馬車の行く先
「なんなんだよこのでかいのー。歩いたほうがはえーぞ」
「文句があれば降りてもらって結構。そもそも私はどこぞの猫を乗せる許可を出した覚えはないんだけどね」
「んだとー!?」
ガルが加わって早々バプラスとバチバチにやりあっている。方向性の違う面倒くささの二人だけどどうか穏便に済ませてくれ……そう思いつつ転んで荷物に激突しそうなスピカを食い止める。
「ガルはこのあたりに住んでいるんですか?」
「そうだぞ! このへんぜーんぶ俺の縄張りだぞ! だから淫魔が出たら全部とっちめてやるんだ!!」
「まさかこの平原のど真ん中で暮らしてる人間がいるなんてなあ」
パッと外を見ても当然のように360度まっ平らで背の高い木は一つもない。たまにとげとげした葉っぱの植物はあるが、水も食料も厳しそうだ。
「ヒロキ様、ガルは人間ではありませんよ」
「え、違うの?」
明らかにコスプレしている人間だけど。まあゲームの中だしそういうことを言うのはNGか。
「ガルは獣人族という種族です。人間と交配はできますが生活の仕方は全然違います」
今さらっとすごいこと言ってたけども。要は別種族だけど攻略対象ではあるってことだろ。……ただ攻略対象とはいえ信用されてないからなあ。
「ガル、この辺りで淫魔が多いのはどのあたりですか?」
「そーだなー。あ、あっちの方にある遺跡のところはよく淫魔を見かけるぞ!」
「遺跡か。ゲームっぽいな」
ゲームあるある。砂漠に遺跡がありがち。
「もしかしたらそこに淫魔石があるかもしれませんね……」
「メイランの町もそうだが、近い方から撃破していった方がよさそうだな」
スピカのためには早めにメイランに行ってやった方がいいんだろうが、俺らの目的は淫魔石を最終的にはすべて破壊することだから近くにあったらば行った方がいい。
「バプラス、この平原の遺跡がどこか知ってるか?」
「行かないよ」
おいおいまだ何も言ってないだろうが……。まあでも口ぶりからして知ってはいそうだな。
「なんでだよ」
「こっちは商品を運んでるんだ。なんでわざわざ危険の多い場所に行かなきゃいけないんだぃ? むしろ避けて通るね」
う、それはもっともだ。そもそもバプラスは冒険者でも何でもない。俺たちの目的につき合わせるのはさすがに厳しいか……。
「バプラスさん、遺跡はただ危ないだけじゃないかもしれませんよ」
そう言いだしたのはアナだった。今回バプラスとの交渉役はすべてアナにやってもらっているな……。
「どういう意味だぃ?」
「遺跡ということは中に古いお宝が眠っているかもしれません。一攫千金も夢じゃないかもしれませんよ!」
確かに遺跡と言えばお宝というイメージはある。が、それにバプラスが食いついてくれるか……。
「残念だけどね、あの遺跡はもう調査済みだよ。この平原を通ってどこへ行くにもあの遺跡のあたりを通るから昔から認知されているからねぇ。もう何も残っちゃいないよ」
そりゃそうか……同じことを考える人は大勢いるからな……。結局駄目か……。
「でしたら聖水ならばどうでしょう」
「……!」
アナがそう切り出すとバプラスは半分こちらを振り向いた。お、なんか知らんが食いついてるぞ!
「淫魔石があるならばきっと近くに祭壇があるはず。そこで聖水を分けるというのはどうでしょうか」
「……」
「もちろん道中は私たちが商品を守りますから」
アストロデューテも言ってた通りもともとはログインボーナス。それ以外では手に入らないレアアイテムなのだろう。
「……手短かに頼むよ」
「ということは……!」
「ここんところどういうわけか聖水どころか勇者が煙のように次々といなくなっている。仕入れておいて損はないってことだよ」
意地でも直接的には言わないが、要はついてくることに了承したということだ。アナが俺の方を振り向いて得意げにガッツポーズしてくる。本当にアナには頭が上がらないな。
「勇者様! こんなところに透明なクツが!!」
「ぐがー! ぐがー!」
ガルのひどく大きいいびきの中でまたスピカを高価な商品から引き離す。そんなことを繰り返しながら馬車はゆっくりと遺跡方面に進んでいく……。
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