神妹化

 見渡すと血色がいいといえば聞こえがいいが、肥満と不健康の見本市みたいな連中が雁首をそろえていた。

 私はリーシャを傍に下すと少し離れた位置にいたトマスさんを指さす。


「リーシャ、あのおじさんのとこでちょっと休んでて」


 私がそう伝えるとリーシャは小さく首を縦に振り、午前にあったばかりのこの都市の長のとこに駆け寄っていった。


 さてと、リーシャはあの人に預けておいてこっちも適当にこなしますか。

 レビィの力で作り上げた水の蛇を大量に伸ばして、そこらをうろついている各自の月華王げっかおうの端末を捕まえていく。

 すると、その全員のやってきたことやら、これからやらかすことが絵巻のように見れた。

 思ったほどは頭痛くないのはレビィのおかげかな。


『こんなん普通の脳みそで処理したら頭パーンになるで』


 流石にパーンはやだな、レビィありがとう。

 ざっと全員の精神構造、並びにレビィティリアにおける記憶を適当に分類、精査してみる。

 あー、こりゃだめだわね。

 普通なら死んでも直らないとさじ投げるレベルだわね。

 とはいえ、先々のことを考えると、ここの連中の協力は必要。

 そうなるとだ、ギリギリを責めた結構な荒療治が必要かもね。


「これは、一体何事ですか」


 遅まきながら神殿や要人の警護をしていた兵士たちが舞台へと走り寄ってきた。

 兵士の一団、その少し離れた場所にさっき危険だと声をかけてくれたアルドリーネの思い人、カールも来ている。

 ふーん、この人死んでるけどそこそこに自立行動してるね。

 どこに差があるんだか。


『どないするきやねん』


 私の頭の中にレビィの声が響く。

 外に声を出すときと出さないときとで切り分けできるみたいね。

 ちなみに考えは読めてるのかな。


『読めとるで。ちゅーかあのままやったら、自分、リーシャもろとも死んどったで』


 いやー、つい。

 考察に夢中になってて完全にやらかしてた、さすがに反省してる。

 こっち来てからだと強制的に意識引き戻してくれる幽子がいたものだから失敗したわ。

 レビィが私の中に入り込んできたときは何事か思ったけど、助かったよ。

 しかし中に入るか、そうするとあれだわね。

 二人目の逆融合はレビィになるのか。

 じゃぁ責任とってね、おにーちゃん。


『あほか、なにがおにーちゃんじゃ。ユウみたいなんがそないに言うても色気もへったくれもないわ』


 ははっ、違いない。

 私はレビィとじゃれつつ先ほど見た幻想の風景を思い出す。

 アレはレビィの記憶かな。


『ほんまこの手の女はろくな事せーへん。マジえんがちょや』


 まぁ、そういわんでよ。

 と、気が付くと刃物を突き付けられてるね。


『お前さんが脳内会話にかまけて外の連中ガン無視したからやろな』


 しゃーない、あんま手を出したかないんだけど。

 レビィ。


『しゃーないな』


 私が指示を出すとレビィが操作する水が縦横無尽に飛び交った。

 次の瞬間、水の刃でみじん切りにされた兵士たちの刃物が耳障りな音を立てて床に落ちる。

 兵士たちの防具も砕けてるけどレビィ何かやったのかな。


『ついでや。守り固めてるからとかくさられても困るやろ』


 下に来てた服は全然切れてないあたり、流石大怪獣レビィアタン、痒い所に手が届くね。

 しかし想定はしてたんだけどね、妹融合の逆転版。

 実際、今リーシャの治療で私の中にリーシャ入れてるわけだし。

 とはいえ次の相手が怪獣相手になるとは思わなんだなぁ。


『誰のせいやろな』


 大体まるっと幽子ゆうこのせいです。


『なんやな、ユウの傍におるっちゅう星神ほしがみの娘、ちょっと気の毒になってきたわ』


 そうかね。

 おっと、逃げようとしてるのがいるね、レビィ。


『はいよ』


 レビィが湖から引き出した水を使い周辺にいる人間全部をひょいひょいと運んでくる。

 ひーふーみー、一杯いるわね。


『じぶん、どんぶり思考にもほどがある』


 よく言われる、というか丼ぶり思考ってなによ。

 巧みな思考をしてて実に旨いってことかな。


『ちゃらんぽらん言うてんのや』


 それはあってる。

 それにしても、やっぱこういう魂の掛け合いってのはいいもんだわね。

 こっちに来て半月超えたし、いい加減、咲や幽子にも会いたくなってきたわ。

 おっと、トマスさんの方に酷い顔つきの奴が一人いったね。


「うがっ!」


 水でそいつの全身を締め付ける。


「そぉい!」


 そのまま池の中心部に投げ入れると、バタバタと暴れて泳いで岸に向かおうとするけどそうは問屋が卸さない。

 私は湖に大量の水蛇を出現させて、その男をそのまま水へと引き込んだ。


『なんや、お前さんもワイの力使えとるやん』


 そうみたいね、にしてもレビィは冷静だね。


『まぁ、死ぬときゃ死ぬもんや。力の差も理解せんでアホなみ付きかたしおった奴が悪い』


 流石は力の蛇。

 私がそう考えるとレビィが私の精神をぎゅっと握るような、そんな不思議な感触がした。


『お前、どこまでワイの記憶覗きおった』


 ひ・み・つ。


『イラっとするわぁ』


 よく言われる。

 反省はするけど改める気はない。

 さて、今回突発的にできちゃったけど、今レビィとしてるこれは妹融合の逆だわね。

 私の体にレビィが下りてる。

 さっき水面に映ったのをみたけど、髪の色が脱色されてるのってレビィの影響かな。

 そのうち試そうとは思ってたんだけど思わぬとこで試運転できたのはラッキーだったね。

 今進行形でリーシャも私の中に降りてるからこれ二人目になるか。

 いやレビィは一匹だから一人と一匹かな。

 しかし連続でできたってことは、これ手法として本格的にいけそうではあるね。

 よし、いい機会だから命名しよう。

 オンミョウジ、ユウ・アンドゥ・シス・ロマーニが暫定にてここに命名する。

 疑似スキル『神妹化しまいか』、神の妹に化けると書いて『しまいか』と読む。

 妹がいない、親の再婚予定もない、義妹が湧き出る隙もない。

 そんな妹のいない老若男女にビックな朗報。

 妹がいないなら、自分が妹になればいいじゃない。

 新疑似スキル『神妹化』が、なんとっ、今ならたったの河童かっぱ一匹分でご提供。


『自分、何言うとんの』


 私の心で展開されていた脳内ネットショッピングにレビィが突っ込みをいれた。

 そういや、なんだか騒がしい気がする。

 慌てて外へと意識を戻すと、一人の男が額に青筋を立てて私にクレームを入れていた。


「説明してくれっ! あいつが一体何をした!」

「私の妹に害をなそうとした」

「まだしてないだろう!」

「ほっときゃ間違いなくやった。私、今神がかってるからね、断言できるよ」


 それとまだ殺してないからね、池に沈めた彼もきちんと生かしてある。

 ほんとレビィの力も便利だわ。

 死なないギリギリにできるように空気与えたりできてるし。

 なんか私だけができることが少ないよね。

 代わりに幽子がいるから別にいいけどさ。


「私を誰だと思っている。ティリアの姉妹、シスの恩寵おんちょうを受けるオンミョウジよ」

「だからって殺すことはっ!」

「うるさいよ」


 私がぼそりと言いながらソレを睨みつけると周囲が静かになった。


「一族郎党みじん切りにして酢飯すめしの具に入れて、さぁおたべって皆に振る舞わないだけありがたいと思いなよ」

『お前さんはどこの悪狐あっこやねん。あと酢飯に対する風評被害やめぇや』


 おっとさすがに言葉がきつかった。

 ふむ、なんかわからんけど私の精神状態が荒れてるわね。


『あかんな、ワイの影響が出過ぎとる。お前さん、破壊衝動に身を任せすぎや。すこし八つ当たりしとるで』


 おっとそう言うことか。

 確かに八つ当たりによる過剰防衛かもしれんわね。

 セルフコントロール実施、認証フィルター多段で追加と。

 よし、これで良しと。

 さてそろそろ引き上げますか。


「次はないからね」


 先ほど湖に沈めた男を水の中から引き揚げ舞台の真ん中におろす。

 肺の中とかに入り込んでいた水を全部自走で外に出す。


「げほっ、げぶっ! げぼぉっ」

「もうちょいまってね」


 その彼の体内の水分を全制御。

 体調を整えて筋肉の制御もこちらに簒奪する。


「ほら、もう大丈夫よ」

「ひっ!」

「こらっ」


 逃げようとしたので私の方で制御して直立不動の姿勢をとらせた。

 ここで手を抜くと、こいつらにリーシャや沙羅が狙われるのが目に見えてるからね。

 沙羅はともかくリーシャはこの手合いに狙われると今んとこどうしようもない。

 セーラやアカリはこの程度の奴らが相手なら余裕で自衛できるだろうけど、さすがにリーシャだとね。


「あ、あがががが」

「ちょっとやりすぎちゃったからね、治療は無料よ。次に妹に手を出そうとしたら覚悟しなよ」


 何とはなしに近くにいた初老の女性を見つめるとひぃっと声をあげられた。

 いきなり悲鳴とは失礼な。


「夢だと舐めてるなら後悔の準備しとくといいさ。死後も含めて追い回すからね」


 私が満面の笑みでそういうと男が涙を流した。


「感謝の涙ってのはいいもんだわね」

『絶対違うと思うで。ちゅーかお前さんエライエグイいたぶり方するな』


 今のセリフはレビィに意図的に音に出してもらう。

 響くレビィの声に腰を抜かした人もいるね。

 さっきも聞いてたはずなんだけど。


「言ったって聞かない相手にはね。さてここからが本題、さっき言った通り皆の退屈をはらってあげよう」


 息をのんだ周囲の空気をあえて壊すように私は柏手を一つ打つ。


「皆さんの所業に月の女神、ティリアが激おこです。結果、この都市は後二週間で木っ端みじんに破壊され、全員死ぬこととなりました」

「「「「「「「「なっ!」」」」」」」」」


 どよめきが広がった。

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