第36話 魔神

 魔神の存在は史実、文献という形で伝えられている。

 ルイも学院で魔神という存在は知っていた。

 知能が高く、魔力、身体強化ともに高い。

 魔石を核とする魔物のように再生もするらしいが、生物である魔物の特徴もあり半々のような存在だと記されている。

 人でいう心臓部分に核があり、これを破壊することで倒せるとされていた。



「人間、キサマ何者だ?」


「……エリス、下がってろ」



 そこは静寂に支配されていた。

 魔神という存在が現れたことで身体強化はしているが、誰も言葉を発することはできず、魔神の様子を窺うことしかできずにいる。

 魔神は今にも襲ってきそうな殺気をまとい、ルイを睨んでいた。



「お前はなぜ人を襲うような真似をする?」



 魔物が人を襲うのは、ルイがガイアで生きてきて理解していた。

 それは本能的なものと理解していたが、知性がある魔神が魔物をけしかける意図がわからなかった。



「キサマたち人間は神々に庇護ひごされ、我が物顔でこの世界に広がっている。

 そのような存在がのさばっているのはおかしいだろう?」



 ルイは一瞬パナケイアのことが頭を過ったが、魔神は神々と口にした。

 つまり、パナケイア以外にも神がいるということを魔神は示唆している。

 今までパナケイア以外に、神という存在をルイは聞いたことがない。

 ルイからすれば、パナケイアですら眉唾な存在だ。

 ただ神聖魔法が確かにあるので、パナケイアという女神はいるのかもしれないと思っている程度だった。



「雷を使う人間、キサマは得体がしれない。早目に死んでもらう」


「ヴァルキュリア」



 魔神にもランクの設定はされているが、この魔神がどれほどなのかは推し量れない。

 SSプラスとも、SSSランクともいわれる魔神。

 どちらにしても魔物と比較などできるものではない。

 であれば、受けに回った瞬間にやられる可能性も十分考えられるため、ルイは先手を取る選択をした。


「ディメンションルイン」


 剣を下げていた状態から、ルイがその場で斬り上げるように右手の剣を振る。

 魔力で空間を斬る魔法。

 一瞬魔神ごと景色がズレるという現象が現れるが、魔神は身体を一度見て何事もなかったように立っている。



「――ダメか」


「なぜキサマのような人間が、こんな魔法を使えるのか……」


「今のなんだ? 一瞬絵がズレたような感じになったが」



 ルイと魔神以外は、今なにが起こったのかわかっていないようだった。

 眉間にしわを寄せる者、目を凝らして見る者といたが、共通しているのはわけがわからないという反応。


 魔神はルイが持っていない情報をなにか持っているような口振りではあったが、ルイは自分から攻撃を仕掛けるために斬り込んだ。

 情報はなにかを判断するためにも多いに越したことはないが、相手は魔神である。

 力が未知数であるため、ルイは情報を捨てて一気に方をつけるつもりだった。


 半身の状態で左肩から間合いに入っていき、左の剣で右から横薙ぎに払う。

 普通の相手であれば、気づいたときには横薙ぎの体勢にルイが入っているスピード。

 だが魔神はそれに反応し、左手の長い爪で受け止めた。

 剣を受け止めたことからもわかるが、剣から伝わる衝撃からも黒い爪の硬さが理解できる。


 魔神が右の爪でルイの顔を串刺しにしてくるが、これをルイは回転して側面へと回避。

 ルイの動きは流れるような動きで、右手の剣で魔神の首を斬る。

 すかさず左の剣で、斜め後ろから心臓を貫きにいったルイだったが、魔神の身体はそれを屈んで回避した。


「――!」


 魔神はそのまま一度距離を取ると、落ちた頭を首に乗せる。

 そう思ったときにはすでに、魔神の首は繋がっていた。



「やはり、そのスピードと威力は侮れない」



 魔神の鷹の目が鋭くルイを見据える。

 ルイとしては、今ので決めておきたいところだった。

 反撃をされたということは、ルイのスピードに魔神がついてきているということ。

 そして今の動きから、魔神は核だけを気をつければいいと推測できる。

 ダメージの蓄積がないということを考えると、明らかにルイの方が不利だった。



「動くな!」



 クレアたちが周囲に展開の動きを見せたところでルイが叫ぶ。

 この魔神は、数でどうにかなるような相手ではないとルイは分析していた。

 通常の魔物であれば数で押切り、傷を負わせることで勝ちの目がある。

 力の差を数で埋めることも可能だ。

 だが目の前にいる魔神は傷を負わせることができない。

 カースナイトのように、魔力が続く限り再生するだろう。

 そのことから考えて、数ではまず押し切れない。

 万の騎士である師団規模の軍でも、力の差を埋められるかはわからなかった。



「いい判断だな、と言っておこう。まぁ、ここでお前たちが死ぬことに変わりはないが」

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