第135話 ランドルフ古流剣術の稽古
ティアのファンクラブの会員はランドルフ古流剣術の稽古に何とか食らいついている。剣を持った事も無い人間が毎日の様にやって来る。それほどまでにティアの人気は凄まじく、ローガンが考えた鬼メニューの稽古にも着いて来ている。
「ホント、エロは男の行動原理の根本だな……」
墓守の正体を知ればこの町は二分するだろう。墓守は町の争いの火種である自分の素顔を晒すことは無いだろうが。
「本当に男は馬鹿ばかりですね」
ローガンの辛辣な言葉に笑みを浮かべる。
「そういうな。可愛いは正義なんだ。天女の様なティアに褒め貰いたくて地獄の稽古に着いてこれるのは、ある意味尊敬するよ」
ティアは既に人妻だ。それでも人気は全く衰えない。それどころか、ティアの間男になろうとする者は後を絶たない。ティアを誘惑しているところを見つかった時点で稽古が二倍どころか五倍にされても彼らは懲りない。妄執と言って良いだろう。
「手に入らないものほど欲しくなるのは、もう人の業だな」
「そうなのですか?」
「ほら、人は季節限定のモノとか一日一食限定メニューとか言われると欲しくなるだろ?」
「確かに欲しくなりますね」
「すぐそばに応援してくれる。でも、絶対に手に入らない。それはどんなジレンマなんだろうな。俺なら地獄なようなメニューをこなして頭を空っぽにするな」
「なるほど。だから彼らは黙々とメニューをこなすのですね」
「もしくは俺を打倒してティアを手に入れたいかの、どちらかだろうな……」
ランドルフ古流剣術の稽古したくらいで負けるウルルスではないのだが、それを知らない練習生は熱心に稽古に励んでいる。
「彼らの行動を滑稽と笑う事は簡単だが、彼らの思いを否定するのは、俺自身のティアへの気持ちを否定するのと同じなんだろうな……」
「師匠は彼らに何を求めますか?」
「自分を守れる強さ、大切な人を守りたい気持ちと実力をつけて自分に対する自信を付けさせたい」
「それだけ聞くと良い指導者なんですが……」
「ご想像の通り単なる八つ当たりだよ。ホントに人気のある嫁を持つと苦労する」
「食事代も馬鹿になりませんしね……」
出来たばかりという事もあって昼食をこちらで用意している。月謝も今のところ取っていない。それが口コミで広まってティアに話しかけるチャンスと食事を一食分浮かせられるメリットで彼らは集まって来ている。
「文句を言わずに練習生の飯を作ってくれるローガンには感謝しかないよ」
「疲弊した体を治すのは食事しか無いですからね。下手な活性魔法だけではかえってお腹が減るだけですし」
ウルルスは活性魔法を常時発動だから分からないが、そういうモノらしい。
「このまま師範クラスになるには後二年は掛かるんじゃないでしょうか……」
「気の長い話だな」
「元々才能は無いですし、剣を握ったことも無い。彼らにも仕事がありますしね」
「練習時間が足りない上に実践経験も無ければ師範になる道のりは遠いな。彼らの仕事先は仕事が早く終わって助かる、とか言われてるけどな」
「思わぬ副次効果ですね」
「強い奴はそれなりにモテるからな。稽古にも身が入るってもんだ」
「それでも、ティアさんは手に入らないんですけどね……」
「練習生の前で言うなよ?」
「言いません。練習生の九割方辞めますから」
ホントにティアが一目でも見れる事を心の拠り所としているらしい。自分が彼らの立場だとしたら物凄く不憫で不毛だが、優しくしてやる義理も人情も無いので放って置こう。
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