第31話 暗殺者の暗殺
ベスが語った暗殺者は全部で四人だった。
一人目は駆け出しの暗殺者で宿と娼館を転々と変えるウルルスから見れば、ほぼド素人と言ってもいいレベルの暗殺者だ。得意な得物は毒を塗ったナイフで、常に解毒薬を持ち歩いているらしい。名前はロドリゴ。姓は有ったが身元がバレると家に迷惑がかかるのが嫌で名乗っていないらしい。ベスは姓を知っているようだったが、あえて聞かなかった。
コル家はウルルスの出生さえ認めていない。赤の他人が勝手にウルルス・コルを名乗っていると断言している。
二人目は中堅と言ったところの魔法士出身のジェフリー・ティヒ。相手を魔法で首元まで氷漬けにして。凍死するまで見ていると言う悪癖を持った人物だ。ターゲットが死に物狂いで叫ぶので、見回りの何人かが被害者として増える。それは暗殺者としては失格なのだが、何故か生き延びて今も仕事をしている。ターゲットに今までの悪事を懺悔させているとも風で噂されている。
三人目は妙齢の美女を使う優男のメルケル。その手下達は複数人でターゲットを篭絡し、夢見心地のまま地獄に堕とすという男性専門の暗殺者だ。風の噂ではメルケルは男装した美女というのが定説で、メルケルと言うのは継承される名前らしい。当代のメルケル本人が死んでも、他の手下がメルケルを名乗る仕組みだ。奴隷商相手ならこれほど相性の良い暗殺者はいないだろう。どうやって件の令嬢と関りを持ったかはベスを以てしても謎らしい。
四人目は知り合いだった。いつも酒浸りでギルド長の酒場の常連であり、何度か一緒に飲んだことがある。俺と同じ武器を持ち要らないタイプだ。幾つか隠れ家を持っていて、ギルド長の虎の子である。名前はミカエル。敬虔な教会の信者で何度か教会で自分の罪を懺悔している。教会の懺悔した罪は口外されない。元々孤児出身だが、風の噂では家庭を持ったとか、いないとか。孤児院の寄付までしている人格者だ。
「また、癖の強いのが多いな……」
くすんだ銀髪を掻きながらため息をつく。
「そもそも暗殺者は歪な存在だから、しょうがないとも言えるがな……」
「ウルルスがまともに思えるから不思議よね……」
グラスにワインを注ぎながらフェイがため息をつく。
「俺がまともな訳ないだろ、何言ってんだ?」
「ウルルスほど生き方が矛盾しとる人間なんて儂は知らんよ……」
「は? え? どゆこと?」
「俺は自分がまともだなんて、一度も思った事がない」
「人を殺して許されるのは戦時下の兵士だけじゃ、殺人鬼が人助けの為に人を殺すなんて根本からおかしいじゃろ?」
「まあ、そうなんだけど……」
「俺は悪人だろうが、善人だろうが依頼があれば殺すよ、確実に」
「それがウルルスという人間なんじゃよ」
「それが職業殺人者としてのウルルスの生き方……」
ワインを一気に飲み干して話す。これを話すには少しワインが苦く感じたてしまうが。
「だから、同業者殺しも慣れてるんだよ、俺は」
「大抵ウルルスの所に依頼が行くのぅ」
「辛いと思った事は?」
「残念だが、一度も無いな。今のところ、な」
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