残酷無慈悲な魔王は、強心臓の桁違い令嬢にハマってしまう。

SITORA

第1話 残酷無慈悲


「良いかい?リオノーラ、この門をくぐったら絶対に自分を出すな。それが命のためでもある。お願いだ、リオノーラ今日は壁の花になっていておくれ?」


 お父様が強い視線で私に訴えかける。


 私、リオノーラ・ジル・ディアスは小さな子爵家の長女だ。と、言っても上に兄が三人いる。今年17になる私は婚約者などいないためお嫁の貰い手探しのために舞踏会に参列させられる生活を送っていた。メンドクサイがお父様とお母さまのご厚意でもあるため無下にはできない。嫌気の指す社交シーズンの始まりに王家が定例舞踏会を開くのだ。今すぐ取り潰してしまいたいその恒例行事は私だけでなく他の令嬢、貴族たちも恐怖対象として扱っている。なぜなら、うちの王様は…魔王様なのだから。


「お父様、黙って突っ立てるだけなら何よりも得意です!任せてください!」


 殿方とお話しするより断然楽だ。私はにこやかに答える。


「いいや、任せられない。ステイシー頼むぞ。」


「ええ、任せて。あなたは安心して仕事をこなせばいいわ。」


「ああ、ありがとう。今この子は絶対、立っていることとボケラッとしていることを同じに考えている。はぁ、心配だ…。」


 お父様とお母さまのコンビは最高だ。結婚してから二人で築き上げた伝説は数知れない。そんな二人でも欠けている点はある。本人の前で平然と悪口を言うところだ。私は拗ねてそっぽを向いた。


「リオノーラ、何があってもあれは出すなよ。」


「…はぁい。」


 両親の心配そうな視線を無視し、窓の外を眺め続けた。


 ***王城 大広間


「国王陛下の御成りー、」


 緊張を孕んだ家臣の声と重たく鳴り響く一際大きな扉の先に魔王が立つ。黒くてサラリとしたストレートの髪、妖しく光る深い深いブルーの瞳スッと通った目鼻立ちと、白く透き通った柔らかそうな肌。

 彼を形作る全てが美しい。私は思わず目を逸らした。


 彼は魔王だ。本当に魔族の血が流れている。この国の王家としての血に魔族のものはないはずだった。しかし、若いうちに亡くなった第二妃は魔族出身だった。第二妃は滅びた魔族の最後の生き残りだったのだ。第二妃が亡くなったのち、彼は城から追い出されたが横暴を振るう王家に嫌気がさし、根絶やしにした。そう、実の父も手にかけて。


 そんなことを考えているうちに初めにダンスを踊る時間になった。


「お嬢さん、僕と踊りませんか?」


「申し訳ありません、今日は体調が優れないので見学させていただきますわ。また機会があったらお願い致しますわ。」


 適当に断ってぼーっとしてよ。


 私は人のいない廊下に面したバルコニーのソファーで座っていた。


「うふふふふ、大丈夫ですわ?貴方もあんな婚約者はお嫌でしょう?ここならだぁれもいませんわ。」


 楽しそうな女性の声がする。


 あれ…んん???こっち…来る??あれ?よりによって…

 ちょっと!!バルコニーなら他に沢山あるでしょうが!


 私は慌てた。一瞬で考えた回避法は二つ。


 ①寝たフリ。

 ②死んだフリ。


 ああ嗚呼アアあぁあゝぁぁあッッッ?!?!?!?!私の馬鹿!間抜け!ていうか知られたとなったらどう転んでも潰される!社会的に抹殺される!だって私、ただの子爵令嬢だし…っ!


 …逃げよう。脱走だ。


 もうヤケクソな私は、真顔で飛び降りた。

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