シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます
幻月さくや
プロローグ それと結婚、します
プロローグ 妹と始める異世界生活(幽霊付き)
ある事故から喧嘩の絶えなかった両親は私が小学校を卒業する前にはすでに離婚していた。
その後、居心地の悪い家の空気に飽きた私は完全寮生の宗教系の学校に転校した。
そこは以前にもまして密閉された息の詰まるような空間だったが、毎日のように顔を合わせては殺傷沙汰にならないのが不思議なくらいの喧嘩をしていた母親と姉よりはましだと感じた。
深くかかわらずかと言って最低限の接触は欠かさず。
暇なときは図書館に行き手当たり次第に本を読む、宗教系の学校だけあって思想関係の本には事欠かず暇をつぶすには十分だった。
そんなある日、いつものように本を読もうと本をもって裏庭に向かうとそこには先客がいた。
彼女はボロボロに破かれた制服を手に持ち裁縫道具で悪戦苦闘していた。
「あ……」
「うん、ごめん。じゃ、また」
かわいそうだなとは思う。
だが、現状家庭の事情で余裕のない私が干渉したところで事態が改善するとも思えなかった。
むしろ悪化する可能性の方が高い。
こういうのは触らないに限る。
次の日、再び同じ場所に行くと同じ少女がこんどはびりびりに破かれた本をセロハンテープでつなごうとしているのに出くわした。
「あ……あの……」
「じゃ」
この学校では表立ってはいじめなどは存在しない。そう、存在しないのである。
三日目、同じ場所に行くと今度は誰もいなかった。
私は本を読み微睡にふけることができた。
四日目、校内が騒がしかった。
どうやら自殺者が出たらしい。
話を聞いてみるとそれはいじめを受けていたあの少女だとのこと。
そうか、死んだのか。つーかどいつもこいつも偽善者面してて反吐が出る。
見て見ぬふりをした私自身や教師も含めて。
あの栗毛の少女がいじめを受けていたというのは皆の知る事実だろうに。
五日目、いつのの場所で微睡んでいると首を絞められた。
目を開けると水にぬれたあの少女がいた。
ああ、死ぬか。
苦しいな、そっか、私はやっと死ねるのか。
『なんで…………わらっているの』
「げほっ……げほっ……」
急に息ができるようになり肺が酸素を求める。
「楽に……なれるかなと……思ってね」
『息ができなくなれば……死ぬのに……』
「そうだね。そのとおりだ」
助けなかった程度の逆恨みの呪いで死んだら大笑いじゃないか。
そんなことを考えていると目の前の少女がおびえた顔を見せた。
『……貴方……狂ってる』
「かもね」
『どうして、笑えるの』
「そりゃ、面白いから」
『おも、しろい?』
「面白いね。本当に死んだらどうなるのか。興味が尽きない。ねぇどんな気持ち」
『最低』
「よくいわれる」
『あんたみたいな奴が死ねばいいのに』
「ほんとそうだ。さて帰るか」
『ちょ、ちょっとまって』
幽霊少女が心底恨めしそうにこっちを見ていた。
「なに」
『なにって、あたしがあんたを殺そうとして首絞めたんでしょうが』
「そうだね。で殺し損ねたと」
『うぐっ』
彼女の傍によって下から見上げる形で顔を覗きこむ。
夕暮れの青さと透き通る彼女の顔が二重写しになっていた、なるほどなぁ、こうやって心霊写真ってできるのか。
「もったいない、こんなに可愛かったのに」
『な、なにいってるの』
おののく幽霊。
「死ぬほどつらかったか」
一瞬の沈黙。
『うん』
「そっか」
黙って顔を見てると幽霊が徐々に薄くなっていく。
「なに、成仏するの」
『うん、もうどうでもよくなってきたし』
「ふーん。ところで自殺って地獄行なんだけどしってた?」
少女が薄らいでいくのがぴたりと止まる。
「何十万という鬼に何千年と拷問されるってさ。がんばっ!」
幽霊が涙目になっていた。
この陰気さが元でいじめられてたんだろうな、この子。
転生したら根明になれ。
『……地獄』
「そりゃそうでしょ。うちらの学校の宗派でも最後の審判でOKはもらえないっしょ。なに、考えてなかったの」
『うん。な、なんとかならないかな』
私は大きくため息をついた。
「んじゃ宗旨替えするか。中国では人は死ぬと鬼になるとされていた。あんたは死んで鬼になり、私に使役されたってことにして……私に憑いてくるのはどうよ」
おもったより顔いいしね。
『え、いや、ちょっと、ちょっとまって。なに、どういうことなの』
「はい、さーん、にーい、いーーち」
問答無用のカウントダウン、泡を食う幽霊。
『ま、まって。ど、どうすれば』
「ゼロ。はい、時間オーバー。あんたは私の使鬼と化した。もう天国にも地獄にも行けやしませんっと」
パンっと柏手を一つ打つ。
『えー、なっ』
私が宣言すると彼女の姿がはっきりと固定され白衣に緋袴と衣装が切り替わった。
「ほぉ、おもしろ。やっぱ人生なるようになるもんだわね」
『どういうことなのっ!?』
六日目。
『ほんとに遅刻するから起きて、おきっててば』
「んー、
『あのね、あたしはそんな名前じゃないから』
幽霊だから幽子。
昨日絞め殺そうとしたのがウソのようにさっぱりとした顔をしている。
「じゃぁ、殺人未遂犯」
『ごめん、それはちょっと……私の名前は』
「あー、悪い。名前って覚えるの面倒だよね」
『ひどい』
一日幽子を付けて生活したが誰も見咎めない。
ふむ、これは本当に心霊現象か超現象、もしくは私の脳の錯覚あたりか。
『人を幻みたいにいわないで』
内心に突っ込んでくるあたりどっちかというと幻想かな。
そんなこんなで部屋に戻る。戻ると愛読している純愛小説の続きが私を待っていた。
『ねぇ、あんたってさ』
「ん」
外ではしゃべらなかったが、部屋では構わないだろうと幽子に答える。
昨日の殺人鬼がウソのような美人っぷり。
これがこの娘の素か、残念な奴を亡くしたもんだ。
『そういうのはいいから。あんたの本棚ってすっごく偏ってない?』
「いいだろー、やらんよ」
『い、いらない。宗教関係に外国語、これってなんの本?』
「姉と妹の純愛」
『は?』
なんと、村田大先生の百合大作をご存じないと。
ならば布教するしかない。
「これはね……」
『いい、もういい。あなたがあたまおっかしいのだけはよーくわかったから』
失礼な。
小一時間後、私が四十冊目あたりの説明をしたあたりで幽子がギブアップした。
『というか真面目な本がオカルトとか魔術とか宗教学とかえらい、そのアレなのに対してなんで趣味本がそっちなのよ』
「そりゃ布教のために。姉妹の愛がいつか世界を救うと信じて」
『聞いたあたしが馬鹿だったよ』
本当に失礼な奴だな。
『こういうのって実際に妹とかいたら噴飯ものだと思う』
「昔はいたんだけどね」
『え、そうなの?』
「うん。黒髪でダブルだった影響で目が青くてちっちゃくてすっごく可愛くてね。始まりは私が五歳の頃……」
『ストップっ、すとーーぷ、わかった、わかったから。それでその子は』
「死んだ」
『そう……なんだ、ごめん』
部屋に静かな空気が流れる。
「だがしかしっ! こうして幽霊を捕縛できたということは妹も天国から引きずり落とすことができるということの証左ではなかろうかっ!」
『あたし捕縛されたの? というか妹引きずりおろすなよっ!』
「私の夢は妹を召喚することです」
『真顔で言うなよっ!』
切れる幽子、返す私の間にいつしか笑いが生まれる。
「わるかったね。生きてる間に声かけなくて。いっちゃ悪いけど虐められてる根暗少女に微塵も興味が持て無くてさ」
『ひどいんじゃないかなっ!』
ひどい奴だなとは自分でも思う。
死んだ家族のことで手いっぱいで自分も含む他への興味と配慮が足りてないと説教されたこともある。
「事実だし。でもごめん」
『別に……あんたのせいじゃないし』
「助けなかったの逆恨みして殺そうとしたのは?」
『ごめんなさい、あたしです』
「よろしい。では私に憑いたのが運の憑きとして幽子、お前を妹二号に任ずる」
『ちょ、なにその変な呼び方。一号はどこにいるの』
「私の心の中に」
『死ね、ボケ』
七日目
『今日はどこに行くの』
「姉に会いにかな、気は進まないけど」
『ここって病院だよね』
「うん、そう」
その次の瞬間、爆風と衝撃に意識を刈り取られた。
『おきてっ!』
「いっつっ……」
腹部に激痛と強烈な熱さ、意識がはっきりしない。
目の前に泣きそうな顔の幽子がドアップで見えた。
下を見ると腹にでかい金属片が刺さっているのが見えた、これが熱さの原因か。
『あんた、こんなとこで死なないでよっ!』
「いや……むりいわんといて、むーりー」
『なんでこんな時まで余裕みせんのっ!』
「人生余裕が大切だってね。原因分かる?」
『自爆テロみたい』
「くっそ、今はやりの奴か」
徐々に視界が暗くなっていくのをねじ伏せて立ち上がる。
『馬鹿、なにやってるのよ!』
「姉の安全が危険だからね」
『なにいってんだかさっぱりわかんないっ! あんたこのままじゃ死んじゃうから!』
「死んだら一緒に地獄かね」
『馬鹿っ!』
数歩歩いてあきらめる。
「駄目だ、ねぇ、幽子。姉の事頼めない」
『どうしろと!』
「はは、それもそうだわ」
『馬鹿、死ぬなっ!』
幽子の剣幕がなんか気持ちいい。しかし、ほんとに残念だな。
死ぬ前に妹を死なせた姉の死に顔が拝みたかった。
『………………』
「来世では妹祭りがいいなぁ」
『死ね、ボケ』
そこで記憶が途絶えた。
ゆっくり目を開くとそこは木造の木の天井が見えた。
「あの……」
声のした方に視線を向ける、その時心臓が止まるかと思った。
サラサラの黒い長髪、透き通るような深い藍色の瞳、かわいらしい唇に整った容姿。
「
私がジャンプしてとびかかるとひぃっと言って横によけられた、解せぬ。
『あたしがいうのもなんだけどさ、馬鹿は死んでも直らないってほんとなんだね』
振り返ると幽子がいた。
「なんだいたのか幽子」
『いたのか、じゃないから』
とりあえず腰を抜かしているらしい黒髪少女の手をつかんでがっちりとホールドする。
「え、いや、ちょっと……あの……み、みなさん、見てないで助けてほしいのです」
おお、周囲に結構人がいる。まぁ、いいけど。
とりあえずその子を抱きしめて顔を近づける、見れば見るほど別嬪さんだな、この子。
明日咲はここまでじゃなかったなぁ。
『別人だってわかってんじゃん』
「それはそれ、これはこれ」
「あ、あの、えっと……勇者様」
「うん。私は優、貴方は」
『ちがう、そうじゃない』
眼を白黒させる少女に幽子の突込み。
「えっと……キサです」
「キサちゃんか。結婚しよう」
『馬鹿か、お前』
うるさいな、
「え、で、でもあの」
「結婚して妹になってくれるなら何でもする」
『妹と結婚は常識的に考えて普通しないと思うの、あたし』
どんどんさめていくのか冴えわたる幽子の突っ込み。
「あの、そちらの透けてる方は」
「これは幽子、私の使徒」
『え、ちょ、いやだから。その呼び方やめて、ほんと嫌だから』
心底嫌がっている幽子の声を無視して周囲から驚愕の声が複数上がる。
「なんと、招来時に
「これはすさまじい。さすが勇者」
「幽子さま、ありがたやありがたや」
『そこっ、拝むなぁっ!』
勇者ねぇ、まぁそのあたり心底どうでもいいんだけど。
私はキサにさらに顔を近づける。
「あなたの願いは?」
「私の……私の願いは妹を助けたいのです」
その時私の脳裏に昔の出来事がよぎった。
「明日咲が! 明日咲がまだのこってるの!」
「だめ、優、お願いだから」
「明日咲っ!」
心の中に反響するあの日の会話。
『…………』
ちらりと視線を向けると幽子が真剣な目で私を見ていた。
「代価として永遠に私の妹になるならその願い叶えよう。どうする、キサ」
少女が下を向き数秒考える、顔をあげて私を直視した。
「はい、なります」
「よし、ならば今日この日をもってキサは私の妹だ。死んでも離さないからね」
「は、はい……あの、ところで……あの」
「なに、マイシスター」
透き通るような青い瞳に戸惑いを浮かべながらキサが口を開いた。
「お姉ちゃん、と呼べば良いのでしょうか」
『優、女だしね。あと鼻血ふけ』
こうして私は三人目の妹を得たのである。
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