第32話 矢を作る2

 昨日の夕食に食べたカエルのステーキは、鶏肉のような味で美味しかった。

 今朝はカエルの肉をたっぷり入れたスープと、いつもの無発酵パンだ。


「昨日作っていたクロスボウという弓、なかなか格好が良かったわね」

「うん、うん。今日矢を作ったら、試射できるから楽しみだ」

「食べ終わったら、私の矢も作るから一緒に作りましょう」


 食後、さっそくアイシャに矢の作り方を教えてもらう。

 乾燥した木を選んでくれて、それを縦方向に切って四角い棒を何本も作る。


「そのナイフ、ほんとによく切れるわね」


 超音波振動を使わなくても、切れすぎて怖いくらいなのだが、ナイフの扱いにも慣れてきて真っ直ぐ切ることができている。


「ちょっと特殊なナイフで、ある人からもらった物なんだ」


 女神様からもらったチートの武器だから、店には売ってないんだよな。

 アイシャはテーブルの上に溝の付いた木製の台を置いて、その溝に四角い棒を置いた。


「ユヅキさんは、この台を使ってね」


 これは矢を作るための作業台。俺の矢はアイシャの半分ぐらいの長さで、わざわざ専用の作業台をアイシャが作ってくれたようだ。


「まっすぐ、丸くなるようにナイフをこう持って削っていくの。削りすぎないように注意して、最後は矢じりに合う太さまで削っていくのよ」


 なるほど、台に固定して奥から手前にナイフを動かして、徐々に丸く削ればいいんだな。真っ直ぐな矢を作るための工夫がこの台にはあって、俺でも上手くできそうだ。


「どう、ユヅキさんできた?」

「これで、どうかな?」

「ええ、それでいいわ。初めてにしてはいい出来よ」


 これで矢のシャフト部分が出来上がった。


「次は矢の葉を作るわね。乾燥させたカエルの皮をこんな形に切るの」


 先端が尖った俺の知っている矢の羽と同じような形だが、葉っぱを半分にした形にも似ているな。これを3枚作って矢に取り付けるそうだが、この皮には表裏があると言う。


「このツルツルの面が表で、ザラザラした面が裏側になるの。皮の面と前後の形を間違わないようにしてね」


 葉の木型を言われた通りカエルの皮に置いて切り出し、矢の後ろに作った溝に取り付ける。

 木の樹液の接着剤を塗ったり、糸を巻いて取り付けるが細かな作業で難しいな。アイシャに手伝ってもらいながらも、自分の矢を作っていく。

 このカエルの葉により矢が回転して真っ直ぐに飛び、命中率が上がるそうだ。


 最後に矢じりを先端に取り付けて糸で縛れば完成だ。

 なんとか1本できた。感無量である。


 せっかくだからちゃんと作り方を覚えた方がいいと、後2本の矢を作ってからアイシャと家の外に出て、クロスボウの試し撃ちをしてみる。

 弓の弦は強めに張ってあるので、ストッパーまで引っ張るのに力がいるがこれが実戦仕様だ。溝に矢をセットして道の端から10m先の木を狙う。


 アイシャには後ろから矢の飛び方などを見ていてもらう。狙いを定め、静かに引き金を引くと勢いよく矢が飛び出し、見事木に刺さった。


「まっすぐ飛んだし、思ったより速く飛んでいったわね。これはなかなかの物だわ」


 うんうん、いいだろう。ルンルン気分で刺さった矢を取りに行く。


「アイシャも一度撃ってみるか」

「いいの? じゃーやってみるわ。本体を足で押さえて弦を引くのね。割と力がいるわね。後は矢をつがえて狙えばいいのかしら」

「そうそう、両手でこう持って、ここから覗いて狙いを定める」


 手を添えながら説明していく。


「そして、この引き金をゆっくり引く」

「キャッ。音と振動が弓と全然違うわね。びっくりした」

「でもちゃんと木に刺さってるよ。上手いもんだ」


 その後何回か試射したが、概ね良好だ。部屋に戻って試射の感想を聞いてみる。


「あれなら狩りに使えそうね」

「でも飛距離が短いからな、アイシャのようにはいかないぞ」

「あれだけの威力なら、止めを刺すことができるんじゃないかしら」


 そうだな。剣で止めを刺すより、クロスボウの方が狩れる確率は高そうだ。


「じゃあ、休憩してから実際に狩りに行きましょうよ。そうね鹿がいいかしら。でも最初はウサギ? いえやっぱり鹿よ、鹿!」


 ふたりであれこれと作戦を立てていく。アイシャも楽しそうだ。


 狩りが成功する確率はそれほど高くない。鹿の生育場所は大体分かっているので、2、3箇所回れば獲物に出くわすが、そもそも1撃で倒れることはない。2撃目、 3撃目を加えないと逃げられることが多い。

 それだけにふたりで連携して狩れば、大きな獲物でも仕留める確率は高くなる。


「ユヅキさんは右から回り込んで追い立てて、矢を当てた後は下に向かうように誘導するわ」

「分かった。じゃあ後で」


 ふたり別れて配置につき準備する。鹿は5、6頭いるな、追えば何頭かはアイシャの近くに向かうはずだ。

 わざと音を立てて追い立てた後、俺は鹿を横目に見ながら下ってクロスボウを準備する。

 鹿の悲鳴が聞こえた。矢を当てたようだ。


「そっちへ行ったわ!」


 木の陰から顔を出すと手負いの鹿が走ってくるのが見えた。この距離なら当たるか? 狙いを定め矢を放つ。矢は胴体に突き刺さり、もんどりうって倒れた鹿の首をショートソードで切り裂き止めを刺す。


「アイシャ、こっちだ」

「上手く仕留められたみたいね。やっぱりその弓、すごい威力ね」

「近くまで来てくれたから、当てることができただけだよ」


 この世界の獣はなぜか皆、凶暴だ。大イノシシにしても、あの弱いカエルでさえ身の危険を感じると逃げずに立ち向かってくる。

 そのおかげで倒せてもいるのだが、必死の形相で向かってくる獣は恐ろしいものである。

 アイシャは上機嫌だな。うんうん、傷の少ない鹿の革は高く売れるものな。

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