心強い味方は敵になったらやばい

「ぐっっ……く……」


 血が噴き出す自分の二の腕を庇いながら必死でガルから距離を取る。既に血液が足りなくなって頭がフラフラしている。これは……まず……い……。


「ガル! 今元に戻しますからね!」


「ガルルぁああ!!」


 アナが魔法で足止めしようと頑張ってはいるが、ガルは無数の火の玉を素早い動きで避けきってそのまま穴の胸元へ突っ込んだ。


「きゃぁっ!?」


 胸の真ん中を両手のツメで切りつけられ、アナの上半身はズタボロになる。仮に勇者の加護がなければアバラ骨がいくつ折れていたか分からない。


「よくもアナさんを!」


 ジータも天然ムーブを抑えてガルを止めようとするが、力の差は歴然で四方八方から斬撃を受けて瞬く間に下着から靴下、髪留めに至るまで粉々にされてしまった。外から見ればギャグシーンのようだが正直笑ってる場合ではない。


 俺が死ねば教会で生き返ることになる。そうなれば少なくともこの平原から遠く離れた地にリスポーンすることになり、アナやジータをこの過酷な地に置いていくことになってしまう。


 つまりここで負けたらチーム解散の危機に陥るのだ。同時にそれは夫婦解散の危機でもある。それじゃあなんのために冒険を渋々始めたのか分かりゃしない。


「ここで負けてられるかよ……」


 しばらくうずくまってたんだから一瞬は動けるだろ……そう思って立ち上がったのがまずかった。一瞬で全身の感覚がなくなり、視界が真っ白に飛んだ。


(あ……終わった……)


 体はふわふわと浮いたようになって、夢の中にでもいるかのような感覚。さすがにこれは死を覚悟しなきゃな……。


「……い、よう……ぼう」


 ……? 遠くの方から声がする。この声……どこかで聞き覚えが……。


「おぃ、用心棒さぁん。大口叩いておいてこのザマかぃ?」


 この声……! バプラスか!?


 声は聞こえても相変わらず体は動かない。でもここで辛うじて視覚だけはじわじわと戻ってきた。


「めンどうなことしてくれちゃってさァ。だから客人を乗せるのはイヤだったンだ」


 まだ完全には戻っていない視力で目一杯状況を確認する。視界の九割が白飛びしているが、それでもバプラスがガルと対峙しているのだけは確認できた。


(自分でただの商人だって言ってたのになにやってんだあいつは!?)


 このままバプラスまでやられたのでは本当に全滅しかねない。ガルがどこかに去るまでバプラスはどこかに隠れていなきゃダメだ!


 それなのにバプラスは何故かユラユラとガルに近付いていく。あいつ……何を考えて……。


「ガルルルルぁん!!!」


 ガルが地面を蹴ってバプラスに真正面から突っ込む。そして右手を大きく振り上げてバプラスの脳天目掛けて振り下ろした……!


 が、そのツメはバプラスに当たることはなかった。いや、それどころかヒラヒラと舞うバプラスのマントの裾にさえ掠らなかった。


(は……早い!!?)


 バプラスはその時既にガルの背後を取っていた。高速で駆け回るガルを余裕で受け流したのだ……!


「しょんべん臭いガキは嫌いなのサ。ガキはさっさと寝るがいいよ」


 ガルがバプラスの存在に気付いて振り向こうとした時、バプラスは手に持っていたビンを開けて中の液体をガルの顔面にぶちまけた。ガルは顔を拭うような仕草を見せたが、五秒もするとバタンと倒れ込んでグガーッ、といびきをかきはじめた。どうやら強い睡眠薬だったらしい。


「す……すげ……」


「おやァ? 生きてたかぃ、用心棒さァん。ここからはアンタの出番だろう? さっさと済ませるんだネ」


 バプラスは相変わらず嫌味ったらしくそう言うと、何事もなかったかのように馬車の方へと戻っていった。……結局何者なんだあの人は……。


 とにかくバプラスの言う通り、早くガルと契りを結び直さないとすぐに起きたりしたらまた大変だ。寝ているうちに済ませてしまおう……。


 貧血でまだ頭が回らない中で俺はモゾモゾとズボンを脱いで地面に大の字になっているガルに這い寄るのだった。

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