第130話 婚約書類
「墓守~。開けてくれ~。大至急仕事を頼みたい」
二階から降りてくる足音。足音から不機嫌なのが分かる。仕事していたのかも知れない。
「最近落ち着いたと思ったらまた殺したのか、何人だ?」
「今回は別の仕事だ」
「は? 町長の仕事か?」
「そうそう、婚姻書類を作ってくれ」
「ルドルフ達の書類はこの間作ったよな?」
「式は挙げないと言ったのに、噂を聞いた町人がお祭りにしたんだよな。あれには参った」
「私は関係ないから家に帰らせてもらったが、飲み食いの費用はウルルスが出したんだよな?」
「ああ。弟の門出だし、これくらいで懐は痛まんよ」
「じゃあ、今度は誰の婚姻書類だ? お前とか言わないよな?」
「すまん。俺だ……」
「お前は何人嫁を作るつもりだ?」
「賭けに負けたんだ。仕方ない」
「ウルルスが賭けに負ける? 何の冗談だ?」
「嫁たちが受けたんだよ。一対二の惜敗」
「あ~。それはそれは。嫁が悪いな……。相手は誰だ?」
「カジノ王の娘メルティア・ゲイツだ」
「賭けをした時点で負けじゃないかそれは?」
「メルティア自体は強く無いよ、ただ流れが悪かった」
「ほう」
馬車が近づいく音がする。喧嘩は終わったみたいだな。馬車の中で続いているかも知れないが、
「ここか、確かに遠いな。メルティア様の足では着かなかった」
「でしょう? 私は身体強化魔法で行けますけど」
「町長の家に見えんな。本当に墓守が町長なのか……」
「…………」
デニス、ティア、フェリアが感想を述べるが、口喧嘩で疲れたのかメルティアは無言だ。心なしかフラフラしている。
「ティア。棟梁探してきてくれか? 話があるんだ」
「了解です! 現場を回れば見つかると思います!」
「頼んだ」
増築の件は早めに話を通しておいた方が良いだろう。
「突っ立ってないで、入ればどうだ?」
墓守の素っ気ない言葉にも文句を言わず四人は墓守の家に入る。
「質素な部屋だな」
「華美な装飾は嫌いなんだ」
「なんで覆面してるの?」
「ご想像にお任せする」
スタスタと婚姻書類を取り二階に行く。
「あんなのが町長で大丈夫なのかこの町……」
「大丈夫、能力はあるから」
「そういう問題か? なんで覆面? なんで素っ気ない? 町長に向いてるか?」
「いいじゃないか。能力が無くて、私服肥やす町長よりマシだよ」
二枚の書類を持って墓守が帰って来る。
「書類だ。判は先に押して置いた」
「ありがとう墓守。助かるよ」
「ふん。さっさと済ませろ。私も忙しい」
「ルドルフは?」
「今は挨拶回りだ。その内帰って来るだろ」
用意が良いことに羽ペンとインク瓶まで持って来てくれた。素っ気ない割に面倒見が良いのが墓守と言う町長だ。
「メルティア、先に書くか?」
「……。羽ペンを貰えますか?」
二枚の書類に名前を書くメルティア。ウルルスも二枚の書類に名前を書く。これで婚姻完了だ。これでメルティアはメルティア・コルと名乗ることも出来る。
「じゃ、こっちは保管させて貰うぞ?」
「ああ、頼んだ」
「全く、こんな男に五人も嫁が出来るとは……」
「運が良いんだよ、多分」
「はっ! 前世でどんな徳を積んだんだかな……」
書類を一枚持つと二階に帰って行った。婚約書類は町長の元で保管される事になる。
「じゃ、帰るか。ティアも途中で拾えるだろ」
「ウルルス殿? ルドルフとは誰なのですか?」
「俺の弟だよ、作家なんだが。町長補佐の仕事もしてるんだ」
「この町はほぼコル家のモノって事ですな?」
「んな訳ないだろ。この町は町人全員のものだよ」
「そお云うものですか? 私の感覚では分かりませんな」
デニスはあごに手をやる。彼の生まれた町では全権が町長のモノだった。それに嫌気が差して彼は町を捨てて冒険者ギルドに入った。様々なクエストをこなす内に護衛対象のカジノ王と賭けをする事になり惜敗した。そこで気に入られメルティアの護衛に抜擢された。
副町長と町長補佐の役職なら町の色々な事が決められるはずだ。
「町人達は面倒な事を全て押し付けられる人間を探してたんだよ。そこで俺は墓守に白羽の矢を立てた」
「あんな人物にですか?」
「能力に気付いたのは何時だったかな? まあ、墓守の能力はその内分かると思うよ? この町で暮らすなら、だけどな」
「私共は一度帰りますよ。お嬢様の私物も運ばなければいけませんし」
「そうなのか……」
「ええ、しばしの別れですな」
「それは……。どうかな……」
大勢の足音が聞こえてくる。お祭り好きの町人がウルルスの婚姻を祝わない訳が無かった。ティアが棟梁に呼びに行ったついでに多分話してしまったんだろう。
「これは……」
「結婚式のお祝いって奴だな……」
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