第176話 裏打ちの技術

 裏打ちは空想上の技術ではない。足元から練り上げた勁力を腰に回し腕に伝え、打点をずらす。その事により分厚い鎧だろうと筋肉だろうと内臓に届く一撃を正面と背後から与える。それがウルルスの暗殺術。ここに浸透勁全身に流れるダメージも加わり、ロイに二の手要らずと呼ばれた文字通りの必殺技である。


◆◆


「サングィス家が滅亡しただと? 何の冗談だ?」

 コル家当主になったリチャードから送られた鳩の使い魔の手紙には信じがたい事が書かれていた。サングィス家とコル家は両輪の関係だった。どちらかが滅びそうになれば養子を出されるのも普通だし結婚もして子を成すことも多々あった。

「どういうことだ? こんな短期間に魔法士の家系を一つ潰すなんて可能か?」

 ウルルスならば可能だろう。自分以外に魔法士殺しが現れた。

 どんな方法ならば可能だろうか? 簡単なのは毒殺。しかし、特権階級ならば幼少の頃より様々な毒を少量服用し無毒化する事が可能である。その線はないなとウルルスは候補から除外した。

 魔法士の不意を突くのがれ理想。しかし、何人もの魔法士を一度で殺すとなるとやはり一番なのは火力で押し通ることだが、サングィス家は魔力量が桁違いだ。それこそコル家筆頭のルドルフの地形を変えるほどの魔力量を皆持っていたと考えるのが妥当。それ相手に力で押し切るなんて出来るのだろうか?

「これは久しぶりにフェイとベスの情報網に期待だな」

 自分も動こう、暗殺者ギルドでサングィス家を殺せる人材は居ないが冒険者ギルドには居るかもしれない。冒険者ギルドの暗部が暗殺者ギルドである。少なくとも繋がりは有る。

 魔法士の家系全員集めるのも視野に入れないといけない。しかし。自分は部外者。これはリチャードに任せるしかない。ちょうどコル家の当主就任祝いはやっていない。かなりの人数が集まるはずだ。

 コル家とも連絡を密にして事を構えないと魔法士の家系全てが標的とも限らない。そうなると就任祝いは取りやめた方がいい気もする。

 様々な事が頭をよぎるなか、ティアがようやく起きてきた。

「どうしたんですかご主人様? そんな険しい顔をして」

「ティア、レプス家はサングィス家と付き合いがあったか?」

「なかなか懐かしい名前が出ましたね。十歳の誕生日に花を貰ったくらいです」

「そのサングィス家が滅んだ」

「え? なんの冗談です?」

「本当の事なんだ」

「あの人外連中を殺せる人間なんてそれこそご主人様くらいでしょ」

「俺以外の魔法士殺しが現れた」

「昼間からぶっ飛んだおはなしです。二日酔いがどっか行っちゃいましたよ」

「すまんがしばらく家を空ける。詳細を知らないとおちおち寝ても居られない」

「いってらしゃいご主人様。留守はお任せを」

「うん、うん。いってくる」

 目的地は王都。


 

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