第131話 祭り騒ぎ

 何がどう伝わったのか町民たちはもう酒樽や料理、テーブル等を墓守の家の庭に運び込んでいる。

「これは逃げられな……」

「ウルルス殿これは一体……」

「祭りだ。俺とメルティアの結婚祝いだな」

「本当に大丈夫か、この町……」

 少しお祭り好きなだけで無害だと思う。どうせ金は腐るほどある。カジノ王の娘と結婚したとなれば世界中の富の十分の三の金を手に入れたと同義であるのだ。

「メルティアのお披露目会だ。色々な経験は糧になるはずハズだよ」

「ウルルス……」

 メルティアが服の裾を掴んでくる。屋外でこんなに人に囲まれた事は無いのかも知れない。それでなくても彼女の周りに集まるのは彼女の後ろにいるカジノ王の財産である。

 しかし、現在集まって来たのはメルティアを事情を知らず、ただウルルスの結婚を祝うためにやって来ている。大半はただ酒が飲みたいだけかもしれないが、

「大丈夫だよ。この人たちは俺たちの結婚をダシに騒ぎたいだけだから」

「そうなの?」

 護衛がいるとはいえ人数の多さに恐怖の余り少し幼児退行してる気がする。お嬢様はどんちゃん騒ぎも初体験だろう。

「結婚祝いだ! パァーっとやってくれ!」

「「「「「イェーイ」」」」」」

「ウルルス、おめでとう~。この人がお嫁さん?」

 町で一番年長の子供に聞かれる。

「そうだぞ。可愛いだろ?」

「うん! 私も大きくなったらウルルスのお嫁さんになれる?」

「それは親父さんが許してくれないだろうな。俺よりいい男を探んだ。君なら見つかるさ」

「うん、わかったぁ~」 

 手を振りながら帰って行く子供。名前は何だったけ?  ティアによく似た名前の気がするのがだ。ティニーだったかな?

「ウルルスは人気者なんですね」

「人気と言うか……。有名と言うか……。微妙なところだな」

「暗殺者としてそれはどうなのです?」

「調子が戻って来たみたいだな。俺らも楽しもう!」

「ま、待って下さい!」

 既に町民たちは酒盛りを馴染めている。普段は絶対しないのだが今日は祝いの席だ毒見しないで飲もう。ウルルスは町人の一人からワインを貰うと一気に煽る。

 質は良くないが美味い酒だ。メルティアが興味深そうにそれを見ていた。

「飲むか? 美味いぞ?」

「いただきます」

 メルティアがウルルスから受け取ったワインを飲み干した。

「美味しいですね。安そうなワインなのに……」

「酒は値段も大事だが、誰と飲むか? どんな状況で飲むか? で、味が様変わりするんだ」

「知りませんでした……」

「少なくてもメルティアがその酒を美味いと感じるなら、お前は嬉しんだな」

「何がですか?」

「俺達の結婚が、祝福されて」

「……。そうかもしれません。私の周りはこんなに明るい人たちでな無かったですから……」

「とりあえず一度実家に戻るんだろ?」

「はい。色々と持ってきたい物も有りますので……」

「ふ~ん。例えばなんだ?」

「ガイバー先生の詩集です。あれは素晴らしいモノです。ウルルスは読んだことありますか?」

「あるよ。弟の作品だし」

「……。は? ガリバー先生が弟さんなんですか?」

「本名はルドルフ・コル。俺の異母兄弟だ」

「なんでしょう、驚きすぎて頭が回りません。本当に弟さんがガリバー先生なのですか?」

「ルドルフは確かにガリバーだよ。今は四冊目の執筆中だ……」

「本当ですか!」

「凄い食い付きだな、本当だよ三冊目は切なかっただろ? 四冊目は日々の幸せを再認識させてくれる内容らしい」

「くぅ~。楽しみです!」

「兄上。結婚おめでとうございます、と言って良いのですよね?」

「まあな。ほらメルティア。憧れのガリバー先生の登場だぞ?」

「大ファンです!」

「ありがとう。四作目も期待してください」

「はい!」

 危惧していたホットドッグの詩も収録されるらしい。だいぶ作風が変わる気がするのだが、見せてもらった詩は読んだだけでよだれが出そうなほど美味しそうな出来だった。これはホットドッグが爆発的に流行るかも知れない。








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