第47話 ミカエル

 ミカエルと仕事したのは三回だけだ。

 隠れ家の二件は空振りだったので燃やした。山火事にならない配慮した。猟師が使うような掘っ立て小屋だった。二、三日身体が休めても生活するのも難しい。

当たりは町の外れの館だった。

「全く暗殺者は安定を求めてちゃダメだな」

 家の周りは罠だらけだった。一つ一つ丁寧に解除する。ここまで運が悪ければ何度も死んでいたと思う。

「いってらっしゃい、アナタ」

「ああ、身体にを大事にな」

 ミカエルに優しい表情を初めて見た。奥さんであろう人物は明らかに妊娠している。思わずため息が出る。

 このまま不意を突いて一気に仕留めたい気もするが。少し話もしてみたい。

「ようミカエル、久しぶり」

「ウルルス、何しに来た……」

「なぜ奴隷商ばかり殺すのか聞きたくてな」

「ギルドの仕事か……」

「そんな事をしても世の中は変わらんよ、肥えた豚がもっと肥えるだけさ」

「お前には分からない。あの方の思想は」

「だろうな、もう殺してしまったし」

「お前!」

「奴隷制度は国が決めたルールだよ。現国王も認めた、な」

「前国王を殺したお前が言うと言葉に重みが違うな……」

 そう言いながら少し離れ始める。何をする気だろう。

「奴隷制度を変えたいなら奴隷商を殺しても意味がないんだよ」

「ならどうすればいいっていうんだ!」

「ほら、現国王の娘を攫って洗脳するとか」

「外道の所業だな」

「殺し屋の俺たちなんてそれ位しか思いつかんよ」

「死ね、腐れ外道」

 叩きつけられるガラス管。なるほど、ミカエルは毒使いだったか。

「そのまま、のたれ死ね」

「いや、悪いけど俺に毒はきかないぞ?」

「なんだと!」

 暗殺者の基本技能だと思うんだが、違うんだろうか?

「じゃあ、死んどけ」

 ミカエルの胸に手を置き裏打ちで心臓を破壊する。

「やれやれだな、敵意を見せなければ見逃したかもしれんのに」

 それも過ぎた事だ、後始末をしよう。

 ミカエルの家を訪ねる。表道には罠が無かった。無駄足を踏んだ気分だ。

「は~い。どちら様でしょう?」

「ミカエルの同業者です。互助会からのお見舞い金を持って参りました」

「……。そうですか、いつかこんな日が来ると思っていました」

「どうぞ、お受け取りお受け取り下さい」

 はっきり言って今回の報酬全てだが。別に構わない。骨折り損のくたびれ儲けるとは今回の事を云うのだろう。

「少しお待ちください」

「お金は置いて行きます、それでは」

 奥さんが殺す気満々だったので全力で逃げ出す。身体強化魔法全開で走る。常人では追いつけないはず。念のために家の方がには向かっていない。

「一生恨まれるな、コレは……」

 自分が父親になった時を考えると憂鬱になってくる。まあ、だいぶ先になりそうだが……。いつかはなるだろう。

「これは受けるべき依頼じゃなかったな……」

 飲み友達も減ったし、報酬もない。ホントにあのお嬢様はやってくれた……。

 ギルドに仕事の単価のアップを依頼しよう。もう怒りをぶつける相手が他に居なかった。



 


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