革新的、本格派。

【この作品は"ガチ"である。】
読み始めは"エルフの過激派テロリスト"というワードが概念として斬新だったのですが

本作は、それ"だけ"では終わりません。

この作品、いわゆる
"皆がジャンルの共通認識としているテンプレ"

それを少し弄っただけの
"出オチなインパクト"に留まらない
"ガチの作り込み"を作品の随所で見せてくれます。


【主人公、勇者。】
勇者という概念は古今東西、数多のファンタジー作品で使い倒されて来ましたが、今作の"勇者"……何かが違う
いや、何かもう"色々と違う"。

序章の冒頭において彼は、命令されて動く
"勇者というコードネームを与えられている者"という立場で物語はスタートします。

ね? もう既に様子が違うでしょう?

そして……

"エルフが出てくる様な作品"の主人公なのに、彼の装備は"光線銃 兼 ビームブレード""というSFじみたガジェット……

「……どうなってんの?この世界」と思う事でしょう

そう、この作品は"世界" からして色々と違うんです。


【なぜ? の裏付け】
エルフ、ドワーフ、オークの様な"よくある要素"と"明らかに違う物"が同居している所から来る「何故そうなっているのか」という部分は物語が進むにつれ"裏付け"がされて行きます。

本作、というより"この作者の凄み"は

"設定の為の設定"を作らない事。

ドラマと精密に連動させる
"物語の為の設定"を出せるセンスと、
それを用いた壮大かつ綿密なシナリオ構築能力にあります。

それが、"革新的本格派"たる所以なのです。


【作者は"強い女メーカー"である。】
強いんです、女性キャラが。
それは時に戦闘能力という意味でもあり、人格的な強さでもあります。

この作者が描く強い女は

"男主人公を引き立てる為の噛ませ犬"では無い。

"取って付けたような弱み"で安易なギャップ萌えを狙わない。

だから、キャラの格が落ちない。
"強い女"という存在を愛しているのです。

それでいて作者は"実際に書ける本格派"なので、主人公を空気にさせず、見事に立たせているのです。

「具体的にはどうやって?」と思った方、
それは是非とも本編で体感して頂きたい。


【長寿キャラ】
例えば"エルフ"などの長寿設定のキャラクターがいたとします。

"こういった世界に生きていて"
"実はこの様なバックボーンがあり"
"このぐらい長く生きられる種族"
ならば"こういう物言いをする"

そういったシミュレーションの精度がかなり高いのも、流石は"本格派"と言えます。

この"強い女"と"長寿キャラ"は作品というより作者の特色であり、それは本作でも遺憾なく発揮されています。


【主人公のバトル描写】

能力、スキル、ステータス……
言い方は様々ですが、今や"戦うファンタジー"には欠かせない物です。

……が、そこはやはり"革新的本格派"。

いわゆる、"チート"では無い。

スキルだのステータスだのゲームじみた単語は使わない。

それでいて、"単なる時流への逆張り"で終わっていない。

……レビュー冒頭で「出オチなインパクト」という言い方をしましたが、そういった"インスタントな派手さ"が無い代わりに"駆け引きのあるバトル"を展開させる要素となっています。

その特性上、"やけに丁度良い現実感"があり、上記の"主人公の装備"同様にファンタジーらしくない設定でもありますが、なんと

"文字媒体との相性も良い"

バトルになる度に……いや、実はそれ以外のドラマパートでも"絶妙な作用"をしてくれるのです。

……能力の内容は、本編読み始めればすぐに分かりますので敢えてここでは伏せておきます。

この凄み、是非とも本編で体感して頂きたいです。(2度目)



……この様な長いレビューにお付き合い下さり、ありがとうございました。
神田大和 氏とその作品群が

"こういうのが読みたかった"
という人たちに届いてくれる事を願います。