【斎藤道三編進行中!】信長と作る太平の世 〜未来人たちは天下統一目指して頑張ります〜

篠崎優

序章 タイムスリップ

1話:14歳の織田信長

 身体が宙に浮いたような感覚がして、はっと引き戻される。ふわりふわりと夢心地な意識が強制的に叩き起こされる。酷い頭痛のせいで、意味も分からずに目が覚めた。

 「痛い……!」

 はち切れそうだ。かつて味わったことの無い頭痛に布団の上で顔をゆがめる。幾分か、何も考えずに呻き声を上げていたら何故か治った。そして拓海たくみは今一度改めて周りを見渡すと自分が置かれた状況の意味が、分からなかった。

 「どこだ? ここ」


 えらく綺麗な和室だ。さっきの頭痛からして、病院では無いのかとも思ったがその考えは直ぐに無くなる。自分が身にまとっている服が病院のものとは似ても似つかないからだ。

 「何だこれ、和服?」

 着物? いや、よく分からないが兎も角その類のものだ。頭の中がクエスチョンマークで埋まり、どうしようも出来なくなる。さっきまで自分は障子で仕切られた布団が敷かれた和室に寝ていたのだ。この障子の外からは陽光が差しているので外だろう。しかし、無闇に動くのは良くない気がする。


 するとその障子前に人影が現れ、障子が空いた。

 「……もう起きていたのですね」

 寝ていると思っていた拓海が起きていたので少し驚いていた。入ってきたのは30代くらいの見た目をした男の人だ。物腰柔らかく、同じく着物を着ている。それにしても今一瞬彼が障子を開けた際に隙間から庭のようなものが見えた。丁寧に整えられ、緑色が映える日本庭園のようなものだったと思う。更に疑念が増えていく。

 「ここは、どこで……」

 和風の作りをしている建造物に着物。まるで昔の日本にそのまま来たような、そんな雰囲気がある。その男の人は変わらず丁寧に受け答えを進める。

 「そうですね……ひとまず体調が優れているのなら来てもらいたいところがあります。立ち会いをしたいとおっしゃっていますので」

 「いや、だからそれは誰が――」

 彼は拓海の言うことは聞かず、そのまま行動を促した。モヤモヤとしながらも、ここで動かなくては状況も進まないなと思って拓海は立ち上がった。


 木造で作られた立派な建物、それに池なんかも見える中庭を横目にしながら男の後ろを歩いていく。口には出さないものの、広いなと感心する。やはり何かの施設だろうか。色々と考えていたらすぐに目的地に着いたらしい。大広間のような場所に連れられた。広間と言う通り、とても広い部屋だ。

「少しの間ここで待っていてください」

「はい……」

 促されるままに畳の上に座って誰とも知れない人の到着を待つ。ここまで混乱して頭もあまり働いてこなかったが、冷静に考えるとこの状況はかなり異常だ。広間は拓海から見て奥へ奥へと広がっており、一番奥には高さが一段上がった所もある。それを見ていると何だか時代劇に出てくる城にある部屋みたいだった。

「いや、そんなわけ」


 そこまで至った考えを小声で振り切った。そんなことある訳がない。

「いらっしゃいました」

 その呼びかけに気付き、顔を上げると目の前に、自分と同じくらいの歳の男が少し偉そうな感じで座っていた。拓海の年齢は14歳。学年に換算すると中学二年生にあたる年齢だ。恐らくその位の年齢であろう少年は口を開く。

秀貞ひでさだはこの部屋から出て行き、会話を聞くこともしないように。よろしくね」

「はっ」

 秀貞と呼ばれ、拓海をここまで送ってくれた男は短く返答すると礼をして去っていった。たった数秒の出来事ではあったが自分と同じくらいの人間が、年齢にして二倍はあるであろう人に命令をしている姿は異様に映った。


 何となく頭に浮かんでいたことではあるが、そんなことが起こるはずない。科学的に、絶対にないはずだ。

「あなたの、名前は?」

「織田三郎信長って名前だ。この戦国時代に生きている、織田信長だ」

 まるで宝物を見つけたかのような輝かしい目をした織田信長は拓海を見てにっこりと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る