第37話 魔神の実力

 ルイから見て、魔神はおそらく実力差をある程度理解していると思われた。

 数の勝負にはならないと。



「――!」


 ルイはバックステップをした。


「エクスプロージョン」


 魔神が魔法名を唱える直前、さっきまでいた場所をルイは斬っていた。



「ふむ……魔力感知もなかなかいいみたいだな」



 エクスプロージョンは他の魔法と違い、瞬間的な破壊力が桁違いに高い魔法だ。

 土属性で火薬となる元を操作しているのだとルイは考えていた。

 発現の瞬間から他の魔法より威力が高く、たとえ規模を抑えていたとしても威力が格段に高い魔法なのだ。

 やはり受けに回るのは得策ではないと考え、ルイは自分から仕掛けていく。


「ディメンションルイン」


 さっきと同じように空間を斬り裂く魔法の剣閃が放たれるが、魔神は意に介さずに視線はルイを捉え続ける。

 ルイは空間がズレた瞬間一気に魔神との距離を詰め、右手の剣を真っ直ぐに投擲した。

 魔神はそれを半身になって回避したところで、宙に浮いていた。

 ルイが低い体勢から、魔神の足を払いうつ伏せのような状態にされたのだ。

 すかさずルイは魔神の腹部を蹴り上げ、くの字になって魔神は宙に飛ばされる。

 すかさず右手を伸ばしたルイの下には、さっき投擲した剣が吸い寄せられるように戻ってきた。

 蹴り上げられたことで動きに制限をかけられた魔神は、左手をルイに伸ばして魔法を放つ。


「フレイムバースト」


 火属性と風属性の複合である豪炎魔法。

 風属性で勢いを増している炸裂する炎がルイの目の前で発現するが、それをルイは元となる魔力を斬って迫る。

 ルイの左手の剣が、魔神の胴を払いにいく。

 魔神はこれを右手の爪で受け止めるが、その右腕にルイの右足が回し蹴りで叩き込まれる。

 そのまま同じ場所を、今度は右手の剣が三連撃目として斬った。

 魔神の右腕は落とされ、左手の剣が魔神の心臓に一直線に迫る。

 魔神はこれを左の爪で軌道を逸らし、剣は魔神の左肩を貫く。

 ルイはすぐさま剣を心臓に向かって斬り落としにいくが、魔神の右爪四本がルイの腹部を切った。


 一〇秒ないくらいの空中での攻防を繰り広げ、二人は地面に降り立つ。

 いつの間にか復活している魔神の右腕。

 やはりさっきの頭のように、拾ったりなどしなくとも再生できるようだった。



「せっかく魔法で怪我を治して目も白く戻ったのに、もう赤くなっているぞ。

 その魔法、使ってはいるが随分負担になっているようだな?」


「だからどうした? それでもまだお前の前に立っているが?」



 皮肉を込めて返したルイだったが、厳しい状況だということを誰よりも理解していた。

 ルイは、魔法をこれだけ多用した戦闘を今までしたことがない。

 というより、戦闘で魔法を使ったことがなかった。

 訓練をしたことはあるが、負担が大きいので常に使えるような代物ではなく、これはルイにとって切り札とも言える戦術であった。

 スピードで魔神を上回ってはいるが、魔物と違って反応はされている。

 もう時間的猶予もあまりない。すでにルイの身体は、感覚がほとんどなくなっていた。

 状況としては、厳しいと言わざるを得ない。


 再度ルイは先手を取るために仕掛ける。

 距離を詰めるとき、魔神の反撃を回避するときには小さな雷鳴が響く。

 小さく剣を振り、連撃で魔神の攻撃を押さえながら魔神の核へと通じる道筋を捜す。



「あれって、魔神なんだよな?」


「……たぶん」


「それって、三騎士と同等かそれ以上じゃないのか?」



 そんな言葉が呟かれ始める。

 魔神は文献だとかのレベルの存在であり、ここ数百年と存在を確認されていなかった。

 だが魔神のランクから言えば、ルイの力は三騎士と比較してもおかしくはないレベル。

 騎士たちが三騎士の名前を出すのも無理はないことだった。



「ディバインゲート」


 魔神と近接戦闘をしていたルイの姿が一瞬で消える。


「「「「「「「「「「――!」」」」」」」」」」


 その場にいた全員が凍りついた。


「っ――ぅぐ――――ぐはっ――」


 消えたルイが魔神の背後に現れ、胸を貫かれていた。


「ルイさん!」


「ルイィーーーー!」


「っは――」


 クレアとアラン、そしてエドワードが斬り込んでいた。


「エクスプロージョン」


「――! スヴェル」


 魔神のエクスプロージョンにクレアたちは吹き飛ばされるが、すぐにエリスが三人に神聖魔法の盾でそれを軽減する。



「ははは――。その神々の門は発現前の一瞬、魔力が漏れるのだよ。

 僅かな一瞬だから、それを感じ取れるのは稀だろうがな……」


「ぐっ――」



 下から左胸を貫かれ、魔神によって地に足がついていないルイだが、ゆっくりと剣を振り上げる。

 ルイの赤い目が魔神を捉えている。

 それを見た魔神は、ルイをクレアたちの方へと投げ捨てた。

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