なんかズレてるアナ姉さん

「いやー、大変な目に遭っちゃいましたねー」


 アナは思いのほか元気で、まるで小指をタンスの角にぶつけたレベルの軽さで笑いながらそんなことを言っている。レ〇プされた直後なのに。この世界の倫理観ってそんな感じなんだろうか……?


 アナはあのあとしばらくろくに強すぎる快楽のせいで普通に話すこともできなかったので寝かせておいたのだが、三十分ほどして起きたらけろりとしていてさっさとシャワーを浴びて紅茶を淹れて現在ティーブレーク中である。近所の人に貰ったらしいクッキーがおいしい。


「ごめんな、さっき守ってやれなくて」


「いえいえヒロキ様が謝ることじゃ……私の注意不足です」


 アナは苦笑いして手を顔の前で横に振る。まあアナのことだし本当にそう思っているのだろう。


「でも、アナは変な狼野郎に汚されちまった……」


「まあ確かにそうですけど」


「アナの初めてを貰った身としては、その、なんだ。責任があるだろ」


 自分でも言いたいことが定まってなくてしどろもどろになる。要はアナのことを大切に思っているということを言いたいのだが……。


「えーと、それってつまり……妬いてるってことですか?」


「はっ?」


「やだなあ~、たかがタチバックウルフに嫉妬するなんて~! 大丈夫ですよ。私はヒロキ様の最初の仲間なんですから。どこにもいきませんよ! どうしても気になるなら……今夜またもう一度ヒロキ様に染めてください。ね?」


「お、おう」


 なんだか話がおかしくなってしまったが、まあアナがそれで納得できてるんならそれでいいか。そして地味に今夜アナと夜の運動会をすることが決まった。嬉しいけど。嬉しいけれどもなんだこの流れ。


「……まあ何はともあれ念願の50ピールは手に入ったから、よしとするか?」


「そうですね! これでやっとヒロキ様の装備が買えます!」


 一応アナの介抱をしながらもウルフの落としたお金はちゃんと拾っておいた。これで取り忘れてもう一度タチバックウルフと戦うなんてそんなのごめんだからな。アナがまたレ〇プされるのも嫌だし、普通にアイツ顔怖いし。


「お金が余ったらヒロキ様の生活必需品も揃えましょうね。お洋服とか下着とかも替えは持ってませんものね?」


「もちろん」


 おかげで俺は二日連続同じパンツを穿いている。そんなに普段から清潔にしている方というわけでもないが、非常に気持ち悪い。早く着替えたい。


「あとはコップとかお皿とかアクセサリーとか歯ブラシとか……住むのに必要なものはこの機に全部揃えてしまいましょう!」


 アナは目をキラキラさせながらそう言った。この子、ただ俺と一緒にお店を回りたいだけだな? 女の子ってショッピング好きだよなあ。というかこの中世的世界観の中に歯ブラシがあるのシュールだな。


「それじゃあそのついでにこの村のことをもう少し詳しく教えてもらおうかな」


「もちろんです! 普段通っている青果市場や牧場なども案内しますね!」


 アナは子供っぽく無邪気にはしゃぐ。……なるほど、牧場か。確かに牛乳があるなら酪農技術もある程度あるわけか。一体ここの文化レベルはどうなってんだ?


「じゃ、おやつ食べ終わったら行きましょうか!」


 さっきレ〇プされたばかりなのに今日このあと行くのか。レ〇プされたばかりなのに。少し休ませてほしかったけれどもアナには悪いことをしてしまったことだし、俺はにこにこしてショッピングに行くのを約束したのだった。

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