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「なるほど。椿さんは、ご自分の顔のことで悩んでおいでなのですね」
二人のやり取りを見ていたウロマは、やがてこう言った。見ると、いつのまにやら、彼の目の前にはノートパソコンが現れている。
「けれど、変ですね? 椿さんは本名でSNSをされているようですが、そこではご自分の顔を、これでもかと公開しているというのに」
ウロマはノートパソコンを反転させ、二人の少女たちに、その画面を見せた。見ると確かに、そこに表示されているSNSのアカウント名は「椿萌花」だった。そのヘッダーには、やたらと大きな瞳の少女の写真が表示されている。肌は白磁のようにツルツルだ。
「いや、先生、これ同姓同名の違う人ですよ。椿さんはこんな顔じゃない――」
と、灯美が口に出したとたん、
「いっぱい盛ってるんです! だって、汚い素顔なんて、見せられるわけないじゃないですか!」
萌花は悲痛な叫び声を上げた。彼女のSNSに間違いないらしい。
「盛っている? それはつまり、自分の顔写真を加工して、SNSにアップロードしているということですか?」
「はい。そうすると、すごくかわいくなれるんです」
「すごくかわいく? この写真が?」
と、ウロマは再びノートパソコンを自分のほうに反転させ、その画面をいぶかしそうな目つきで見つめた。
「椿さんのアップしている自撮り写真は、どれも修正が行き過ぎていて、不自然に見えますけどね。特に最近の写真は目が大きすぎる。まるで宇宙人です」
「何言ってるんですか! 超かわいいじゃないですか!」
「かわいくないです、全然。これだと間違いなく、現実の椿さんのほうがかわいらしいはずですよ」
と、ウロマはふいに右手を上げた。そこに握られているのは、帽子とサングラスとマスクだった。当然、萌花が身に着けていたものだ。また、いつのまに、剥ぎ取ったのか……。
「や、やだ! なんでそれ全部取っちゃうんですか!」
萌花はあわてて両手で顔を覆って隠したが、灯美はすでにばっちり、その顔を確認していた。彼女は、中学校のときと同じ、よく整った顔立ちのままのように見えた。そう、切れ長の瞳に、低いながらもすっと伸びた鼻筋、桜色のぷっくりとした唇。和服がよく似合いそうな、アジアンビューティーな美貌だった。肌はちょっと荒れているみたいだったが。
「隠すことないよ、椿さん。すごくきれいな顔じゃない」
灯美は心からそう思って言った。
だが、
「な、なんでそんな意味のわからないこと言うの? こんな細くてちっちゃい目で、きれいとかありえないでしょ!」
萌花はやはり自分の顔を醜いと思っているらしかった。
「僕も、灯美さんと同じ気持ちですよ、椿さん。あなたの顔は、そのままで十分魅力的です」
「ウソ! 私、超ぶさだもん! 自分でもよくわかってるもの!」
ウロマの言葉にも、萌花はかたくなに首を振るだけだった。
「……まあ、美意識というのは人ぞれぞれです。椿さんがそうおっしゃるのなら、椿さんの心の中ではそれが正しいのでしょう」
ウロマはあきれたようにため息をつき、帽子、サングラス、マスクの三点セットを、萌花のひざの上に放った。彼女はすぐにそれを取り、元のように顔に装着した。
「きっと、椿さんにとって美しいと思えるご自身の顔は、SNSにアップされている、盛りに盛った自撮り写真のような顔なのでしょうね。そう、つぶらで、とても大きな瞳をした、肌がマネキン人形のように真っ白な……」
「はい。私、そういう顔になりたいんです。だから、美容整形したくて。でも、私まだ未成年だから、親の同意書がいるらしくて、それで……」
「なるほど。椿さんは親御さんに美容整形を反対されていて、それで悩んでおいでなのですね」
ようやく最初の話の内容が見えてきた。
「私、どうしたら親を説得できるのか、全然わかんなくて。私がどれだけ自分の顔がいやだって言っても、全然気持ちを理解してくれないんです。本当に、一秒でも早く、こんな顔なくなっちゃえって思ってるのに……」
萌花の声音は切実さがにじんでいた。しかし、やはり灯美は、彼女の気持ちがさっぱり理解できなかった。すぐに整形しなければいけないほどの醜い顔ではないのに。
「それはさぞやお辛いことでしょう、椿さん。親御さんにコンプレックスを理解してもらえないとは。ただ、僕としては、親御さんが美容整形に反対する理由もちょっぴりわかる気がするのです。なんせ、椿さんはどんなにお金をかけても、どんな名医に手術を頼んでも、こんな顔にはなれそうにありませんからね」
ウロマはノートパソコンの画面をじっと見つめる。
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