平原の一匹狼
バプラスの馬車に揺られ、俺たちは平原をまさに横断し始めていた。だんだんさっきまでいた森も遠くなってきてあたりに遮るものがなくなってくる。本当に歩き出来てたらやばかったな……。
「そういえばバプラスさんはこれからどこに向かっているんですか?」
村で汲んできた水の余りを飲みながらアナはそう訊ねた。確かに、俺たちはメイランに行くとは言ったがバプラスがどこに行くつもりなのかは聞いていない。
「どこでもいいさ。客がいる場所ならどこでもね」
しかしバプラスはつれない返事をするばかりだった。さっきといい今といい、本当に何を考えているか読めないヤツだ。
「それよりツレを放っておいていいのかぃ? 商品を傷付けたらもちろん弁償だよ」
「勇者様勇者様!! 見てくださいここにティアラがたくさん……うひゃあ!」
「だー--!!!!」
……危うく棚一つが崩壊するところだったがなんとかアナと二人体制で食い止めた。明らかに宝石がぎっちり使われたアクセサリー……これを壊したら一体いくら払わなきゃならないんだ……。馬車の中では特にスピカに目を光らせてないと……。
「……おやぁ?」
「うん? どうかしたのか」
「もしかしたら『用心棒さん』の出番かもしれないねぇ」
バプラスに言われて前の方を覗くと、まだそこそこ遠くだが何かがこちらに近付いてきている何かがいた。なるほど、あれは淫魔の可能性もあるな。
「アナ、ジータ、行くぞ」
「せいぜい死なないように頑張んなぁ」
バプラスに小言を言われながらも馬車から降りて先行し、先にその近付いてくる何かに接触しに行く。見た感じ周りにはその一体以外はいないみたいだ。
「大きい個体ではないみたいですね」
近付いていくとそれは人並みの大きさであることが分かった。ボスのような巨大な淫魔ではないことは救いだ。
と、次の瞬間そいつは俊敏な動きをしたかと思うと突如視界から消えた。なんつー素早さだ……どこ行った……!?
「上です!!」
がぎんっ!!
辛うじてアナの声に反応して剣で攻撃を受け止める。剣にぶつかっているのは大きく尖った爪。そしてその爪の持ち主は……。
「えっ、人間?」
そいつは俺の剣を弾くと一回転して着地する。それはどう見てもトラのコスプレをした女の子だった。それもかなりのロリっ子。
「おめーら見かけない顔だな! 淫魔か!? 淫魔なのか!?」
「いやいやいや、どう見ても俺ら人間でしょうよ」
「分かんねーぞ! 人の形した淫魔もいるらしーからな! 切り裂いてみねーと人間かどうか分かんねーぞ!」
こ、こいつ……戦闘狂タイプか……。このままこの子と戦い続けるわけにもいかないしなあ。
「どうするアナ」
「そうですね……」
うーん、とアナは目を瞑って考えると、何かを思い付いたのかトラ少女に近付いていく。
「おまえ! それ以上近付くと切り刻むぞ!!」
「あの……もしよかったら私たちと一緒に行動しませんか? 途中で怪しいと思ったらいつでも攻撃していいですから。その代わり仲間だと認めてもらえたら一緒に淫魔と戦ってほしいです」
「えっと、アナそれは……」
言いたいことは分かる。ここで会ったのも何かの縁だし仲間に引き入れられるなら引き入れておきたい。たださっきの感じでいくと信用を得るのは簡単なことじゃないと思うぞ……。
「怪しいと今思ってる。だから刻む」
ほら言わんこっちゃない。
「それなら……ここに干し肉があるんですけど……これじゃ信じてもらえませんか?」
いやいや、さすがにそんな古典的な方法で仲間になるわけ
「おー! 肉!! 俺にくれるのかー!?」
「はい!」
いいのかよ。簡単なヤツだなこいつ。
「むしゃむしゃ……ドクでもないな。ま、まだ信用したわけじゃないからな! でもお前はいいヤツ!」
「ありがとうございます!」
「アナは……って俺とスピカは?」
「アヤシーヤツ」
お、おう……。まあ釈然としないが一人でも信じてくれたのなら上々だろう。
「それであなたのお名前はなんていうんですか?」
「俺か? 俺はガル! ガルって呼んでくれ!」
「そのままじゃねーか」
「うるせーアヤシーヤツ」
何はともあれ平原の旅に新たな仲間が加わることになった。スピカだけでも騒がしかったけどより一層騒がしくなりそうだ……。
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