姉妹しかいない

「おかえり、上、どうだった」

『駄目、思いっきり探してる。このあたりにいるはずだって叫んでるよ』

「それはそうでしょうね」


 シャルが地下に緊急で掘った穴の中、同じくシャルがともしてくれた魔法の光の下で相談をする。

 これが松明だったらすぐに酸欠になったかな、どのみちそのうち詰むと思うけど。


「さてと……みんな意識は大丈夫?」


 私が見渡すとキサ、シャル、幽子に合わせて新規に妹になった五人が頷いた。


『ねぇ、優。五人がそっくりに見えるのってあたしの気のせいじゃないよね』

「時間無かったからね、個別にイメージしきれんかった」


 キサより少し大きいくらい、大体十二歳くらいに再構成された五人は五つ子かと思うくらい容姿が似ていた。

 あと一人いたら某松が付く家のとこの子になれたね。

 それでもまぁ、雰囲気や表情がそれぞれ違うのと髪と目の色が全員違うので覚えれば間違えないとはおもう。


「あー、まずはごめんね。シャルには許可取ったけど各自の許可取る時間は無かった。最後まで面倒見るから勘弁して」

「いえ、そんな……」

「頭を上げてください」


 私がそういって頭を下げると五人があわてた様子で返してよこした。


『それにしても優、あんたのスキルって接触必須じゃなかったっけ』

「さわってたよ、私の視界の中では」

『ちょっと、それってありなの』

「しらん、正直賭けだったけどいけたからいいんちゃう。それと念の為、五人からあふれてた血に足突っ込んでおいた、あれなら一応触った扱いになるだろう思って」


 そんな感じに私が足を突っ込んでいた重症だった五人からあふれ出ていた血だが、五人が妹になると同時に消失していた。

 このあたりやってる奴が言うなって言われそうだけど、どこがどうなってるんだかさっぱりわからんわね。


「あの……それでこの後どうすれば」


 そう不安げに呟く赤みを帯びた金髪の少女、ステファリードことステファ。


「まずは戦力確認とそれぞれの今の状態かな。全員、ステータス開いて」

「そうですわね、では皆いいですか?」


 全員が頷いた。


『「「「「「「「「オープンザウィンドウ」」」」」」」」』


 うわ、なんだこれ、私のだけじゃなく全員のスキルも表示されてるのか。


 <安藤 優>


 MP:230


 種族:トライ

 龍札:勇者


 スキル:妹転換


 妹:幽子、キサ、シャル、ステファ、アイラ、フィー、マリー、リーシャ


 <幽子> スキル:─

 <神楽キサ> スキル:トライ招来、王機操作おうきそうさ

 <シャルマー・ロマーニ7世> スキル:─

 <ステファリード> スキル:金操作

 <アイラト> スキル:火操作

 <フィーリア> スキル:地操作

 <マリーベル> スキル:木操作

 <リーシャ> スキル:水操作



 妹のとこに全員が入ってる……が、これ本名じゃなくて私が意識したあだ名だわ。

 下は本名だと思うんだが幽子がそのまま表示されてるのが笑う。

 新規の五人は後にするとしてシャルと幽子はスキルなしか。


「キサ、王機おうきってなに」

「えっと……これです」


 キサが服の中から中にクジラが泳ぐ水晶玉を取り出した。


「キサ、それ抱いて寝てたの?」

「はいです」

「それは私が念の為、肌身はなさず持っているようにと言っていたのです」


 二週間前は袋に突っ込んでた気がするけど、まあいっか。


「今使える?」

「ごめんなさい、今は無理なのです」

「わかった」


 そうなるとシャルと五人が頼みになるわけだ。


『さらっとあたしは抜いたわね』

「私自身もぬいてるって。さて……」


 表示されているスキル通りならかなりの戦力だと思う。


「シャル、あとどれくらい持ちそう?」

「正直いいまして……そろそろ限界ですわ」

「よし、なら最初は……フィーリア」

「はい、なんでしょう」







 あれから一週間が過ぎた。


「フィー、ここちょっと追加で掘ってくれる? 正方形の大きさに大体二メートル四方で」


 私のリクエストに茶色の髪の妹、フィーリアが答える。


「承知いたしました、お姉さま」


 フィーが触ると途端に土が形を変えていく。

 一分もしない間に綺麗に整えられた正方形の空間が出現した。


「よし、次はベットかな。フィーありがとう、キサの所に戻ってて」

「わかりました」


 この一週間でこの土中に作った部屋の数は大凡二十部屋ほど。

 今作ってるのは追加の作業用の部屋だ。

 部屋から部屋に移動して木材室と暫定で呼んでいる場所にはいる。


「えいっ」


 緑色の髪の少女、マリーが薪に手をかざすと乾いた薪からみずみずしい芽が出現し、そのままぐんぐんと樹木が生え伸びていく。


「せいやっ」


 金色の髪の少女、ステファが伸びた木に斧を振るって薪にする。

 この繰り返しで材木が増えていく。

 質量保存とかエネルギー保存則とか何それおいしいのって勢いだ。


「ステファ、悪いんだけど後でまたテーブルとイス作ってくれる?」

「いいけど、多少、時間がかかるかもしれないよ」

「そこはいいよ、マリーと二人でゆっくりやってて」


 私がそういうと二人が傍によってはにかんだ。


「うん、わかった。姉さまはこの後どこに?」

「台所によってからちょっとシャルと打合せ」

「姉さんは忙しいね」


 ねぎらってくれる妹ってのはいいよねっ!


「まあね、じゃあとで」


 なお、この二人は元々夫婦である。

 妹化してから関係がどうなるかちょっと心配だったのだが特にひどくなりそうな気配もなく仲睦まじくしてる。

 つーか目を離すといちゃいちゃしてる。

 そのままの足で台所に行くと水と赤い色の髪が見える。


「これくらい?」

「もーちょっとお願い」

「はーい」


 手のひらから水を出しているのがリーシャ、どこからともなく火を起こしているのが元王宮廷料理人のアイラだ。


「お、今日って何か煮るの?」


 にやっと笑うアイラ。


「えへへ、後のお楽しみ」

「りょーかい」


 そのまま先に進む。

 トイレの前の位置でキサにあった。

 まだ数は作れてないけどステファが作った木の扉がここには設置されている。


「にゃ、お、お姉ちゃん」


 泡を食っているのがかわいい。


「あー、あれ。フィーは?」

「お部屋です。ちょっと……」

「あー、うん。じゃあとで」

「は、はい」


 そさくさと部屋に戻っていくキサ、ここ一週間、キサは何もすることがなかったことから元侍女の子達に適当に勉強を付けてもらっていた。

 さてと、私はトイレの扉に手を置きおもむろに……


『馬鹿なの、死ぬの?』

「うわっ、びっくりした」

『というか変態』

「ちがう、姉としてね」

『普通の姉は妹のトイレの直後を意識して開けない。つーか、地下水脈に流してるんだから何もないでしょ』


 そう、ここのトイレは水洗式なのである。適当に掘ってたらぶち当たった地下水脈にそのまま流してるのである。

 環境汚染?

 知らんね。


『あれさ、万が一、詰まって逆流してきたら大惨事になるんじゃ』

「まぁ、土操作のできるフィーがいい感じにいじったっていってるんだし信じるしかないんじゃない」

『そうね、あ、シャルが呼んでるよ』

「うーい」


 さて、再確認である。

 あれから一週間、結論から言うと私たちはそのまま地下に引きこもった。

 いやね、新しい妹たちがスキルを身につけたわけだし、実質殺されたわけだからさ、報復するってのも考えたんよ。

 でもなぁ、ぶっちゃけめんどくさい、結果論としては生き残ったいもうとになったしね。

 それにせっかく可愛い妹が五人も増えたのに堪能しない手はない。

 ということで私の思いつくままに地下に生活空間を広げ幽子を主体とした食料などの採取を行うことで、なんということでしょう、殺伐とした地下の空間が夢のような妹尽くしのマイハウスに早変わり。

 各所にひかる匠の妹観察用の仕組みが光る一品です。


『ぶっちゃけ覗穴よね。あれみんな気が付いてるからね』

「でもほたってるじゃん」

『あきらめたんだよっ!』


 二日目に幽子が見つけてきたヒカリゴケが移動する私たちをぼんやりと照らす。

 幽子とじゃれているうちにシャルの所についた。


「お姉さま、今日は何を」

「適当に部屋作ってた」

『そうやって無計画に増やすのってどうかと思うんだ』

「いいじゃん、ここ一週間でまた食べ物も充実してきたことだし」

『つーかさ、その食料の調達って私が見つけた食べれる草をフィーのスキルで部屋まで運んでマリーの増殖で増やしてるのと、私が囮になってフィーの掘った落とし穴に落とす作業だよねっ! 主に負担重いの私とフィーだよねっ!』

「せやな」

『なんでそこで関西弁っ!?』


 そんな私たちの掛け合いが終わったころにシャルが声をかけてきた。


「初めはどうかと思いましたが……マリーが空気の清浄魔法と同じことができるとわかったあたりから諦めました」

「前も聞いたけどシャルも一応、あの子らの出来ること全部できるんでしょ」

「ええ、ですがマナを摩耗するのであのように頻繁にはとても。お姉さまやあの子たちが使うスキルは私の魔導とは根幹原理が違うようですね」

「みたいね」


 一応補足すると私もあの五人もスキルを使うと疲労はする。

 ただ、シャルが魔法を使っての負担と比べると桁が違うんじゃないかってくらい同じくらいの疲労で多くの結果を出せる。

 そのかわりできることはきっちり限られている。

 水操作と言ったら水操作だけ。


「シャルがたとえばリーシャと同じことしようとしたらどうなる?」

「ウォータークリエイションにアクアセンサー、ウォーターコントロールなどを複合しないといけないので、同じように実行したら一時間ぐらいしか持ちませんわ」

『一時間もつんだ……』

「シャルだと比較がわるいんだろうなぁ。結論を聞くけどあの五人のスキルで上でキャンプ張ってるカリス教、処理できると思う?」

始末してころしてよいのであれば。無力化となると相手の数が多すぎて困難です。あの子たちのスキルは多数同時には発現しないようですので」

「だよなぁ……」


 そこなんよね。

 並行多数となると間違いなくシャルのほうに軍配が上がる。

 だから、殺していいという前提なら初日から行けたと思うんだ。


『やればいいのに』


 幽子の声に陰が篭もった。


「ただなぁ、きれいごとではあるけど食べないものはあんま潰したくないんだ」

『何を馬鹿なことを、あんたの妹になった連中を殺しかけたんだよっ!』

「まあね。だからさ、潰すのは別にいいんだけどさ」

『いいんだけどなに』


 幽子はそもあれだしな。

 ぶっちゃけ先のことを考えてあんまり脅威度を上げたくないだけなんだけど。

 まぁ、思ったこと言えばわかってもらえるか。


「人間って食べてもあんまおいしくないって聞くのよね。私としても妹たちに人肉はできれば食べさせたくないな」

『「え”」』

「正直、主の教えとか、道徳とかとっくの昔にゴミ箱につっこんでる私だけどさ。やっぱり日本人としては殺した生き物はきちんと食べたいよね。アイラにもそれとなく聞いてみたんだけど人間のおいしい調理方法ってこっちにもないみたいだしさ。できれば無駄に殺りたくないんだよね」


 シャルと幽子が沈黙している。


「まぁ、つーわけで連中とぶつかったら砕いてシェイキングした上でフィーに土に入れさせる必要が出るわけで。ぶっちゃけめんどい」


 思うがままにそういうと幽子とシャルがなにか相談しているのが聞こえた。

 なんとなくはわかっちゃうけどあえて聞かないふりをする。


「で、とりあえず姉妹の中では年長の私らで先の計画を立てたいわけだけど。どうする、幽子、シャル」


 一分ほどの沈黙。


「逃げましょう」

『賛成』

「二人ともそれでいいの?」

「ええ」

『あんたがさっきのを本気で思っている以上、正直、理解しあえない相手と正面で当たったら殺戮になりかねないことだけは分かったから』

「おーらい。じゃぁ、逃げる方向なんだけど、シャル」

「はい」

「西に行く」

『え、まちなさいよっ! 西って敵のいっぱいいる方でしょ』

「うん」


 いつものようにあわあわと慌て慌てふためく幽子と、思案するシャル。


「理由をお聞かせ願えますか」

「いくつかあるけど一番デカいのでいいかな」

「はい」


 私を見つめる栗毛の幽霊に銀髪の美少女。


「正直超むかついた。パチモンの神一発殴ってキサの妹を取り返さないことには気が済まん」

『あんた、何言ってるか自分で分かってる?』

「おうよ、神は死んだ。その神をあの世でまで冒涜するっちゃ論外でしょうよ」

『で、本音は』

「妹を泣かせた神を殴る、以上」

「私もキサも泣きませんでしたが……」


 私はシャルを見つめていった。


「泣いてた」


 シャルの瞳が揺れる。


「ああ、この世界の妹たちは今泣いている、ならば私がそんなくそったれな世界、壊してやるよ。妹の神、シスの名に懸けて」

『某探偵のじっちゃんみたいにいってるけどそんな神様、私知らないからね』

「日本の思想体系は万物祖霊すべて神宿るかみやどるだ。天に神、地に神、水に土に神があるならば妹に神が宿らぬわけもなし」

『優、あんたほんと……』

「シャル、いいことを教えてあげる」

「は、はい……」


 かなり腰の引けたシャルに私は満面の笑みを浮かべてこういった。


「勇者っていうのは勇気あるものだけの意味じゃない。日本人の言う勇者は枠を外れたもののことでもある。じーさんでも妹にできる私は枠外だ、信じろ」


 そう、私の世界こころには姉妹しかいない。


「私がこの世界の常識を破壊してやる、なにせ勇者ばかだからね」

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