第4話 仕事の依頼
ティアが作ってくれた昼ご飯を食べ終わって腹ごなしに庭で冬用の薪を割っていると一羽の鷹が近くの木に降り立った。
「助かるなぁ、このところ物入りだったから」
その鷹は暗殺者ギルドの連絡の使い魔だった。
普段は鳩の方を使うのだが、鷹は難易度が高く破格の値段の仕事が多かった。鷹に近づくと警戒しているのか一泣きされた。
「ニワトリを潰すわけにもいかないし、肉でも買いに行くか」
家に入るとティアが掃き掃除をしていた。昼ご飯の出来映えに上機嫌なのか鼻歌まで歌っている。
ちなみに昼ご飯はキノコと春の野菜のパスタだった。ウルルスはティアに失敗の少ない料理から教えている。例え失敗しても完食しているが、
「ティア、町の肉屋まで行くんだが、他に買ってくるものあるか?」
「お肉なら燻製肉がまだたくさんありますよ? なんでお肉屋さんまで行くんですか?」
「いや、鷹に食べさせる肉が無くてな、乾燥させた牛肉なら食べるだろうが燻製肉は
食うか分からんだろ?」
「なんで鷹に肉を食べさせる必要があるのか、あえて聞きませんが……。そうですねぇ、胡椒が切れかかってていたような気がします」
「また、金の掛かるモノが……」
「料理が美味しくなる尊い犠牲です、買って来て下さい」
「分かったよ」
ウルルスは極力ティアを町に出さないようにしている。
もちろん誘拐や拉致を警戒してのことだ。護身術は一応教えてあるが、ティアの魅力に男どもが結託したら多勢に無勢だとウルルスは本気で思っていた。
「鷹には近づくなよ。行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
肉屋と言っても扱う肉は狩人が取ってきた野ウサギやカモ、鹿肉などジビエ的なモノが多い、豚肉や牛肉が欲しいなら飼育している人にあらかじめ予約しないといけない。後は食べられる魔物の肉だけだ。収穫祭は牛肉も豚肉もふるまわれるが、ウルルスはあまり美味しいとは思わなかった。他は冒険者が狩る魔物の肉だ。
野生の鹿肉が一番好きで偶に自分で狩ることもある。
「鷹なら野ウサギかな、あると助かるんだが……」
◆◆
「うわぁん、ただいまぁ~」
「おかえりなさい、ご主人様。どうしたんですか?」
「なんで鷹がいないんだよぅ、仕事がぁ……」
「あぁ、それなら大丈夫ですよ?」
「へ?」
「燻製肉でも懐いてくれました。はい、お手紙です」
「鷹に近づいたのか、ありがとうな」
ウルルスはティアから手紙を受け取ると目を通す。
「見ても読めなかったんですよね、なんて書いてあるんです?」
「読むなよ、まあ簡単に読まれないように暗号化されてるんだけど」
「それで誰を殺すんです?」
「あのなぁ、暗殺者ギルドの仕事は暗殺以外にも多岐に渡るんだぞ?」
「へぇ~、で誰を殺すんです?」
「……。同業者だよ、契約違反で逃亡したみたいだ」
「血の掟って奴ですか?」
「よくそんな言葉知ってるな。勿論ペナルティはあるだよ。ターゲットと姦通して逃がしたりな」
「かんつう?」
頬に指を当て小首を傾げるティア。あざと可愛いなとウルルスは思った。
「まあ、一線を越えるって奴だな」
「ああ、私たちが超えてないアレですね」
せっかく包んだオブラートを破くような発言に少し閉口する。
「……しばらく戻れないから、そのつもりでいてくれ」
ウルルスはそう言うと買ってきた野ウサギの肉をティアに渡した。
「これが私が振る舞う最後の食事になるんですね。必ず、私の元に帰ってきて下さね」
「はいはい、無理やり死亡フラグを立てようとするな。まあ、ギアスが消えたら死んだと思ってくれていいから」
契約者の死亡で契約が無効になるのは良くある話で、強制のギアスとて例外ではく、それはティアも重々承知していた。ギアスから逃れたくて契約者を殺すように依頼してくる者もいるのだ。受けてくれる暗殺者は少ないが、
「冗談はさておき、このお肉はどうやって食べます?」
「無難にシチューだろ」
「切って煮込むだけでいいなんて、シチューはお手軽でいいですね」
「それを言うならローストは焼くだけだぞ?」
「オーブン使ったことないんですよね、この際やってもいいですか?」
「ま、これが最後の授業になるかもだしな」
「そうですよねぇ、ってご主人様もフラグっぽいこと言わないで下さい!」
「なんで怒られるのか、意味わからん」
「私が言う分にはいいんです!」
「理不尽だ……」
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