第35話 追跡者
ギルド長二人の説得に大分時間を食った。精神的にかなり疲れたのでもう一杯エールを飲んでから酒場を出る。
違和感を感じたのは酒場を出てから少し経った頃だ。後を付けられている、それも三人に。財布が狙いなのか、命を狙っているのか、それとも別の案件か。
どちらにせよ相手をする気はない。身体強化魔法で近くの家の上まで飛び上がる。
「酒は買わんでいいか……」
三人が自分を見失っているのを確認して、帰路に着こうとした瞬間、
「お待ちしておりました」
言葉とともに雹弾が自分に殺到した。屋根の上をすべるように動いた緊急回避で事なきを得たが、声を掛けられなかったら危なかった。顔を確認するまでもなくジェフリー・モーゼンだ。今回は奴の悪癖に助けられた。今なら尾行してしてきた奴らが陽動だったのだと理解できる。
「私の必殺を避けたのはあなたが初めてですよ。ウルルス・コル」
「それは先に声を掛けるのが悪いと思うぞ?」
「それは、そうですね。しかし、貴方の様に何も語らず瞬殺してしまうのも、どうかと思うのですよ」
「見解の相違だな、俺は語る言葉を持たないんでね……」
「あなたを確実に殺すようにコル家の方からも言われていますし……」
「……」
その言葉で、自分の中で何かが決定的に壊れた気がした。そうか、愛されずに育ったのは間違いでは無かった。かと言って今すぐに実家に戻って復讐しようとも思わない。
「流石にショックですか?」
ジェフリーの愉快そうな声が耳障りで仕方がない。そうだな、とっておきを見せてやろう。魔法士の家系に生まれた自分しか出来ない技を、
「……」
すでに語る言葉はない。とりあえず、目の前のコイツを殺してしまおう。
ジェフリーの放った雹弾の場所に既に自分はいない。家の屋根から空中に身を躍らせて居るからだ。
「ばっ‼」
バカな、とでも言いたげだが、攻撃魔法が使えない自分でも一瞬なら圧縮した空気で空中で足場が作れる。その一瞬だけで事は足りる。何度か足場を踏み。
「死んどけ」
ジェフリーの背後に回り込んで後ろから裏打ちを叩きこむ。心臓の位置がたとえ逆でもこの一撃は内部から心臓に達する。血を吐き倒れる体を蹴り飛ばす。ジェフリーの体が屋根から滑り落ち、地面に衝突する。
悲鳴を上げた周りにいた人には悪いが今は少々虫の居所が悪い。帰って酒を飲んで寝てしまおう。
どんな顔をして家に帰ろうか、それだけが目下の頭痛の種だ。
「ティアに心配させるかな……」
自分の代わりに泣いてしまうかもしれない。でも、いつかバレるなら今日で良いだろう。実家にも狙われている、賞金首なのだから仕方ないのかもしれない。それがたまたま今日だった。それだけの話だ。
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