ゆっくり指を曲げて引き金を引き、勢いよく矢が飛んで行った。
「あっ。当たった、親方当たりましたよ。すごいですね、これ」
「なるほど、初めてでもそれなりに撃てるって事かい」
「そうだな慣れてくれば、片手でこうして撃つこともできる」
片手を伸ばして撃つ格好をしてみせる。
「だが、弓を扱い慣れた者には敵わないぞ。連続で撃つ早さも、そして飛距離もだ」
「なるほど、一長一短はあるということだな……中々いい物を見させてもらった。ありがとよ。また何かあったら来てくれ。俺に作れる物なら作ってやるよ」
「ああ、ありがとう。その時はまた頼むよ、親方」
俺は鍛冶屋を後にして、少し街中を見て歩こうとぶらぶらする。
そうだな、まだ時間もあるし、前にアイシャと行った武器屋にでも行ってみるか。あそこにはワクワクするような物が多く飾られていた。もう一度見てみたい。
あまり道は覚えていないが、割と大きな店だったなと専門店街をウロウロする。
「あった、この看板だ」
前に見た剣と鎧の看板の店だ。
「いらっしゃいませ。あなた様はこの前来られた、猟師のお連れの方でしたね」
店員さんが丁寧に挨拶してくる。
「ああ、よく覚えているな。ちょっと武器を見させてもらいたいが、いいかい」
「はい、どうぞごゆっくり。ところで、その背中の武器は弓でございましょうか?」
「ああ、そうだ。クロスボウと言う弓だが見たことはあるか?」
「いいえ。この店にも置いていませんし……外国の武器でしょうか?」
「まあ、そのような物だ」と言って、少し得意げに背中のクロスボウを手に取り見せる。武器屋だし珍しい武器には関心があるのだろう、しげしげと眺めていたな。
俺は前に見ていなかった2階に上がり店内を見せてもらった。
おお~、これはフルアーマーの鎧じゃないか、ピッカピカだよ、スゲ~な。値段もスゲ~な。
ここには写真でしか見た事のない武器や防具が沢山ある。芸術品ではなく実戦で使うための武器だ。兵隊さんが使う鎧や、でかい槍なんかも飾ってあるぞ。
時間を忘れて店内を見て回ったあと、満足して店員さんに挨拶して店を出た。
少し疲れたな。前に行った大きな広場でベンチに座って休憩しよう。この広場の周りには色々な店が並んでいる。確かアクセサリー店もあったはずだな。
アイシャに何か買ってやりたいが、手持ちのお金が残り少ない。
前に冒険者ギルドでもらった報奨金も、生活費として渡して無くなってきている。
アイシャには、怪我も治り狩りができるようになったから、もう生活費は要らないと言われたが、猟師として俺は半人前だ。ふたり分の狩りができているとは思えん。
冒険者ギルドがハローワークのように仕事を斡旋しているなら、そこで稼ぐ手もあるかもしれんな。今度アイシャとも相談して町でアルバイトのようなものができないか聞いてみようか。
ここでの生活にも慣れてきたが、自分で稼ぐとなると色々と分からん事が多いしな。
――ガラン ゴロン ガラン ゴロン
ぼーっと考え事をしていたら、もう鐘5つだ。
そろそろ帰る時間だ、暗くなる前には家に着かんとな。立ち上がり門に向かって歩いて行く。
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