6話 : 闇夜に紛れて①

 ぼおっと小さく燃える火を頼りに、一人の男が家臣と雑談している。場所はつい少し前に出来た末盛城すえもりじょうという名の城は隠居のために作られたもので、緩やかな日々を過ごしていたのだ。尤も、悩みの種はその隠居についてであった。

 「最近の信長はどうだ、政秀」

 家臣、というのは信長に常に着いている平手政秀だ。

 「最近は頑張っておられる様子ですな。だがやはり随所で奇行が目立ちます」

 「新しく登用した、出自も分からない家臣を側に置いているらしいな」

 その家臣とは何を言おう、拓海のことだ。拓海の経歴については現時点では全くの不明、となっている。信長が多少工作はしているらしいが。


 「まあでも、少しずつ後継者としての自覚が出てきているならそれで良い。引き続き頼むぞ」

 「はっ」

 この会話の主は織田弾正忠家おだだんじょうちゅうけ、現当主の織田信秀おだのぶひで。信長の父親だ。近頃は北の国境を接す美濃国の斎藤道三との和睦を、先程の政秀の尽力で成立させた。西の国境を接する三河国みかわのくに松平まつだいらとは敵対関係が続いているがこの少しの間は落ち着いている。それに呼応するように信秀の身体も悲鳴を上げ始めていた。病、とまでは言わないが調子が悪いことくらいは自覚している。

 「早く信長には育って欲しいものだ」

 教育係の政秀たちには期待している。これまで自分を支えてきた忠臣でもあり、信頼もしている。だが信長がその予想を超えて、次期当主の座に相応しくないとなった場合どうなるか。


 想像するだけでため息が出るが、彼が出てくるしかない。彼は実直で真っ直ぐではあるが、それがどうも出過ぎてしまうところがある。何か空回らないと良いが。

 帰蝶との結婚相手を信長にしている以上、今後の斎藤家との関係を考えると彼に当主になってもらわねば困る。また、昨年はこの尾張国おわりのくに内でも内乱が起きていた。これも結局政秀の執り成しによって和睦と相成ったのか。

 「さて、寝るか」

 結婚式も近い。また忙しくなるだろうから、体調を整えよう。そう思い立って火を消した。

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