ぼくと空と空の家族 後編
ああ、真っ赤な水しか見えない。
突然、怪我をした足を赤い髪の毛に捕まれ泉の中に引きずり込まれた。
そんなに深くないはずなのにどんどん沈んで行く様な感覚がする。
(痛い、苦しい、、、ぼく死ぬのかな?それは嫌だな)
ぼくは持っていた空の帯をすがる様に抱きしめた。
だんだん意識がなくなってくる。
(、、、空、一人は寂しいよ。空に会いたいな、、こんな感情、空に出会ってなかったら知らなかったんだろうな)
ぼくと空が一緒に暮らして半年たった時の話しだ。
何でかは忘れたけどその日、空は1日近く帰って来なかった。
朝は少し胸がスースーする様な感覚がしただけだった。
だけど、昼過ぎになると何故か泣きそうになって息をするのが辛かった。
そして、夕方になると怖くて怖くて仕方なくて空の部屋に入って空の着物を抱きしめたら少し落ち着いた。
夜になって帰って来た空を見つけたら走って空に抱きついて泣いた。
空に抱きついて落ち着いてくると朝から感じていた全てが空が居なくて寂しいからだと分かった。
(あの時、初めて知ったんだ。一人で居るのは怖くて寂しい事だって。大好きな人と一緒に居る事は楽しくて幸せな事なんだって、空がぼくに教えてくれた感情なんだよ。あの時、初めて空の前で泣いてしまった時に空は言ったよね?寂しくなったり怖くなった時は呼べって呼べば直ぐにぼくの所に来てくれるって)
息が出来なく苦しくなって意識が所々なくなっていく感覚がしたけど、ぼくは上に手を伸ばしながら必死に心の中で呼んだ。
(苦しいよ!痛いよ!寂しいよ!助けて!、、、一人にしないで、空!)
だんだん、目の前が暗くなっていく。
体の力が抜けていき意識が無くなろうとした瞬間、ぼくの手を掴んで水の中から引き上げた。
ぼくはこの手が誰の手か知ってる。
(本当に来てくれた)
「ゴホッ、ゴホゴホッ、ひゅっ、は、はぁはぁ、そ、、ら、、」
「遅くなってごめんな?青天」
「ひゅっ、はぁはぁ、ううん、良いんだ。はぁはぁ、来てくれたから、、、寂しかったんだ。空、そら~!ふぇぇ、うわぁん」
「すまない。青天、寂しかった分いっぱい泣いて良い」
ぼくは空に抱きついて泣いてしまった。
そして、怪我と色々な事が起こったせいで疲労が溜まっていたので、そのまま気を失ってしまった。
ぼくが目を覚ましたのは全てが終わった後だった。
空視点
紅の泉に向かい近づくと陽が何かに気づいたのか立ち止まった。
「陽?」
「この匂い、、、空兄さんの家に行く時と同じ匂いがする!」
「同じ匂い?」
「あ!そういやぁ、陽の奴、空の家に向かった時に烏って言ってたよな?もしかして、あの時も烏天狗の匂いがしたのか?」
「うん!微かにだけど烏天狗達の匂いがしたんだ!」
「なら、ここに青天が居るんだな?早く行かなければ!」
「天の匂いも少しするよ!後、空兄さんの匂いもする!」
「オレの匂いも?」
「うん!微かにだけど空兄さんの匂いもする!」
オレの匂いもするのは気になったが、早く青天を助けてやりたかったので先を急いだ。
すると、見覚えのある五人の烏天狗達が紅の泉に向かって祈る様に何かを言っているのが見えた。
(あ、体が震える)
「空、大丈夫だ。俺達が居る。怖くないぞ」
「、、、海兄さん」
昔の暴行とあの言葉を思い出して震えていた体が海兄さんの言葉で治まった。
(、、、兄さんは何でもお見通しだな。やっぱり、敵わないな)
「ねぇ」
「どうした、陰?」
「青の姿が見当たらないんだけど」
「え?、、、本当だ、青天の姿が見当たらない」
「兄さん、陸」
「おう!」
「分かってるよ」
オレと海兄さんと陸で烏天狗達の元に向かった。
(何か言っている?)
「女神様、我らに力を」
「贄は差し上げました。どうか我らの願いを」
「贄とは誰の事だ?」
「我らに汚名を付けたアレの子供だ」
「ほー、、その子供をどうしたんだ?」
「どうしたって、、、なっ!?」
「何故、貴方が、、、」
「天狐の海様、、」
「俺だけじゃないけどね?」
「な!何故、あんな犯罪者と、っ!ぐっ!」
海兄さんがその言葉にイラついたのか烏天狗の一人の首を締め上げた。
「おい、俺の弟が何だって?」
「ぐっ、あ、貴方様はあいつに騙されているのです!あいつは謀反人我々を人間に売った極悪人なのですよ!」
「空はそんな奴じゃねぇよ!それに俺にとっての極悪人はテメェらだ」
「何故そんな事を」
「俺が知らないと思ってんのか?知ってるぜ?お前らが俺達が長達に会ってる時に家に入り空になんて言ったのかもな?」
「そんな!あいつが言ったのですか?そんな嘘を、ッ!がっ、ぐぅっ」
烏天狗達がオレを睨み付けた瞬間、海兄さんが烏天狗達を強い力で容赦なく締め上げて否定した。
「ちげぇよ。その場面を見てた奴が居たんだよ!お前らが空に嘘を言って空を傷つけたってな!」
「なっ、我らは嘘など、」
「俺達の力が空のせいで穢れてきたって?そのせいで俺達が長達に呼び出されたって?」
「あ、そ、それは、」
「空が不幸を振り撒いてるって?」
「、、、。」
「なぁ、俺達は空が俺達と居てくれる事が幸せだったんだ。それを空が居るから俺達が幸せになれないってお前らは言ったんだよな?」
「ひっ!?」
海兄さんから神気と妖気が溢れてくる。
烏天狗達は海兄さんの力に恐怖を抱いて腰を抜かし震えている。
「海兄さん!今はそれより、青天の居場所を聞いてくれ!」
「は、ハハハ!あのガキなら贄となってこの泉の女神様に渡した!ざまぁみろ!裏切り者が!ハハハ!ッ、がっ、グオッ、、、」
海兄さんが烏天狗を思いっきり蹴っ飛ばした。
烏天狗は近くにあった岩に当たり気絶したみたいだ。
オレは赤い泉の上を飛び青天が居ないか探した。
(青天、何処に居る!くそ、真っ赤で何も見えない!)
「青天!何処だ!何処に居る!」
「青!何処?みんなで助けに来たよ!」
「天!直ぐに見つけてあげるから待ってて!」
海兄さんと陸は烏天狗達を相手にしているので青天の事を探しているのはオレと陽と陰の三人だ。
(青天!、、、ん?今、一瞬、、青天!)
「青天!」
「え?空兄さん、青を見つけたの?」
「泉の真ん中に居るの?」
泉の中心が一瞬、青く光った様に見えた。
オレはその青い光がオレを呼ぶ青天に見え、迷わず泉に手を入れた。
すると、そこに青天の手があったので泉から引き上げようとした。
(ぐっ、重い!青天だけじゃないのか?)
「青天!今、助けるからな!」
オレを泉に引きずり込もうとする力に逆らい、かなりの力で青天を引き上げる。
青天は何とか引き上げたが青天の左足に赤い髪の毛が絡み付いていたので腰にある小刀で泉から伸びる赤い髪の毛を斬った。
すると青天の左足に絡み付いていた赤い髪の毛が消えたのだ。
だが、それよりも今は青天の方が心配たった。
オレは青天に助けるのが遅くなった事を謝ると青天は来てくれたから謝らなくて良いと言った後、寂しかったとオレにすがり付いて泣いた。
青天は一人にされて寂しい思いをするのが一番嫌いで一番怖がっていたので好きなだけ泣かせると色々な事があったせいで疲労が溜まっていたのだろう。
泣きつかれて気を失ってしまった。
(青天、青天、良かった。無事で、、、ん?これは!)
「青、無事だったんだ。良かった」
「天、寝ちゃった?」
「、、、、二人共、青天を頼む。足と頬に怪我をしているから応急手当てをしておいてくれ」
「え?、、、うわ、頬が赤い。叩かれたんだ」
「左足の太もも、刺されてる!」
青天を二人に任せ、オレは烏天狗達の所に向かった。
「ん?青天が見つかったんだ、、、空、何をそんなに怒ってる?」
「うわ、、、空の顔、無表情になってる。あんなに怒ってる空は久しぶりに見るな」
「お前ら、俺の弟に何したの?空の奴かなり怒ってるから覚悟した方が良いぜ?」
海兄さんと陸は烏天狗達から少し離れてオレの後ろに着いた。
オレは烏天狗達の前に立ち、どうしても聞きたい事があったのでそれを聞くことにした。
「青天の、、、あの子の頬に叩かれた後と左足の太ももに刺された傷があったんだが、、、お前達がやったのか?」
「ああ、あの気色悪い青い目のガキか」
「我らから生意気にも逃げようとしたのでな」
「躾の代わりに頬を叩いて腹を蹴ってやったのだ」
「足の傷は女神様に贄を捧げるのに贄自身と贄の血が必要だったからな。小刀で刺したのだ」
「叫び声も上げない気色悪いガキだったな」
「、、、、。」
「お前ら、あんな小さい子供に何て真似を」
「、、、お前らは空の事を本気で怒らせた。俺達も怒ってるけど、空はもっと怒ってる。俺達が絶対に怒らせたくない奴をキレるほどに怒らせたんだ。覚悟しとけよ?」
俺は団扇を出して烏天狗達に近づいた。
「な、なんだ!」
「うるさい、黙ってやられろ」
オレは烏天狗達に向かって団扇を振った。
烏天狗達はオレが作った風の刃(やいば)に当たり身体中、傷だらけになって泉の近くまで飛ばされた。
“ビュービュー”
「ぐぁ!」
「ギャー!ガァッ!」
「うわぁ!ッ、グオッ!」
「うぉっ!くっ!」
「なっ!うぐっ!」
「、、、、。」
「ち、近づいて来るな!」
「ひっ、何故、そんなに強いんだ!」
「つ、強い!来るな!」
「あ、あ、こんなに強いなど聞いて無い!」
「来るな!来るな!」
烏天狗達は近づくオレに怯えて泉の水に少し体が濡れるぐらい後ろに下がった。
オレがもう一度烏天狗達に団扇を振ろうとした時、烏天狗達に何かが絡み付いた。
「ひっ!?なんだ、これは?」
「泉から伸びてるぞ!」
「これは、、、髪か?」
「なっ!引っ張られる!」
“ボコッ、ボコボコボコッ”
泉の中から真っ赤な髪の女が出て来た。
どうやら、烏天狗達に絡まっている髪はあの女の髪みたいだ。
烏天狗達は髪に引っ張られ泉に引きずり込まれそうになっていた。
(なんだ、あれは?凄く禍々しい。穢れきっている)
「ひっ、お、お止めください!女神様!」
「わ、我々は贄ではありません!」
「い、嫌だ!誰か!」
「助けてくれ!嫌だ!女神様!お助けください!」
「女神様!お止めください!やめっ!ブクブク」
烏天狗達は泉に引きずり込まれた。
女神と呼ばれていた真っ赤な女は静かに泉に沈んでいった。
(あの女は一体、、、)
「空兄さん!青が凄い熱を出してる!」
「海兄さん!この泉、血の匂いしかしない!この泉の水、血で出来てるみたい!早く離れた方が良いよ!穢れが凄い!」
「血ぃ?穢れが凄いのは分かってたが確かに血の匂いしかしないな。青天の血の匂いかと思ったけど、穢れきっているから青天の血ではないな」
「それより早く空の家に戻ろう?青天の手当てと看病しないと」
「青天?凄い熱だ!早くしないと!」
「おう、帰るぞ」
色々思う事はあったが今は青天が先だ。
オレの家に帰り烏天狗の秘薬を出して青天の左足の太ももの怪我に塗った。
(この薬を使えば傷も残らないはずだ)
「空、少し良いか?」
「兄さん?」
兄さん達からある事を言われオレは少し迷い青天が起きてから返事をすると言った。
青天視点
ぼくは眠っていた時に起きた事を空から説明された。
「それで、その、兄さんから、その」
「ん、ゆっくりで大丈夫だよ」
「ああ、、、兄さんに一緒に暮らさないか?と言われた」
「良い事じゃないの?」
「その、あんな態度をとっていて今さら前みたいに一緒に暮らすのは」
「海達に申し訳ない?それとも、図々し過ぎる?」
「どっちもだ」
「ん~?海達は空と一緒に暮らしたいんだよ?どっちかっていうと海達の望みなんだから叶えてあげれば?空の幸せも海達は嬉しく思うとぼくは思うけど?」
「それは、、、オレも本当は分かっているんだ。だが、またオレのせいで兄さん達に迷惑をかけるかも知れないと思うと」
「決心がつかない?本当はまた一緒に暮らしたいんだよね?」
「、、、ああ」
「だって」
「へ?」
ぼくの部屋の入り口にいた海達が部屋に入って来た。
「い、いつから?」
「最初から」
「そん、、うぅ」
空は顔を真っ赤にして両手で顔を隠して床に沈んだ。
ぼくはそんな空の頭を撫でて言った。
「みんな空と一緒に居たいんだよ?ぼくも海も空の幸せそうな顔を見て一緒に暮らしたいんだ。だから、素直に自分の願いを言って良いんだよ?」
「、、、また、みんなで暮らしたい。海兄さんと陸と陽と陰とそれに青天と一緒に暮らしたい」
「兄さんにまっかせなさい!空の願いを叶えてやる!」
「、、、うん」
海達と暮らす事になったぼく達はぼくの怪我が治ってから引っ越しをする事になった。
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