第142話 酒癖

 食後の蒸留酒を取りに酒蔵から戻ると護衛達が食事していた。

「ウルルス。早めに帰って来たって事は封印は大丈夫だったの?」

「ああ、問題なかった。胴体の封印も解かれてないみたいだ」

「そう」

「あそこは行くだけでも至難の業だ。誰も一度も訪れてないみたいだったな」

「それはどこ?」

「言ったらフェイも狙われるから言わない」

 ウイスキーを飲むのも五日ぶりだ。琥珀色の酒をグラスに注ぐ。

「ご主人様。私の分は!」

「ティアは俺の留守中飲んだんだろ?」

「我慢しました! 褒めて下さい!」

「偉い偉い」

 当たり前の様にティアがウルルスの座っている足の間に座る。

「ロイも飲むか?」

「私はワインでいいです」

「蒸留酒の良さが分からないなんて師匠は子供ですね」

「なんですか、ワインだって美味しいじゃないですか」

「私もワインの方が好みですね」

 ロイとメルティアはワイン派のようだ。部屋ではロイも蒸留酒を飲むのだが、ワインの方が好きだったようだ。

「私は断然ブランデーね」

「私は飲めませんから……」

「私も護衛なので遠慮しときます」

 フェイとローガンは妊娠中だからお酒が飲めないのだが、フェイのブランデー好きはちょっと目に余る。フェイはウルルスよりも酒が強いので酒蔵の酒が恐ろしい速度で無くなるかも知れないのだ。ソフィアは暗殺専門のだから夜の方が本番だ。

「護衛は酒を飲まないのが基本ですが、この匂いは少し精神に来ますな」

「夜は俺もソフィアも居るから少しは飲んでもいいと思うのだが……」

「誘惑しないで下さい。デニスは酒癖が悪いんです」

「そんなに悪くないだろ!」

「酔っぱらって何人お持ち帰りしたか覚えてますか?」

「お、覚えてない……」

「三十二人です。この町は既婚者が多いんですからお酒はダメです」

「デニスは性欲が増すタイプか」

「いえ、気が大きくなって普段出来ない事をするんです」

「そうなんだな」

 デニスに酒を飲ませるのはやめようとウルルスは心の中で誓う。

「ロイは酔うと服を脱ぎだすよな」

「お、覚えてません。そうなんですか?」

「俺はそのまま襲われるから間違いないよ」

「何もせずに酔い潰れて寝てると思ってました……」

「知らない方が良かったか?」

「い、いえ。へ、平気です」

 ロイは明らかに動揺している。

「服を着せるのは私なんですからね。感謝して欲しいです」

「ティアは酔ってもあんまり変わらないよな」

「そうですね。ちょっと甘えたになるくらいです」

「フェイはザルだし」

「ちゃんと味わってるわよ? いいお酒を揃えてるウルルスが悪いのよ」

「ええ、俺のせいにされても……」

「護衛も増えましたし、私もお酒を嗜んでも良いのですかね?」

「それも産後の楽しみにしておけ」

「そうですね。無事に産まれて欲しいです」

 ローガンが大きくなったお腹を擦る。

「ローガンはキス魔になりそうな気がするんだよな……」

「あ~。なんだか分かります」

「そうね。普段がお堅いからあり得るわね」

「ローガンさんはエッチです」

「お酒を飲んでから非難してもらえますか!」

「メルティアはあんまり変わらんな?」

「人格が変わるほど飲みません」

「では、今日はどうなるか試してみましょう!」

「いやよ。ウルルスに嫌われたくないわ!」

「そんなんで嫌ったりしないけどな」

「ほらほら。ご主人様もこう言ってますし!」

 琥珀色の酒の入ったグラスをメルティアに渡すティア。

「ウイスキーは初めてです……」

 割っていないウイスキーを飲み干してしまった。

「けっこう美味しいですね……」

「どうですか?」

「どうって言われても……」

 それからメルティアの目がトロンとするまで飲ませても人格は変わらなかった。

「ひっく、もう飲めない……」

 そのまま寝てしまった。これは寝室まで運ぶしかないな……。メルティアを寝室に運ぶためにお姫様抱っこする。明日は二日酔い確定だな。

 別棟のメルティアのベットに寝せてやるとグイっと引っ張られた。

「やっと。二人っきりになれました……」

「メルティアさん?」

「結婚してお嫁さんに手を出さないってどういう事です?」

「ほら、それはバタバタしてたし?」

「私の悶々した気持ちも知らないで!」

 その後の事は余り語りたくない。ただ、起きた後に見たメルティアの寝顔は可愛かったとだけ言っておこう。


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