楽園の創造主

四季島 佐倉

第一章『楽園部の軌跡』

「——い、起きなさいー!」

 

 視界がぼやけて何も見えない。

 眼の涙がにじんで景色が流動している。


「わ~あぁ……何事だ?」


 欠伸あくびを噛み殺しながら目の前の何かに問いかける。

 その何かは人間であるようだった。


「寝ぼけているようですね……」

 今度は別の方向から薄っぺらい声が一つ。

 正体が解明できないにもかかわらず、反射的に不快になる。


「寝かしておいてあげたほうが良かったんじゃないでしょうか……」

 か細い声も聞こえる。

 妖精のような、天使のような。癒しをもたらす小さい存在。


「いいのよ、こいつに惰眠を貪らせる訳にはいかないわ。第一こいつ馬鹿だし」

 さっきよりも明確に憤りが芽生えてくる。


「誰が馬鹿だ!」

 

 悪辣な一言でようやく目が覚めた。

 売り文句に買い文句で返してやった。

 ちなみに今は朝ではないし、此処ここは自宅ではない。部室だ。

 要約すると俺が部活動中に寝ていたという事になるが、もっともこれを部活と呼んでいいのかすら分からない。


「お、馬鹿起きたのね」

 この小癪な女は多分堺美咲さかいみさき。関係性では幼馴染という位置づけになるんだろうが、幼馴染という響きはいささか虫唾が走る。

 

 そして先程の声の持ち主、小北朔夜おきたさくや。眉目秀麗なのが鼻に着く、他の男子にかなり忌避されている男だ。

 

 三人目はこの小さい少女、神楽香音かぐらかのん。俺たちと同年代にはとても見えないが、正真正銘高校一年生だ。

 他にも部員はいるが、紹介は後程。

 

 

 複数の机、椅子、その他諸々が多く散らかっている部屋は決して狭いというわけではなく、無造作に不要物が放ってあるため、足の踏み場がない。

 その不潔さは幼児が玩具おもちゃ箱をひっくり返したようで、見るに堪えない。

 

 それぞれ黙々と作業をしている。俺も静寂を破らないようにひっそりと部屋の隅で読書をしている。

 別に読書家ではないし、好ましく思っている訳でもない。

 ただ暇が有るだけである。


「神楽、次の文化祭の広告に使うイラストできた?」

「はい!できました。其方そちらも順調ですか?」

「うーん、キャッチコピーが今一思いつかないのよね……」

「でしたら、単刀直入に一番言いたいことを示すのも手かと」

「あ~そうね。それも検討しておくわ」

 

 会話から分かるように只今ただいま秋の文化祭に向けて動き出している。

 勿論、俺は絶賛蚊帳の外なのだが。

 先輩たちは企画書を生徒会室に提出に行っており、後の一年生部員は休みだ。

 という事で準備が三人(+一人)で進められている訳だ。

 何故俺が参加していないか疑問に思うだろうが、それは無論俺が何も創作していないからだ。

 

 言い忘れていたが、堺はホラー小説、神楽は絵画及びイラスト、小北はソフトウェア、プログラム(機械には疎く、よく解らない)という感じだ。

 この部活に誇りもプライドもありはしないが、紹介しておこう。

 

 

 我らの部活動の名は娯ターテインメント)・芸術研究部。

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