第106話 依頼達成率99.8%
「ローテシアの昔話を聞いたお礼じゃないけれど。俺の今までの暗殺依頼達成率は何%だと思う?」
「100%でしょ? じゃなきゃウルルスは生きてここに居ないじゃない」
「そうなんだが、100%じゃない。99.8%くらいだ」
「それは千人中二人は生き残ってるって事?」
「ま、計算ではそうなるな。千人も殺してないけど……」
現在までに殺した数は二百六十四人ほどだが、殺せなかった人間は要る。と言うか殺しきれなかった人間は要るのだ。
「都市伝説で聞いた事ないか? 不死の魔女って存在を、さ」
「まさか殺せなかったのって不死の魔女なの?」
曰く、魔法で国を一夜で滅ぼした厄災。曰く、賢者の石の生成に成功した天才。
曰く、その魔女は心臓が好物である猟奇殺人者。
王国の家では悪さばかりすると不死の魔女が心臓を食べにくるぞと教育される。まさに、子供にとって恐怖の代名詞なのだ。
「魔法士殺しの面目躍如、相手の魔法よりも早く心臓潰そうが、魔法障壁無効化のナイフで頭を胴から切り離そうが死ななかったな……」
失血死を狙って四肢を切り離してもまだ死なず、血もバラバラの四肢も体が引き合うように集まろうとした。困ったウルルスは大陸の人気の無い場所に四肢と頭を封印した。残った胴は心臓にナイフを突き立てて海に捨てたが、死んだという確証はない。
「ウルルスの唯一の失敗?」
「唯一では無いさ。ターゲットの始末に二回失敗したこともあるからな。なんとか逃げ延びて、依頼はこなしたけど正確には俺の出柄じゃない」
「それは教会の最高司祭の暗殺か?」
「そうだ。その最高司祭は幼い男児を食い物にしてた悪魔のような奴だったな。一回目は幼児ごと殺ろす事に少し躊躇ってしまって最高司祭を慕う幼児たちの反撃されて逃げた。二回目も失敗して、三回目は最高司祭と幼児の歪な愛を逆利用させてもらったけどな」
あれは自分が手を下さなかった唯一の暗殺だ。人の心を操って殺害させるのは骨が折れるので二度とやりたくない。自分の手を汚すよりも後味が悪い。
「歪な愛……、ね。本人達にすれば真実の愛かも知れないけど私も非生産的な恋愛には否定的な意見ね」
「むう、ウルルス殿もしくじる事があるだな……」
「それはあるよ。あの頃はまだ経験不足っだし。人身の心理を使っての暗殺させたのも初めてだった」
「教会の最高司祭。前国王。伝説の暗殺者って呼ばれているのは、不死の魔女を封印した功績も加味されているのだな」
「不死の魔女を殺しきれなくて、何が伝説の暗殺者だって話だがな……」
「ウルルスは不死の魔女が死んで無いと思っているの?」
「アイツ頭を埋める最中も文句言ってたしな……。魔女信仰も未だに根強い」
不死の魔女を崇めて自分も不死になりたがる人間は多い。たまに心臓がえぐられた死体が国内で発見されたりする。が、不死の魔女が復活した訳では無く。心臓を食べれば不死になれると思い込んだ奴らの仕業だ。不死の魔女の不死の秘密は賢者の石なのだが、それを知らない人間は無関係の人の心臓を求めて食べるのだ。
「魔女信仰の殺人者はすぐに捕まるから問題ないんだが、魔女を復活させようとする奴らが面倒でな。ま、俺が封印した場所は滅多に人が行ける場所じゃないんだがな……」
「それだけと聞くと、まるで不死の秘宝を探す冒険者みたいね」
「性格からして不死の魔女が復活しても無条件で不死にしてくれる訳じゃないけどな」
「かと言って錬金術師の悲願である賢者の石がそう簡単に作れるとも思えないし」
「不死の魔女を復活させた方が手っ取り早いんだよ。唯一の成功者だからレシピ知ってのもあいつだけだしな」
「不死の魔女の復活を願う人は思ったより多そうね」
「賞金稼ぎの中には不死の魔女の封印場所が知りたい奴も含まているんだよ」
「思ったより深刻ね……」
「人は不死を求めるモノだ。これは人の業だな」
「何故人は不死を求めるのかしら? 私は欲しくないからさっぱり分からないんだけど」
「永遠の若さとかは興味ないか?」
「それは欲しいけど、不死とは関係ないでしょ?」
「賢者の石は永遠の若さと不死が手に入るんだけど、興味ない?」
「それは不老不死って事?」
「賢者の石は人体を究極的に深化させるものだからな。肉体年齢は肉体の最盛期に若返るし逆に成長もさせる事も出来る。どんな重傷もすぐに治るから死なない。事実五体をバラバラにしても生きてるし、痛覚はあるから拷問は生き地獄だと思うがな」
「でも、賢者の石を得てもたぶん一人にしか使えないんでしょ?」
「まあ、そうだな。ポンポン作れたら不老不死の軍団が出来て世界が滅ぶだろし」
「やっぱり要らないわね……。私は」
「その心は?」
「私はウルルスの子供と普通に年を取って暮らしたいもの」
「それはなんか分かるかも……。俺も活性魔法で若い体を維持してるのは暗殺に有利だからだなに過ぎない。出来るなら俺も普通に死にたいよ」
「恨み買いすぎて、それは無理でしょうね」
「さすがに自覚してるさ、それは……」
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