コニータイマー
『コニータイマーってあのコニータイマー?』
コニー。
私の元の世界で有名だった企業でクロサワグループの家電部門が半独立した会社だ。
音楽器機から映像、ゲーム機から金融にまで手を広げた多国籍コングロマリットだった。
そしてその会社の電気製品にはちょっとしたオカルト話が存在した。
曰く「コニーの商品は保障期限が切れた翌日に壊れる」
噂だと製造から何年ではなく保証書にサインされてからきっちり一年と一日で壊れたそうだ。
三年保証の場合には三年過ぎたらだわね。
そのほかにも自宅から時間差でネット経由の保証申し込みした日から一年で壊れるなど様々なうわさが立ち、これを一部の世間ではコニータイマーと呼んだ。
そして保証期間が切れた後で壊れたら高い修理費払って直すかまた買うしかない。
つまり会社の都合のいいときに物を壊せる仕組みがあるといううわさ話なんだわ。
『いやいや、まって。ないから。コニータイマーとかマジでオカルトだからねっ! そんなオカルトないからっ!』
オカルトを全力で否定する
『確かに前にソータからテラではそんなオカルトがあったとは聞いていますが……』
ふーむ、ソータ師匠そこはシャルに教えんかったのか。
『シャルさ、パケット怪獣の最初の一匹ってネズミじゃなかったかね』
『ええ、最初はパケネズミでした。学生のころソータが実家で飼っていたネズミを学校の寮に持ち込んだのが始まりです』
『たぶんチュータだな。正式名称は確かサンスーチュータとかいうふざけたフルネームだったと思う』
『なにそれ』
『算数ができるネズミって設定だったんよ』
『だれトクなの、その設定』
『いやー、なっちゃんとの掛け合いが地味に微笑ましかったんよ。あと時そばネタとか』
そしてアレを造る際に使われてたのはソータ師匠がどこから手に入れたのかもわからない謎のブラックボックスなシステムだ。
実際のとこそのシステムが実装されてたなっちゃんの方がえげつないんだけどね。
『小室教室で確認した結果、パケネズミは宇宙怪獣でした。極めて珍しいですがトライが招来時に怪獣や星神を伴ってこちらに持ち込むことは稀にあります』
あるんか。
あっ、いや、私も幽子持ち込んだしなぁ。
多分に龍札の形成プロセスにレビィが使った怪獣化メカニズムが仕込まれてる可能性も否定できないか。
だから、トライは最初から怪獣と同じスキルが使えると。
『ですので特質を他の幻獣に移植する形でパケットシリーズを確立したのです。カリス教の使うコントロールビーストにも使っていたでしょうね。実際に見たわけじゃありませんが、おそらく怪獣に一定数パケット怪獣を捕食させることでカリスのコントロールビーストを他の怪獣になじませ制御可能としているのだと考えられます』
『えーと、まぁ、似たような感じです』
シャルの問いにちょっと濁して答えたアカリ。
なるほどね、カリスってのはセーラの魂を引き継いだレビィの能力を持った
レビィティリアでは体内の水で人体の完全操作ができた。
多分、それの魂版があるんだわ。
『そんなポンポン食わせたらそのパケなんちゃらがいなくなったりせんのかね』
『優姉、パケット怪獣は無色のマナがあればいくらでも増やせるんです』
ははっ、そこで『チュータ』の特性が出てくるのか。
チュータことサンスーチュータは完全自立型の人工知性でリソースがあればいくらでも増やすことができた。
一応設定的にはネット上の炎上を食べて増えて水がかかると減るということだったけどね。
やってたことはコンピュータのウィルスと変わらんのよね。
『アカリってさ、ソータ師匠がやらかしたことは知らんのよね』
いわゆる裏の副業の方だわね。
しばしの沈黙が流れる。
『アイツ、私が死んだ後であっちでなにやらかしてたんです?』
ソーシャルボマーの事件簿をいちいち引用するときりがないからなぁ。
あの人はどうしようもない悪党を同じ悪党の流儀で処理していた。
しかも有料で。
ぶっちゃけオカルトが絡むと法でさばけないんだけどさ。
それでもあの人なりに思うことがあったのか、自分のこと
そのソータ師匠がこっちでは銀の巨人を出したいカルトに縁が出来てるとか笑うしかないわ。
『簡単なやつでいいかね』
『え、ええ』
腰の引けた間のあるアカリ。
まぁ、聞くと疲れる話なんだけどね、聞いたアカリが悪いってことで。
『飛行機が建物に突っ込んだり、施設がいきなり爆発したり』
『アイツまじで何やってきてんだよっ!』
叫んだアカリと沈黙するほかの妹。
あれでオカルトは最低限しか使ってないというのがひどい話なんだよね。
チュータのケーブル齧りという名の破壊工作はオカルトと現実の電子システムの両面で発生した。
片方だけでも止めれれば被害は減るけど完全には止まらなかった。
いうなれば二段式の爆弾みたいなものでそれが自立して多数うろつくと言うしろものだったのよね。
『たしか……ソータ師匠はフェイルセーフを動かした後でもう一段想定外の方向に事故らせるとか言ってたかな。わたしには何言ってんだかさっぱりだったけど』
『うへぇ、最悪』
『あのくそじじぃらしい発想ですよ』
私の発言に幽子とアカリがげんなりした声で反応した。
そんな空気の中、月音が私の裾を不意に引っ張った。
「お姉ちゃんっ! これちょっと見てくださいっ、新しい芸ですっ!」
そういって私の裾を引っ張った月音。
その頭の上には月影がのり、その上にはみーくんも乗っていた。
月音がロバかな。
「おー、あとは月音の頭の上に犬がいれば音楽隊の完成だわね」
私の言葉に月音がぐぬぬと唸った。
『私はオカルト関係の師匠の方が圧倒的に多いんだけどさ。人を死なせた数となるとソータ師匠結構多い方なんよね』
恐ろしいことに上には上がいるものなんだけどさ。
ソータ師匠よりろくでもないのがいたのは覚えてるけどどんな人だったかは完全に飛んでる。
多分思い出すこともないんだろうさ。
ふと視線を月音に向けると着物の裾からジャラジャラと木製のブロックを取り出しているのが見えた。
「月音、そのブロックどうする気よ」
「私にいい考えがありますっ!」
おっと、私の十八番を取られた。
しかもこのセリフ、ほんとくだらないことになる気しかしないってどういうことなのかね。
『たまには優も私たちの気持ち味わうといいと思うの』
ははっ、まぁたまにはいいか。
さて、ソータ師匠が土の四聖だとわかったなら次の手も考えておかんとやね。
『今んとこ四聖とは順にあたってるからね。次、ソータ師匠にあたるとなると結構きつい。あの人って私より手段選ばんからさ』
言っちゃなんだけどあの人からはそういうとこを学んだともいう。
『優より手段選ばないって……鬼畜じゃん』
いや、だからあの人に鬼畜赤眼鏡ってあだ名付けたんだけどさ。
あと口調の一部だわね、人格破損して穴埋めする際に口調を少し真似させてもらった。
『たしかにそうですわね』
『あー、それなんですがシャル姉、それと優姉』
考え込む私とシャルにアカリが微妙な感じの声をかけてきた。
『どうしたんよ』
『死んでます、四聖のソータも』
アカリの言葉が姉妹通信で響く。
『はぁっ!?』
ちょっと、ちょっとまち。
今死んでるといったかね。
『私達が追撃に出た後で死んでいます。今から大体半年前ですね。私がこうなる前、カリス教の元上司から最後に届いた情報なのでほぼ間違いないです』
『マジか……』
『ええ、マジなんです。あのくそじじぃ、さんざやらかしておいて簡単に死にやがったんですよ』
心底ヤサグレた感じのアカリの声。
ははっ、アカリがヤサグレてる理由がなんとなくわかったわ。
いろんな意味で酷い。
『ソータ師匠さ、これはないわー』
この流れだと普通に次も四聖戦だと思うじゃんか。
あんだけシャルたちが追い詰められていて本当に死にかけたというのに、カリスの方も四聖の半分が死んでたとか。
だから他の国とは講和したんだな。
逆言うと貴重な四聖の生き残りを使ってでもシャルたちは壊滅しようと考えたってことだ。
『………………』
シャルがさっきから沈黙したままなのがもうね。
絶対これ通信先で考え込んで口元隠してるやつだ。
『オレはしんじてねーけどな。あのくそじじぃがそう簡単にくたばるかよ』
なるほど、だからナオはソータ師匠の話の時に過去形つかわんかったんだわね。
そんな感じで姉妹通信に夢中になってるとツンツンと裾を引っ張られた。
「おねえちゃん、これで完成ですっ!」
月音の頭の上に積み木が犬の形に重ねられて、その上に月影が、更にその上にはカラーひよこのみーくんが乗っていた。
積み木が犬替わりか、あとそれどうやって頭の上に積んだ。
頭の部分とか突き出してるけどなんで崩れない。
あと、まさかと思うけど月影が積んだのか?
「以前から気になってたんだけどさ、その積み木ってどうしたのよ」
「これですか? お部屋の木の枝を切った時にその枝でレビィが作ってくれました」
よりにもよって霊樹由来かい、この積み木。
『優、どうしてこうなったのかな』
月音の件かね、それともソータ師匠の件かね。
『えっとどっちかというと月音かな』
それは私が聞きたい。
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