第137話 三人目

 カリアが懐妊した。これでウルルスの子供は三人目だ。ギルド長の仕事はアリアが引き継ぐ事が決定している。ミリアはウエイトレスで固定だ。これはくじ引きの結果だ。

「申し訳ございません、主様……」

「あれだけ抱いたんだ、いづれはこうなると分かっていた。気に病むことは無い」

「ですが……」

「責任を感じているなら、それは俺への侮辱だぞ?」

「はい……」

 カリアを抱きしめる。カリアは驚きの余り体を硬直している。

「俺は嬉しい。それで納得しろ。姉妹を顎で使えと言っているだろ」

「それは、そうですが……」

「何が不安なんだ?」

「その、私が母親になることに不安しか無いです……」

「そういうもんだろ。最初から母親の自覚を持てる子なんていないよ」

 カリアの髪を撫でていると、少しずつカリアの体が弛緩してくる。

「産んで良いんですよね?」

「ああ、双子か三つ子だろうから。子育ては大変だろうがな」

「遺伝的にそうなる可能性は高いですね……」

 ギルド長の家系は双子か三つ子が多い。ギルド長が亡くなってもスペアとして機能させる為だ。前のギルド長は双子の兄弟の弟が務めていた。兄は離反した暗殺者に殺されている。その暗殺者を殺したのはウルルスだ。同業者殺しの二つ名はその頃から陰で呼ばれ始めた。

「主様に会うまで、不安しかなかったです……」

「すまんな。もっと頻繁に来れば良かったんだろうが……。仕事以外で来ると家人の目が厳しくてな……」

「それはしょうがないです。主様には家庭がありますから」

「カリアは眷属だからな。蔑ろにしているつもりは無いんだけど、すまんな」

「私はそれでだけで満足です。子供を身籠ってしまって、主様の負担になりたくなかったのが本音です」

「愛い奴」

 カリアの髪をガシガシと撫でる。可愛い眷属をこんなに放って置いたのは自分の落ち度だと思う。

「健康な子を産め。俺はそれしか言えないし、迷惑だとも思っていない」

「はい。主様」

「あ、そうだ。昔に俺が貰ったナイフを覚えてるか?」

「不死の魔女を倒すために私達が用意した物ですか?」

「そうだ。あれと同等かそれ以上のナイフって用意できるか?」

「あれはダンジョンで発掘された物らしいので……。お金が有れば用意できるかと」

「流石にダンジョン攻略はした事無いな……。金に糸目は付けないから用意出来たら教えてくれ」

「不死の魔女が復活するのですか?」

「可能性が無くもないって話だな。今度は仕留める」

「死なないから不死の魔女なのでは?」

「ホントにな、氷漬けにするか、火山の火口に放り込めば何とかなるだろ……」

「私の代で因縁は断ち切りたいですね……」

「俺もそう思う。殺す事は出来なくても、死に続けさせることはできるはずだからな」

「氷漬けにしてどこかで封印出来ればいいのですが……」

「それは封印場所を知ってる奴が狙われるし、あまりお勧めしないな」

「そうですね……。現に主様は狙われている訳ですし」

「封印を解こうとする馬鹿が現れない事を今は祈るしかないな……」



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