第93話 墓守とルドルフの対面
「お~い。墓守開けてくれ~」
二階から降りてくる足音。玄関の鍵が開く音がする。少しドアが開く。
「なんだ。来たのか、死んだと思っ……」
「は、初めまして。ウルルスの弟のルドルフと申します」
ドアの開けた姿勢で固まっている墓守。
「珍しい反応。俺がそんな反応された事無いな……」
「ち、町長の墓守だ。名前は捨てた、墓守と呼んでくれ」
「分かりました」
知り合いだったのだろうか?
「なんで墓守さんは覆面を?」
「ルドルフ、人には事情があるんだ。察しろ」
「すみません」
ドアを押し開けて入るとクイクイと袖を引かれれる。
「ウルルス。なんでガリバー先生がこの町に来るんだ?」
「なんで墓守がルドルフがガリバーって知ってんだよ」
「大ファンだからな、顏を知りたくて出版社に張り込んだ事がある」
「超不審者じゃん……」
「私の潜伏スキルは凄いぞ? 男に立ちションされても動かなかったからな……」
凄まじい執念だ。ストーカーって怖い。
「そのガリバー先生はもうお手付きだから、手を出すなよ?」
「出すかよ、私にとって雲の上の人だぞ。聖域と言っていい」
「教会嫌いの墓守に聖域って言わせるルドルフの才能が怖い……」
仕事場の二階に上がる。この間帰った時よりも散らかっている。仕事をするのは良いが、整理整頓くらいやって欲しい。
「兄上、ソロバンがありません。由々しき事態です!」
「頭の中に有るから安心しろ」
書類を種類ごとに集めるのも一苦労なのだが、墓守が散らかしたのは理由があった。無数の要望書と予算書と廃棄予定の紙の裏面に優先順位が書かれている。発注からの完成までの大まかな日数まで書かれている。
「やれば出来るのになんで隠すかね……」
「私の本業は墓守だからだ」
「そうかい。俺は暗殺の本業の傍ら医院の専属回復術士でこうやって副町長の仕事までやっているんだが?」
「出来ない仕事を押し付けた記憶は無いな」
コツコツと窓を叩く音がする。視線をそちらに向けると暗殺者ギルドの鳩が嘴で窓を小突いている。本業が入ったようだ。
「ルドルフ。悪いが初歩的な事は墓守に教えてもらえ、本業の依頼が入った」
「あ、はい。墓守さん教えてもらえますか?」
「も、勿論だ」
仕事は七割がた済んでる。書類に不備がないかのチェックと町長の承認の判子を押すだけだ。初日しては簡単な仕事ばかりだ。いつもこれくらい働いてくれればいいのに、ルドルフに出来れば書類の整理と破棄を任せたい。見られて困るモノも中にはあるのだ。
「じゃあ、日暮れまでには帰って来るよ。近場で済めばの話だがな」
「行ってらしゃい、兄上」
「さっさと帰って私を楽させろ」
「猫の世話しかしてない町長に言われたくないな」
鳩に括り付けられた手紙を読むとどうやら普通の仕事ではないらしい。しかし、簡単に済むだろう。これなら昼前に帰って来れるかもしれない。
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