龍神妹奇譚
「勝者、セーラ!」
勝利への歓声が響く中、私たちは選手控室に戻った。
あれから三日が過ぎた。
今日を除くとレビィティリア崩壊まで後三日。
順調に勝ち星を増やした私らは四戦全勝。
今回私らが立てた作戦はかなりギリギリだ。
一度でも負けたら詰み、だから負けられんのだけどね。
最初のころは結構いた選手も随分とその数を減らし、控室には私達だけがいた。
融合状態をとくと強い
そんな情けない状況でうずくまった私の背中をセーラがそっと撫でてくれた。
『そんなにつらいならいつものように他人事ってことにして棚に上げてまえばええやん』
「ユウちゃん、これについては私も同感よ。あなた相手を説得するたびにどんどん摩耗してるじゃない」
「まあね。でもここで逃げたら姉としてリーシャに合わす顔がないからね。あと三日だし気張っていくしかないさね」
そういいつつこみあげてくる吐き気に心身ともに追い詰められているのが自分でもわかる。
私のオンミョウドウ『
あの本を言い表すとすると、そうさね、日本の物語、竹取物語のおばあさんが実は
かぐや姫の入った竹を探すとこから陰陽師の技が炸裂するってとこから察してほしいかな。
それを土台に、我流の
そうやって創作した私のオンミョウドウの基本は自己の傍観視にある。
自分の物語も含めてすべてはなる様にしかならない他人事であるとまずは認識し、人の人生は入力と出力で組み合わせられるブラックボックスの一種だと仮説するのよ。
その上でストーリーラインや世界設定、人物設定や言語パターン等を参考に、その人物がふとある時につい行ってしまうであろう行動のパターンをデータとして叩き込み、その莫大なデータから導かれる最善の行動選択肢を類推することで相対的多数の幸福が得られるのではないかという幻想を土台に組み上げた、いわば現実を舞台にした
そうやって我流オンミョウドウを形成する過程において、私はちょっとだけ他人より多くの心の棚作りに成功した。
あと、精神的にも準物理的にも自分の心やそれに紐づく魂かなと思われる情報群を分断保存できるようになった。
これでなにができるようになったかというと、精神的なダミーを複数配置することでそれに精神系ダメージを肩代わりさせるというちょっと変わったことができるようになった。
師匠の一人から言われたとこによると呪術的代価行為を精神世界に持ち込んだようなものらしいね。
師匠達にも何度か言われたけど普通の人はできないらしい。
けど、できちゃったんだわね、私は。
その結果、私は限定的特殊状況下であれば他人の心に強制的に共感することで行動を誘発、もしくは数分先のその人の言動をおおよそ八割の精度で的中できるようになった。
この私の技法の特徴は、相手を完全に理解できていなくてもそれとなく共感できれば頭に叩き込んだデータとの類推一致により大体見当をつけて対応できるということにある。
人間の脳ってのはある種、最新のコンピュータ真っ青な能力を備えたバイオコンピュータみたいなものだと師匠の一人はいっていた。
ならば、ソフトをいじることで自在に使えるんじゃないかって思うじゃない。
そして実施してみたわけだ。
『お前さん、実は前世、人間やのうて機械で出来てたとかとか言わんか』
「いやぁ、言いたくなる気持ちもわからんでないけどそうではなかったっぽいよ。少なくとも生理学上はヒトゲノムで構成された人間だった」
「いいから少し楽にしてなさい。ユウちゃん、このまま悪化するようだと明日以降は試合に出さないわよ」
「それは困る」
「ならそこに横になりましょう」
そう言いながらセーラがベンチに腰を掛けた。
足元にいた白ちゃんが心配そうにうろうろしてたので軽くなでる。
フワフワしたその感触にちょっと癒されるね。
「ここに頭載せて」
そういってベンチに座るセーラの膝上に誘導された。
なのでおとなしく膝枕されつつ横になる。
あー、かなり楽だわ。
あとすごくいい香りする。
ちょっとは男くさい匂いするかと思ったのに。
私も大概におかしい自覚はもってるけど、セーラもほんと標準からは外れてるね。
外からは歓声が聞こえてる、試合盛り上がってるみたいね。
『大体、売り子してるマーマンまで
「一応ね」
この三日、身体を整えるのと並行して相手の戦力の切り崩しをさらに進めた。
会場で売り子してたりチケット販売とかコインの処理してるマーマンたちをアカリの手引きを借りて片っ端から妹転換。
今日時点でやっと会場にいるマーマンはすべて妹化することに成功している。
ちなみにそうやって転換した妹らは水をかぶると下半身が魚になるとこを見ると、単純にマーメイド化しただけっぽいわね。
「あの子たち全部アカリちゃんの下でよかったのかしら。アカリちゃんてんぱってたわよ」
「ええんちゃう。何かの拍子に妹を大量に量産したらアカリに預けるってシャル達と決めてたし」
『いつから妹は量産されるようになったんや』
そりゃまぁ、私が土台にした古書の同人本に勝手にかぐや姫の妹を追加設定したところからじゃないかな。
『あほか』
「せやね」
頭を撫でてくれるセーラの手が気持ちよくてついウトウトする。
体からの情報に任せて適当に流してるのっていつ以来だったなぁ。
「ねぇ、ユウちゃん」
「なによ」
私が短く答えると頭の上からセーラの声が降ってくる。
「あなた、自分を大切にしないわよね」
「そうでもないんだけどなぁ。妹が先で私自身の優先順位が低いだけで自分自身も大切っちゃ大切よ」
私がそういうとセーラの苦笑する吐息が聞こえた。
「あなたは本当に妹が大切なのね」
「そりゃまぁ、愛しているからね」
「その愛しているに自分は入れられないの?」
ははっ、やっぱみんな似たこと言うんだなぁ。
「これでもがんばっちゃいるんだけどやっぱ自分に薄情かね」
「ええ」
別に自分に対する罰だとかそういう考えではないんだけどね。
「心配かけて悪いね」
「それは構わないのだけど……そうね。どうしても難しいというならいっそあなた自身も妹としてみる事ってできないかしら」
「へっ?」
なんぞそれ。
「あなた、妹なら本当に大切にするんだもの。あなた自身もその妹の枠に入れちゃえばいいんじゃないかって思ったのよ」
「ははっ、その発想はなかったわ」
私自身を妹として見立てるか。
そりゃまた面白いことを考えたね、セーラ。
なまじ向うの方ではリアルで姉がいて普通に妹としての立場もあったものだから盲点だったわ。
「私はあなたが心配よ、ユウちゃん」
「わるいね。それと……ありがとう」
セーラが介抱してくれたおかげで随分と楽になってきたかな。
この心身の不調は簡単に説明すると技法を使ったことによるリバウンド、ではなく敵対した妹の心を折る際に真っ向から対応したことによるダメージだ。
要は自分で自分のこと精神的に刺しまくったってことだわね。
大体、この町でどうしても叶えたい願いとなると死者をよみがえらせたいとか、津波に関したことになるのはある意味分かりきってたことで、妹たちの必死なその願いを蹴り倒すにも結構な精神疲弊がある。
いつもならそれはそれと逃がしてるんだけどね。
今回は、真っ向から向き合うことにしたのさ。
シャルや幽子と約束したからね。
それにしてもセーラが優しくなでてくれるのが気持ちよくて眠気が強い。
あと三日、この人生の夢という名のくそげーが終わったら……私は
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