第87話 さらなる高み
アロルドとエリスが、他のエルフを連れてその場を離れる。
魔神がチラッとそれを視線で追うが、動くことはなかった。
視線をすぐにユスティアへと戻し、観察するように見てくる。
「俺様が弾かれたのは、その後ろの羽根と関係がありそうだな」
「そうね。でも牛さんには、どうにもできないわよ?」
そう言うと、ユスティアは魔神に剣を向けた。
「トルネード」
魔神を中心に小さな竜巻が巻き起こり、真空の刃がいくつも襲う。
だがそれは、さっきのアロルドたちと同じように効果はなかった。
「これ以上だと周囲にも影響しちゃうし、やっぱり直接叩くしか――ないかっ」
少し腰を落とした瞬間、ユスティアが魔神との距離を一気に詰める。
魔神もそれに合わせて斧を振り下ろしてくるが、それをユスティアは左手の聖遺で軌道を逸らして剣で斬り裂く。
魔神の左腕を斬り落とすつもりで振るったユスティアの剣は、そこまでには至らず肉を斬り裂いたところで止まった。
「硬いわね――」
だがユスティアの攻勢は止まらない。
魔神が斧を引き戻すより早く身体を回転させ、聖遺で魔神を薙ぎ払う。
腕の上から弾き飛ばし、すぐにユスティアは追撃をかけた。
「シャドーレイ」
魔神が弾かれて地面を転がるときには、すでにユスティアは上から狙っていた。
放たれた聖遺の周囲に二九本の槍が現れ、起き上がる魔神に容赦なく降り注ぐ。
夜の世界に少しの炎の色が足された明るさに、白く輝く聖遺が何本も超スピードで線を描く。
魔神は少しでも被弾を避けるため、転がって側面で受ける体勢をとっさに取る。
「無駄よ」
空中で魔神を見下ろしていたユスティアが、小さく呟いていた。
「――! ぬぐぁぁあぁああ」
明らかに魔神の外側だった槍が、地面近くで急激に曲がる。
三〇本の槍すべては魔神を貫く。
ユスティアが左手を伸ばすと、魔神を貫いていた聖遺が消えて手元に戻った。
魔神の身体はシャドーレイによって、欠損がいたるとこにある。
だがそれは急速に再生を始め、魔神は起き上がってきた。
さっきよりも赤くなっているように見える魔神の目が、憤怒を映してユスティアを見てくる。
「言っておくけど、こんなものじゃ済まさないわよ」
ユスティアの顔には表情など見えず、冷え切って冷酷な声色で魔神に言い放つ。
背中にあるオレンジの翼とは対照的なそれが、ユスティアの怒りを強調しているように見える。
ユスティアが見回すと、エルフたちが侵入してきた魔物たちと戦っている。
その戦いで傷ついて倒れている者もいるが、残念ながら命を落としたエルフもいた。
エルフの出生率は人族と比べると低いが、その代わり寿命は長い。
それだけ共に過ごす時間が長いというのもあり、ユスティアが知らない顔などなかった。
聖都に魔神が現れて、エドワードが殉死した。
あのときユスティアはルイの実力が把握できていなかったというのもあるが、全員で魔神と戦うべきという言葉が間違っていたことだとは思っていない。
だがあのときルイが言ったことが、今は理解できる気持ちもあった。
ユスティアが上空から魔神へと急降下する。
それはルイがヴァルキュリアを使用したときのスピードに迫るものがあった。
ユスティアの銀色の髪と、ゴシック調のスカートが忙しく風になびく。
ほんの一瞬という時間でユスティアは魔神を間合いに収めると、魔神は急いで再生させた斧で迎撃してくる。
それをユスティアは空中でクルクルと回転して避けると同時に、魔神の腕を斬り裂いた。
斧を落とした魔神を聖遺で横に両断し、上半身を上空に蹴り上げる。
「シャドウレイッ!」
そのまま今度は下から魔神を蜂の巣にする。
シャドウレイを放ったユスティアは、すぐに自分も魔神へと追撃をかけた。
魔神はなんとか核を守ろうと抵抗するが、シャドウレイで攻撃が止まることはない。
やっとすべての聖遺を受けきったところで、ユスティアが距離を詰めてきていた。
聖遺が消えたかと思うとユスティアの手に収まっており、次の一撃が放たれる。
「シャドウブルグ」
また聖遺が放たれるが、今度は増えることはない。
それを身体強化と腕で抑え、再生の時間を稼ぐ。
だが今度は身体の内部から槍が貫く。
魔神の上半身から槍がいくつも貫いているが、それでもまだ魔神は消えない。
ユスティアは落ちていく魔神に、止めを刺しに行った。
「
ユスティアの背後にある炎の翼が軌跡を描き、ユスティアの後ろには四本の炎の線ができていた。
炎の翼でスピードが上がっているところに、さらに一瞬それを重ねることでルイのスピードに迫るユスティアの技。
魔神がユスティアの追撃を認識したときには、核はユスティアによって斬られていた。
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