ひょっとして私の武器弱すぎ……!?
俺を起こしたのはトントントン……という規則正しい音だった。眠い目を擦って上体を起こすと、既に着替えも終わって台所に立っているアナの姿が目に入った。
「あ、起きましたか? もうすぐ朝ごはんできますからね!」
アナは笑顔でそう言うとまた同じリズムでトントントンと食材を刻んだ。あれはトマトか何かかな?
「朝早くて偉いな……おまけに朝ごはんまで要領よく作ってて……」
「えへへ、一人暮らししてましたからね。こういうのは慣れてるんです」
確かによく考えてみりゃあそうか。俺は万年実家暮らしだから一人暮らしの生活ってのは分からないなあ。
「そろそろできますから、ヒロキ様は顔を洗うついでにシャワー浴びてきてください」
「えー、あとでじゃダメ?」
「ダメです」
チクショー、かわいい顔してケチなやつめ……と思ったけど、そうか俺は昨日童貞を卒業したんだったな。イカ臭いまんまじゃあどうしようもない。仕方ない、風呂場に行くか……。
股間を中心に入念に洗った後、脱衣所を出ると食卓にはとても豪華な食事が並んでいた。シンプルにこんがり焼いた鶏肉に新鮮そうなレタスやトマト、左手には大きめの具が入ったシチュー、そしてコップには牛乳と小さいお皿にコッペパン一つ乗っていた。お手本のような洋風朝食。
「うまそうだなぁ」
「もう食べても大丈夫ですよ」
「いただきまーす!」
見た目通り味は文句なく、シチューに関してはすべての野菜が柔らかく煮込んであって時間をかけて作ったのが伺えた。流石は俺の嫁。厳密には嫁じゃないけど事実上俺の嫁。
「それでヒロキ様」
「ん? どひた?」
朝ご飯を食べながらアナは話を切り出した。アナももぐもぐしながら話してるし重い話ではなさそうだ。ここで「やっぱり仲間になりたくない」とか言われたら俺は多分身投げしたと思う。教会で復活するけど。
「ヒロキ様の装備ってあれで全部ですよね」
「ん? あ、ああ」
ベッドに脱ぎ捨てられた皮の服と棚に立てかけてある剣を見て頷く。俺が森で目が覚めた時に持ってたのは本当にこれだけだ。
「そうですか……ヒロキ様の記憶がどこまであるのか分からないのですけど、あの装備では戦闘に行っても一番弱い淫魔すら倒せるかどうか怪しいです」
「そうなの!?」
てっきりRPGの最初の装備っぽかったからこれがスタンダードなのかと思ってた。雑魚敵すら倒せないのかよ。
「昨日会ったタチバックウルフなんかが最下等なんですけど……あの剣ではほとんどダメージを与えられないし、あの服では防御など何もできないと思います」
「そうなのか……」
冒険をしていく中で装備くらい増えていくだろ、と楽観的に考えていたが、これは確かに考えなくてはいけないかもしれない。
「ですから武器屋さんで最低限の鎧と剣を買った方がいいと思うのですが……ヒロキ様はいくら持ってますか?」
「え、お金? それは多分えーと……ないです……」
「そうですか……私も今生活費以外で出せるのが昨日タチバックウルフを倒した時に手に入れた50ピールしかなくて。多分100ピールくらいあれば剣と服くらいは買えると思うのですが」
なるほど、やっぱり普通のRPGみたいに魔物倒したらお金貰えるのか。それどういう仕組みなんだ……って考えたら負けか。というかアナ、自然な流れで自分のお金を俺のために使おうとしてるけど、お前はどこまでいい子なんだよぉぉ!!
「……ということはもう一匹タチバックウルフを倒さなきゃいけない、と?」
「そういうことです!」
アナは最後のパンの一切れを口に放り込みながら言った。できすぎる女の子アナのお蔭で、俺の今日一日の行動は定まった。待ってろよイカレタれた名前の変態ウルフめ!!!
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