第94話 新入り

 全速力で暗殺者ギルドのある町までやって来る。火事になった区画が新しく出来上がっている。これならギルド員たちも戻って来れる。ギルド長をやってた三つ子も引っ越しが終わったはずである。

「すっかり新しくなった。町長も約束を守ってくれたみたいだな……」

 山賊退治の報酬では無いがお願いを聞いてくれて助かった。

「いらしゃいませ、何名様ですか?」

「あとで連れが来る。いつもの奴を頼む」

「分かりました~」

 ウエイトレスはミリアだ。笑顔だが何故か恨みがましい目で見られた。

「くじ運が無くなったみたいだな?」

「うるさいな、席に行ってよ。忙しいんだから」

 酒場は前よりも盛況だ。古びて無いし、酒も良いのが揃っている。ウエイトレスも可愛いし、飯も旨い。ウルルスはここでは酒しか飲まないがそう評判である。

「ごゆっくりどうぞ~」

 ゴンっと音を立ててエールが置かれる。サービス業にあるまじき行為だ。

「カリカリして、よほど男日照りが酷いと見える」

「それ以上言ったら酒に毒盛るから」

「はっ、冗談も返せないほど余裕が無いとはな」

 殴り掛かって来そうだったので個室の扉を閉める。地団駄を踏む音が聞こえる。

「三つ子の均衡が崩れればこうなるか……」

 エールを胃に流し込むと隠し扉を開け通路を歩く。

「早いですね。さすがは主様」

「主様?」

 ギルド長室には二人の人物がいた。一人はカリア。もう一人は確か王都でスリをやってた女性だ。

「ギルド長。他の人が居る時にその呼び方は止めろ」

「カリアでいいですよ? もうギルド長は固定ですから」

「えっ、あなたがギルド長だったの!?」

「なんだ。説明もまだか、え~と名前は聞いて無いよな?」

「メルア。十七歳よ」

「へえ、大人びて見えるな。よほど苦労したんだな」

「分かるの? そんな事?」

「人は苦労すると大人の顔になるもんさ、孤児だったけれど卒業してシスターになるのが嫌で独り立ちしようとしたけれど、悪い大人に騙された口だな」

「あなたはエスパーか何かなの?」

「なんだ当たりか? 悪に染まるなんて経緯はどうあれ悪い大人がいるせいさ」

「私にスリを教えくれた、おばあちゃんが死んじゃってねえ……。楽に稼げるって聞いたから」

「君ならやれるさ。基本の報酬は金貨二枚。大物だと危険度によって増額する」

「私ならやれるって証拠は?」

「君はこの世界が嫌いだろ? 権力や金の上にあぐらをかいてる奴は特に嫌いなはずだ」

「そうね。否定しない」

「だからそいつらの命を盗むなんて息をするくらい簡単に出来る」

「どうやって? 武器も無いのに……」

「カリア。頼んでおいた奴は出来てるか?」

「はい。こちらに」

 小箱をそっとメリアに渡す。

「これは?」

「君用にあつらえた武器だ。試作品だがね」

「開けていい?」

 頷くと誕生日プレゼントを貰ったよな顔になる。この辺はまだまだ子供だな。

 メリアが手にしているのは一目で見るとアイスピックの様に見えるが、材質は鉄ではなくミスリル合金で先端にはごく薄い刃が付いている。

「これは服の上からでも心臓に達するように作ったアイスピックもどきだ。心臓に穴を空けるが血は一滴も流れない」

「名前があった方がカッコいいんですけど、ね」

「まあ、睡眠薬のハルシオンからとって、ハルメリアなんてどうだ?」

「専門武器持ちは自分の名前入れますし、いいんじゃないですか?」

「ハルメリア……」

 うっとりと言っていいほどの表情で自分の武器を見つめるメリア。

「で、カリア。初仕事の目星はあるのか?」

「それを主様に見極めて頂きたく」

「これでいいかな? 悪徳商人の一人息子のコイツ」

「最愛の者を奪われてどんな声で鳴くでしょうねぇ」

「メリア。ターゲットの顔を覚えろ名前を聞いても構わん、殺り方は任せる」

「はい。分かりました!」

 もう一端の暗殺者の気分でいる。こういう時が一番危ない。

「メリア」

「は、……」

 一瞬殺気を当てる。ビックとするとそのまま倒れた。

「濃密過ぎて倒れたか……」

「主様……。チビってしまいました……」

「どれ、見せてみろ。そういえばじっくり見た事無いから見せろ」

「……はい」

 どことなく嬉しそうなカリアを可愛がることにする。メリアはしばらく起きないだろうし、楽しもう。


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