妹達からの相談

 外は快晴。

 工事の音が響く中、上層の神殿で始まった姉妹会議。

 今日の妹の円卓にはいつものメンツプラスにアイラとステファが入っていた。


「お姉さま、これが試作品です」


 デザインは夢の中でセーラと私が使ってた指輪が土台みたいね。


「さすがシャルとアカリ。早かったね。それと眠そうやね、アカリ」


 私がそういうとアカリがあくびをしながら睨みつけてきた。


「優姉がふってきた仕事のせいじゃないですか」

「いやぁそこまで急がんでもとは思ってたんだけど」


 私がそういうとシャルとアカリが顔を見合わせて苦笑を浮かべる。


「サニアたちがまっていますので」


 ああ、妹たちにせっつかれたか。


「つーてもさ、まだ十分な食料とか装備とか持たせるだけの準備できてないんちゃうの?」


 私がそういうとシャルが口元に手を寄せた。


「食料については内部空間の安定と並行して最優先で備蓄済みです。下層にフィーリアとリーシャを中心として棚田と穀倉地域を造成しエウとヤエ、それと沙羅さらの手を借りて強制連作しました。都市の地下部に構築した冷凍魔導倉庫にとりあえず一年分をためてあります」

『何時の間に……ていうか普通無理でしょ。そんなことしたら土地が枯れるし生産も安定しないし、そも収穫だって人の手いるでしょう。連作障害だってあるし。どうやったの? 種はどうしたのよ』


 相変わらず幽子はそういうとこは理屈から入るね。


『優がザルなの。真面目にどうやってのよ』

「種は以前に自分がヤエに預けたモノでありますな」

『預けたっていうと……あれか』


 確かナオとの戦闘中にエウがヤエに小袋預けていたっけか。


「いつか使う日も来るかと思い預けたでありますよ」

『それって米とかの種?』

「『原初の種』であります」

「なんぞそれ」

「どのタイプの植物にでも変えることのできる種でありますな。年に一つ霊樹から取れるであります」

『……そういうとこはファンタジーなのね』


 そこらは科学じゃないからなぁ。


「収穫に関しては私が作った魔導機ですね。私は収穫用の汎用工作機しか作ってないですから」


 さらりと答えたアカリだけどそれ姉妹召喚シスターコールリングと並行で作ったんか。


「そりゃ悪かったね、リングと並行できつかったでしょ」

「ええ、ほんっと話振るにしても時期分けてほしかったです」

「んじゃ、後でねぎらいついでに肩とか胸とかもんであげるからさ」

「そんな配慮いりませんからっ!」


 胸を両手で隠しつつ後ろに少し下がったアカリ。


『優ってさ、アカリにだけは素でセクハラ発言するよね』


 いやだってねぇ、面白いし。

 そもアカリ自身が結構素でやらかすことがあるからね。

 妹たちが嫌がりそうなポイントを覚えてもらうのと娯楽を兼ねてやってるとこはあるかもね。


「私のことはいいですからっ! 実際のとこ私が見たときはもう耕作地帯に収穫できる状態でみっしりなってましたけどあれってどうやったんですか」


 手を口元から外したシャルがアカリに答える。


「世界樹は地の力を引き上げることができます。テラでいうとこの化学肥料でしたか、ハーバー・ボッシュ法が使えない代わりに王機おうきからの恵みがあるのです。エウがもたらす恵みは無属性なのでそのままでは土地の力には直結しませんがヤエがいれば別です」

「ヤエたちハイエルフは元々自分の眷属なのであります。今でこそ王機から直で恵みを分けているのでありますが、初期のころは先代からの恵みはヤエたちを経由する形で地に入れていたのでありますよ」


 ほう、エルフたちにそんな役割があったのか。


『えっとさ、そうなるとカリス教がエルフ狩ってたのって結構まずいんじゃ』

「ランドホエールが環境維持装置として動作してるなら問題はないでしょうね」


 なるほどね。

 そしてそれを止めかけたわけだ、私らは。


「沙羅は何やったのよ」

「あ、えっとですね。耕作地の土起こしとか田植えとかを『河童の川流れ』でお手伝いしました」

「おー、それはお疲れ」


 私がそういうと沙羅がテーブルの向こう側ではにかんだ。

 夢の中で書き込まれた沙羅に対する改造はそのままなわけか。

 これもセーラの置き土産だわね。


「お水が足りないとこはリーシャちゃんが頑張ってくれました」

「お姉ちゃんが作ってくれた貯水池に水いれただけだけどね。一時間も働いてないし」

「リーシャもお疲れ様」


 こともなげに言うリーシャだけど普通数日がかりだろうね。


「シャルさ、下層部に耕作地作ったってことは下の方は基本居住地にはしない方向なわけ?」

「はい。先々はわかりませんが当面居住は上層部、中層に商業と商店、下層は生産に割り振り工業の類は都市の内部構造に割り振ります。中層に住み込みで働く者は緊急時に上層に移動する手段を保持していることを居住の条件とします」

『へぇ、それって津波対策?』

「いえ、万が一怪獣に侵入された場合に下層から順に戦闘領域として開放するためです。現在、エウの深度が落ちていることから最悪の場合ですと上層以外は護りきれません」


 皆の視線がエウに集まる。


「姉上殿のスキルで再生したときに世代が変わったでありますよ。今の自分は月音殿と共生しながら生きる第三世代なのであります」

「それってどう違うんよ」

「単独では動けなくなったというとこでありますな。姉上殿が組まれた例の新型月華王ルナティリアに自分も組み込まれているであります」


 あー、そうか。

 あの時、都市の下に踏みつけにされてたエウの本体である霊樹もシスティリアに付帯しちゃってるのか。

 つまり甲羅の上に世界樹乗せた玄武になったってことだわね。

 インドのって言われることがある亀の世界観は宣教師が広めた誤解だって説もあるし別ものといっていい。

 私もこの概念は見たことないな。


「そりゃ悪かったね」

「問題はないのであります。ただ以前のように深い深度の怪獣を放逐できるかというと厳しいでありますな」

「そりゃしょーがない」


 無理させたのは私だしね。


「ということは持たせる食料は問題ないのね」

「穀類だけであれば」

「そこんとこどうなのよ。アイラ」


 私は会議に参加してたアイラに話を振った。


「泥と一緒に入り込んでた魔獣とかのお肉を今燻製とかにしてるからまだしばらくは無理だと思う。あとね、アイラ、今日はちょっとお願いがあって」


 アイラがステファのほうを見るとステファが首を縦に振った。


「ボクはあとでいいから。先にいいなよ、アイラ」

「ありがとう、ステファお姉ちゃん」


 小さく頷いたアイラが私たちを見つめながら口を開いた。


「従業員が足りないの」

『アイラのお店、毎日行列できてるもんね』


 アイラのいう従業員とはアイラが今運営してる中層の食堂のことだ。

 元々はレビィティリアにあった有名な食堂をリニューアルしたものだわね。

 メアリーの幼馴染が働いてた店っていった方がわかるかな。

 位置的には私らが住んでる場所から結構離れていて、むしろ兵士たちが住んでいた詰所のほうが近い位置にある。

 昔、冒険者がレビィティリアを訪れていた時には冒険者ギルドが運営してた建物だそうで結構大きい。

 三階建てで一階にはかなりの人数を収納できる大きな食堂が併設されててアイラたちはそこに住み込みながら姉妹たちへの食事を出してるわけだ。


「今って何人で回してるんよ」

「今のとこアイラとフィー、それとナオちゃんの三人だけ」

『それ、絶対人が足りてないと思う』


 だろうね。

 自炊できる子らはともかく、それ以外の子は食べれる場所が限られるから食事時にはアイラの店に殺到する。

 そういう給仕とかは魔導機って奴が向いてるんじゃないかと思ってアカリの方を見るとふいっと横を向かれた。


『優、アカリのこと酷使しすぎだから』


 幽子の言葉に皆が苦笑した。


「いやぁ、わかってるのよ。だから労いに一緒にお風呂でも入って揉んであげようかってたまにいうんだけどね」

「いらんわっ! 風呂とかじっくりと楽しんでなんぼなのに何が悲しくて優姉に揉まれて疲れないといけないんですか。それくらいならまだシャル姉に揉まれたほうがなんぼかましですからっ!」


 ほほぉ。

 ふと、シャルに視線を向けるとそこには口元を隠したシャルがいた。


「ならば今度一緒に入浴しましょうか。ちょうどマッサージ用の新型汎用魔導の試験がしたかったのです。アカリ、お願いできますか」

「え、い、いえ、その……」


 途端にしどろもどろになるあたりがわかりやすくていいね、アカリ。


『優、今の誘導したでしょ』


 さてね。


「それにしてもアイラの店の従業員不足か。つーてもなぁ、ほかの子も結構作業だらけなわけだし遊んでたり暇もてあましてるのっていうと」


 ふと視線を横にずらすといつの間にかそこにいた月影と目が合った。

 お前さんいつそこにきた。

 というかどこに潜んでここまで一緒についてきたのよ。

 私の視線に気が付いた姉妹たちが皆で月影を見る。


「アイラ、猫の手でもいいかね」

「えっと、人の手が借りたいな」


 しゃーない。


「なら、私と月音が手伝いに行くわ」

『ふえっ!? 優ってまともに働けたの?』


 失礼な。


「そりゃ多少はね。ちょうどこの前のその子への悪さした分の罰決めかねてたしね。代わりになんだけどアイラ、その子に食べさせる猫用のご飯、お願いできんかね」

「あ、うん。食材の切れ端とか結構出るからそれつかったご飯でいいなら。あともちろんアルバイト代も出すよ」


 バイト代も出るのか。

 それつかってアカリに月影用の玩具でも作ってもらうかね。


「おーけー、交渉成立だわね。ただ、アイラの店、私はともかく月音を通わせるにはちょいと遠いんだよね。あそこって上は宿になってたよね。慣れるまでしばらくでいいから泊めてくれんかね」


 そう、アイラの店の建物はファンタジー世界王道の宿兼食事処兼冒険者ギルドの掲示板付きという、ここに来てやっと回ってきた普通のファンタジーの建物なのである。

 ちなみに宿の方の清掃や片づけは手の回らないアイラではなくフィーが一手に担ってるらしい。


「ごめん、お姉ちゃん。マーメイドの子とか作業にいく子で部屋埋まっちゃってる」

「ありゃま」


 居住地の整備が進み切ってない弊害がここで来たか。


「なら通うしかないか。あの距離、月音がおとなしくしてくれるかどうかだわね」

「姉さん」


 そんな私の言葉の直後にずっと黙っていたステファが割り込んできた。

 なんだかんだいってずっと働き続けていたステファたち夫婦には、シャルからの提案でこのタイミングで少し休んでもらうって話が出ていた。


「お、ステファから割り込んでくるのは珍しいね。どしたのよ」

「外での監視の引継ぎがひと段落したらボクとマリーも中に居を取るつもりなのは聞いてるよね」

「うん、そりゃ聞いてる」


 ついこの前、ステファたちは兵士詰所の近くによさそうな建物を見つけたとは聞いてた。


「姉さんが良ければなんだが仕事に慣れるまでの間だけでも一緒に住まないか。部屋ならマリーとボクが準備するから」


 おっと、ステファからそういう誘いが来るとは思わんかった。


「なんでなのですか。せっかく一段落ついたのですしマリーお姉ちゃんと二人でゆっくり過ごしてほしいのです」


 首を傾げつつステファを見つめる咲。

 ほかの妹たちも同じような反応を示している。

 「まいったな」といいつつ頭に手を置いたステファ。

 わかりやすくそっぽむいてるとこを見るとアカリは何か知ってるね、ありゃ。

 そんな中、苦笑したシャルがステファに助け舟を出した。


「現在、この都市で自立して居住する際の最低人数は三人からです」

『「「「「「「「あー」」」」」」」』


 なるほどねぇ。


「最初は兵士詰所に住もうとも思ったんだけどね。皆が嫌がってさ」


 そりゃ目の前でイチャイチャされたらたまらんわな。

 大体にして今現在、システィリアで空前の同棲ブームが起こった一端にはステファたち熟年夫婦のいちゃつきに結構な数の妹たちが感化されたってとこも大きい。

 オシドリ夫婦というにはちょいと熱いのよね、ステファとマリーは。


「マリーたちは店があるから動けないだろうと思ってアカリにも声かけたんだけどね」

「だ・か・ら・さっ! ステファ姉もとりあえず私巻き込むのやめれっ! 何が悲しくて手を出せないカップルの直ぐ傍で禁欲生活しなきゃいけないんだよ。というかステファ姉は私と同じ元男なんだからほかの子に声かけろよっ!」

「ボクはアカリなら信用できるし問題ないと思ったんだが」

「私が問題あるんだよっ! 薔薇で作った百合の造花とかどこに需要があんだよっ!」


 その需要、どっかにゃありそうなきもするがね。

 というかシャル相手でも変わらん事がすっぽり頭から抜けてるとこがアカリだわね。

 寝不足もあってきれっぱやくなってるアカリを近くに座ってた沙羅とリーシャが両手をつかんで席に座らせた。

 一方、ステファの方はアカリの剣幕に押されたのか少しへこんだ様子を見せていた。


「ほかの子たちにも声をかけたんだけど断られてしまってさ」


 私はシャルの方を見た。


「シャルさ、特例は?」

「さすがに制度を動かして間がありません、やめた方がいいでしょうね」


 それもそうか。

 ステファの話とはちょいとずれるけど本来であれば座敷童ざしきわらしを移動するのも禁じ手だ。

 あれは幸福を移動させる妖怪だからね。

 ただなぁ、月音に関しちゃこの都市全体が庭的なとこもあって都市内であれば多分移動しても問題ないだろうとは思ってる。


「だめかな、姉さん」


 珍しく弱った表情を見せるステファ。

 マリーとようやくバカンスがとれるかと思ったら制度の変更で危ういとなるとこうもなるわな。


「うーん、アイラさ。当面、長く続けられそうな子が入るまでのつなぎでもいいかね」

「うん。それでも全然助かる」

「じゃぁ、今一緒に住んでるメンツは……」

「お引っ越しの準備しないとなのですね。こういうのは初めてなのです」


 横から聞こえた咲のうきうきした声。


「おっと、咲ちゃんや。もしかしなくてもついてくる気かね」

「当然なのです。妻として単身赴任はさせないのです」


 どこで覚えたのよ、単身赴任。

 あー、そうなると逆にするしかないか。


「幽子、悪いんだけどクラウドと一緒に今の家のメンツと戻るまで過ごしといてくれる?」

『しょうがないなー。でもさ、優』

「なによ」


 幽子が珍しくいたずらめいた笑みを見せた。


『優がいない間にクラウドに居場所取られてたりして』

「そりゃないかな。あとさ幽子ちゃんや」


 私は円卓の端で優雅に茶を飲んでいるワンピースの美少女を指さして続けた。


「意図的に忘れたふりしてるみたいだけどクラリスちゃんね」

『うぐっ』


 やっぱ女の子としてのクラウド、クラリス相手だと反応が全然違うんだよなぁ。


「あんまりハニーをいじるのはやめてほしいな」

『その格好で私に笑いかけないでー』


 赤くなった幽子が机に突っ伏した。

 同じように机に突っ伏していたアカリから呻きが聞こえる。


「ちくしょー、どいつもこいつもさかりやがって。仕事三昧の私にも誰か癒しくださいよー。もうこの際誰でもいいから」


 眠気もあるんだろうけど完全に駄々っ子状態だわね。


『誰のせいよ』


 主に私。

 そんなアカリの肩にポンと置かれた手。


「えっ、まじっ!? だれっ!」


 がばっと体を起こしたアカリの瞳に映ったソレ。


「おまえかよっ!」


 いつの間か円卓の上に移動していた月影だった。

 アカリ、どんまい。

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