勝利の宴

「というわけで! 見事クロス村の淫魔石を破壊した勇者、ヒロキさんで~す!」


「ど、どうも」


 パチパチパチパチ……と拍手の音がたくさん聞こえてくる。シェリーが中心となって俺たちを労う宴を開いてくれているのだ。


 テラス席にあるみたいなイスと丸い机が広場に並べられていて、恐らく村のほぼ全員がお祝いに駆け付けてくれていた。総勢五十人くらいだろうか。


「それじゃあ皆さん、いっぱい飲んで食べて盛り上がりましょう!!」


 広場の一角で音頭をとったあと、俺はシェリーに案内されて席についた。当然仲間であるアナ、ジータ、ソフィ、イルナと同じ席である。なおクララは未成年ということでお母さんのところに行ったらしい。


「こりゃあ本当にご馳走だな」


 大皿料理が来るわ来るわ、クリスマスに食べるみたいな七面鳥だか鶏だかの丸焼きだったりフルーツの盛り合わせだったり顔よりも大きいタルトだったり。これは酒も進むってもんだ。


「アナちゃん、食べてみなよこの……卵焼き? 美味しいよ」


「キッシュだね。……うん、ほんとだ! ヒロキ様もいかがです?」


「じゃあ一切れ貰おうかな」


 アナとジータは相変わらず姉妹のように仲良く食事をしていて、イルナはイルナで何も言わないが黙々と目の前にあるものを食べていた。案外喜んでいるのかもしれない。ソフィは当然寝ている。


「……それで今後のことを少し話そうと思うんだけど」


 メインディッシュを食べ終えデザートに入ろうかというところで話を切り出した。これだけ盛大にパーティしちゃいるが、RPG的に言えばまだ「一面」をクリアしたに過ぎない。要はここがスタートラインというわけだ。


「アストロデューテさんに世界を旅して回るように言われた。仮に俺が旅に出るとしたら、ついてくる気はあるか」


 ゲームならば一度仲間にしたキャラクターは当たり前のようについてくるが、神様も言ってた通りここは「ゲームの世界であって現実の世界」だ。各々の事情によってはついてこられないこともあるだろうと思う。


「ちなみにクララはついてこないそうだ。まだ子供だし当然と言えば当然だけども」


 少しでも戦力を増やさなければ、と半ば無理矢理仲間にしたクララだったが、今思うと少し悪いことをしたような気もする。ちゃんと勉強をして俺のような大人にならないようにしてほしい。


「最初から言っているが私は誰とも仲間になるつもりはない。一人で修業するだけだ」


 イルナは口元を拭いながら最初に会った時のような冷徹なもの言いでそう告げた。まあ内面を知ってからはその素振りもかわいく思えるけども。


「そうは言っても契りは結んだわけだろ? ……契りって解消できんの?」


「はい。魔法契約ですからどちらかが教会に行けば解消はできますよ」


 アナたすかる。マダガスカル。


 つまりイルナも自分で教会に行けば普通に一匹オオカミに戻れるってわけか。


「まあ、そのことなんだけど……」


「ん? どうした?」


 なんか急にイルナの挙動が落ち着かなくなった。なんだなんだ。


「あなたは弱いからまた窮地に陥ることがあるでしょう。そうしたらまた私の力が必要になる。そうでしょう?」


「う、うん?」


「だからいつでもSOSを受け取れるように、契りは解消しないでおいてあげるわ……。別に仲間だとかそういうんじゃないんだからね。あなたが死んだら寝覚めが悪いからし か た な く なんだから!」


「お、おう」


 とりあえずツンデレなのは分かった。


 あとそういえば仲間の間なら遠くでも会話ができるって話、あったなあ。今まではクロス村で完結してたけど、これからは使うことも増えるかもしれない。あとでちょっと使い方を練習しておこう。


「悪いけど、私も村に残るよ」


「え、ジータもか」


 それは予想してなかった。てっきりアナと仲もいいし(俺に気があるみたいだし)ついてくるもんだとばかり思ってたけど。


「ついていきたいのはやまやまなんだけどさ、クロス村には武器屋がうちしかないから。そうは言っても需要はあるんだよ? うち。それに親父の形見でもあるからね」


 そうかぁ。思い返してみればクロス村での戦闘だって店を開ける前の時間限定っていう話だったものな。少しばかり無理をさせていた部分があったかもしれない。


「すぴー」


「まあソフィは家で寝てたいよな」


 それは聞かなくても分かる。むしろ今までも引っ張り出してきて悪かったと思ってる。戦闘の中で何かしたこともないし。本人だけでなく周りにも危険が及ぶからな。


「……なるほど、よく分かった」


 こうしてクロス村を救った即席パーティは早くも解散となった。先行きが怪しいな……。飲むしかねえや。

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