第139話 左腕の封印

 異端者の楽園から南西に向かってウルルスは向かった。昼に食事と昼寝をしてそれ以外の時間をずっと走り続けて二日。昔ルーランと呼ばれた村に着いた。草木も枯れ果て井戸に水もない。疫病の他にも井戸が枯れたのがこの村が滅んだ原因だ。村人の骨は無いが、ここは死の匂いに満ちている気がする。一説には神の怒りに触れたと言われている。ウルルスは創造神の存在は信じているが、教会の教えには懐疑的なので村が滅んだ理由はどうでもいいと思っている。

 村の廃屋は既に屋根が無い。これでは雨を凌ぐことも出来ない。さっさと封印の確認をして帰ろうと朽ち果てた一軒の家に入る。床は腐ってはいないが風雨に晒され脆くなっている。床の一部が変色しているのはここだけ強度の強い材料が使われている為だ。この家にだけ地下に酒蔵がある。幻のブランデーも少し残っているが今はそれを取りに来たわけではない。

 床下の入り口の取っ手は既に無い。隙間にナイフでこじ開けるしか方法が無い。こじ開けると地下への階段が見える。足を滑らせないように慎重に降りる。灯りは無いがウルルスは夜目が利くので問題はない。しばらく降りて底に辿り着く。壁に沿って進むと幾つかブランデーが目に入る。持って帰ってもフェイが悶絶するだけなので素通りする。最奥に扉があるそこに左腕が封印してある。扉の鍵穴には封印が施してある。鍵が有っても刺さらないように魔法で封じてある。暗号化魔法封印はウルルスの得意分野では無いが使える。使う機会があまり無いのだが……。

 封印を見ると誰にも弄られていない事が分かる。一安心するが、念のため中を確認する。封印を解除し、鍵穴に鍵を差し込んで回す。固い感触はこの扉が久しく開けられていない証拠だ。扉を開けると包帯でぐるぐる巻きにされた左腕が見える。釘で壁に打ち付けられてた左腕はピクリとも動いていない。心から安堵して扉を閉める。盗まれていないし、胴体の封印も解除されていない様だ。

 扉を閉めて鍵を掛け新しく封印魔法を掛け直す。これで用事は済んだ。さっさと帰ろう。鍵は家に持ち帰るのではなく別の場所に隠そう。念には念を入れても、誰にも迷惑はかけない。

 不死の魔女は困るかも知れないが、知った事ではない。復活しないで欲しい。

「鍵は捨てた方がいいかな?」

 誰に言うでもなく呟く。近くに川が有ったら捨てようと考える。それとも村の枯れ井戸に捨てた方がいいだろうか? しばらく考えて村の枯れ井戸に捨てる事にする。井戸に入ってまで鍵を拾おうとする奴は居ないはずだと思って鍵を井戸に捨てる。底に当たってカシーンと音がした。

 帰ろう。ここは居るだけで気が滅入る。家族に会いたい。食事をしながら廃村を後にする。誰かに見られている気配もしない。走り出した。左腕は大丈夫だった。胴体の封印も解けていない。懸念事項はもうない。帰って仕事をしよう。

 

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