夢見る月兎が招くもの
よく晴れた海を見ながら冷やし中華を口に運ぶ。
ここ数日は大家さんであるセーラさんの厚意に甘えて食事をごちそうになる日が続いている。
店兼ご自宅、その二階にあるセーラさん達のベットとテーブルのある私室で食事ってのが自営業者らしいっちゃらしいわね。
寝室兼リビングのその部屋には女性らしい小物や掛物、セーラさんがリーシャに作ったと思われる手作りのぬいぐるみが並んでいた。
足元には私の白ちゃん以外にも二匹の白兎がいる。
さて、この夢に入ってから検証したことでどこまでいけるか、やれるだけやってみるしかないね。
「ほんとおいしいですよ、セーラさん」
「ありがと、ユウちゃんがもらってくれた食材があるからまだまだ作れるからね。遠慮しないで食べて頂戴。お家賃も前払いしてもらってるんだし遠慮しないでね」
家賃に食費は入ってないと思うんだどね。
「ありがとうございます。じゃあもう一杯ください。アカリは?」
「え、あ、はい。いただきます」
「はーい、ちょっとまってね」
細身の長身によく似合った上下そろいのワンピースっぽい服を着たセーラさん。
前につけたエプロンについてるワンポイント刺繍がいい味を出してる。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
それにしても何かわからんけど何かの卵焼きにハムにキュウリっぽい野菜、マヨネーズも横についてるとは本格的というか。
そういやマヨネーズは地方によってつけたりつけなかったするんだったっけか。
「んぐ、けほっ」
「もう、リーシャ。そんなに慌てて食べないの。お水飲んで」
そういいつつセーラさんがリーシャに水を飲ませてあげてる。
こうやって姉妹が仲良くやってるのを見るってのはいいもんだわね。
「なにかしら、私の顔になにかついてる?」
不思議そうに小首を傾げたセーラさん。
高めの身長、整った美貌に少し低めのきれいな声。
シャル達で見慣れたつもりだったけど美人ってのはいるとこにゃいるもんなんだわね。
「いえ。とても仲がいいんだなと思って」
私がそういうとセーラさんが花が咲くような笑顔を浮かべた。
「リーシャが可愛いからよ」
「おねーちゃん、はずかしーいー」
ははっ、ほんと仲がいい姉妹だわね。
ふと横のアカリに視線を向けるとなんというか明らかにセーラさんのほうから視線をそらしてる様子がうかがえた。
「どしたのよ」
「どうしたもこうしたも。優姉がどうしてそう平気でいられるのかのほうが私にはわかりませんよ」
「そうはいってもねぇ、大体アカリだって気が付いちゃいるんでしょ」
「当たり前です」
二人でセーラさんのほうを見やると、どうしたのって感じでセーラさんが首を傾げた。
「セーラさん、食後でいいんですけどちょっと相談が」
「あら、オンミョウジでも相談が必要だったりするの?」
「まぁ、いろいろと」
「わかったわ。その前に二人ともちゃんと食べて頂戴ね」
「はい」
頷いた私とアカリ。
再び冷やし中華の麺を口に運ぶ。
しっかりとしたラーメン生地の歯ごたえ、そしてタレの味が口に広がる。
びっくりするほどあちらの世界の味が再現されているのだけれども、卵の味わいとか肉の硬さとかが微妙に違ってたりする。
あと、キュウリというよりアボガドっぽい野菜も。
「この町ってなんか余裕がありますよね」
私がセーラさんに話を振るとセーラさんが少し陰のある笑みを浮かべた。
「そうね。ほかの地域に比べると食べ物もいっぱいあるしお洋服を楽しむ余裕もあるわ」
「他だともっと貧乏だったりとか」
セーラさんが首肯する。
「昔、しばらくの間お世話になったコナラ村とかは本当に大変だったわ。ここが優先的に満たされてるのはロマーニ国にとって重要な場所だからってのもあるかもしれないわね。おかげでお洋服を売る仕事も成り立つのよ」
「なるほど」
「あうっ、おねーちゃん、お汁おぼした」
ふと見るとリーシャの服にはねた冷やし中華のタレがついていた。
「あら、はねちゃたのね。リーシャ、着替えてらっしゃい。あと食べ終わったならお皿お台所に下げておいてね」
「はーい」
リーシャが食べ終わった皿とフォークをもって部屋から出て行った。
月兎のうちの一匹がその後をついて出て行った、つまりはアレはリーシャの月華王ってわけだわね。
ちらりと他の兎に視線を移すと一匹がアカリの膝に乗って寝ていた。
そして白ちゃんは私の傍にいる、そのまま視線をセーラさんに移すと視線が絡み合った。
「どうかした?」
「いえ」
お代わりをもらった関係もあって私とアカリはまだ食べ終わらず、すでに食べ終わったセーラさんがテーブルの上に手を組んでその上に頭を載せて楽しそうに見てる。
すっごくかわいい、そして無駄に女子力たっかいわー。
つーかあざとい。
「そういえばアカリちゃん」
「ふぐ、ぐむっ、はい、なんですか」
「ごめんなさいね。ちょっと気になったものだから」
アカリが麺を飲み込んだ後でセーラさんが再び口を開いた。
「貴方、男の子よね。その姿って
「え、ええ。まぁ。よくわかりましたね」
しれっと嘘ついたね、この子。
「まぁ、いろいろとね。仕草とか慣れてないのが初々しくって。今度、女の子らしい動き方教えてあげるわ」
「え、えーー。まぁ、別にいいっちゃいいんですが、というかそんなに変ですか」
セーラさんが笑いながらアカリに応える。
「基本、女性の動作っていうのは骨格の関係もあって内側に円を描くように動くのよ。モーションとしてはっきり見せようとするとモデルさんの動きになるわね」
「なるほど」
セーラさんが手を伸ばしつつ話を続ける。
「ユウちゃんなんかは初日に気が付いてたみたいだけれども」
「そりゃまぁ、前振りもありましたし」
私がそういうとアカリがため息をついた。
「正直、変なとこで寝ぼけてるって聞いてたので気がついてないかと思ってました」
「いつも言ってるじゃない、大体、わかったって」
「大体といいつつ要点はずしてるよな」
アカリ、素が出てる。
「そこらへんも要練習ね。この町になにかお仕事があってきたんでしょ、二人とも」
「はい、あ、ごちそうさまでした」
「あ、いつの間に。ちょっと待ってください、まだ食べてるんですから」
おしゃべりしながらの食事ってのはマナーは悪いかもだけど楽しいもんだわね。
そんな感じで食事を済ませた私たちは再びセーラさんと向き合った。
目の前にはセーラさんが入れてくれた食後のお茶が用意されてる。
「…………」
いかんね、こういう時、外だと
「優姉、切り出さないんですか」
「ああ、あれよね。セーラさんが男だって話よね」
セーラさんから小さなため息が聞こえた。
「やっぱり気が付くわよね」
私がそういうとセーラさんが苦笑しながら頷いた。
そのそばでアカリが何言ってるんだこの人って顔しながら私に食いついてくる。
「ちょ、ちょっと待ってください」
いや、アカリが何言いたいかはちょいとわからんけどセーラさんが男はたぶんガチよ。
以前見たリーシャの小さい頃の記憶に一緒に風呂入った奴あったしね。
女性にはついてないよ、一物は。
「まさかと思いますけど優姉、本気で気が付いてないんですか」
「気が付いてるって。わかったうえで言っちゃおうかなと」
このタイミングで言っていいのかどうかは悩むとこだけどね。
「いいんですか、本当に。あと知りませんよ、私」
「いいよ、もめたらもめたであとは私が何とかする」
「じゃぁ……私から。セーラさん」
「なーに?」
アカリが恐る恐るといった形でセーラの方を見ながら口を開いた。
「貴方、
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