第28話 異変

 クレアたちの小隊が、夜間討伐任務から聖都に戻ったのは四月の下旬に入った頃だった。

 呪いの経過を確認するために滞在期間が伸びていたのと、その間小隊として訓練をしていたからだ。

 エリスは聖都へ戻ると、すぐに今回の呪いについてまとめたものを教団で共有した。

 今回行った対応を元に、どこの国、町などでも対応できるように新たな対応の仕方が作られている。


 そして小隊長であるクレアだが、聖都に戻ると中隊長に昇格した。

 通常であれば選抜した騎士で討伐にあたるカースナイトを、一小隊が討伐したことによるものだ。

 元々小隊長からスタートしたクレアはかなり例外的な扱いであったが、わずか四ヶ月で小隊長から中隊長に昇格したのは異例の早さだった。

 隊の規模は二六〇名と今までの四倍以上の人数となり、小隊を四つ束ねる隊になる。

 クレアは新たに隊の編成をし、クレアは二小隊、アランとゴードンに各一小隊を任せる形をとった。




「失礼いたします。クレア・メディアスまいりました」



 クレアが訪れたのは軍を預かっている将軍、父であるデューンの執務室だった。

 デューンの執務室は軍の建物ではなく、王城の一室になっている。

 軍の建物とは違い、造り、調度品にいたるまで素晴らしい物が揃えられていた。

 執務室の奥には大きな木製の机がどっしりと置かれ、その奥には大きな窓がある。

 クレアは机の前で脚を揃え、直立不動でデューンの言葉を待った。



「編成は落ち着いたか?」


「はい! 編成と並行して、連携等の訓練もしています」


「軍ではあるが、今は誰もいない。楽にしなさい」



 デューンが応接用のソファーへ移動し、クレアもそれに続いた。



「働きは聞いている。私も鼻が高い」


「ありがとうございます」


「次の任務なんだが、ちょっと今までと規模が違うものになりそうだ」


「と、言いますと?」


「南のワイズロア砦があるのは知っているな?」


「はい。さらに南に広がる広大な森を監視するために、築かれたものと記憶しています」


「そうだ。報告によると、南の森で魔物が集まっている可能性があるらしい」


「そんな! 群れをなすヘルハウンドなどはいますが、その程度ということではないのですか?」


「そうだ。一番新しい報告では、大隊規模の可能性がある」



 デューンが話した内容は、今までなら考えられないことだった。

 ゴブリンやヘルハウンドが群れを作ることはよくある。

 だが大隊規模といえば、少なく見積もっても一〇〇〇以上の数になる。

 ここまでの数になるとヘルハウンドなどだけではなく、他の魔物も群れになっていると考える方が自然だった。



「念の為、援軍派遣を要請されているという感じだ。

 とはいえ、それなりの数を揃えることになる。

 他の砦なども含め、今そのへんを調整しているところだ。

 そこでクレアの隊には、先にワイズロアに行ってもらうことになる」


「了解しました」


「すでに三騎士のライルは向こうについている。調整がつき次第、もう一人三騎士を派遣する予定だ。

 それとクレアの隊は、すぐに動ける他の隊を指揮下に入れて向かってもらう」



 クレアの隊は中隊ではあるが、今回は援軍として向かうので人数が必要になる。

 そのためクレアは、一時的に大隊長として援軍に向かうことになった。



「魔物の数や動き次第では、討伐作戦が行われる可能性もある。

 だが南の森は他の場所とは違う。無理な討伐はするな」


「わかっています」




 クレアの隊は数日後、聖都から南に位置するワイズロアの砦へと移動を開始した。

 南の森は国や町を築けないほど広大な森で、高ランクに設定されている魔物も現れる。

 森の広さも、魔物の数も、他のどの国の森とも違う。

 とても討伐しきれるような場所ではないため、魔物の動きを監視するためにワイズロア砦は築かれた防衛ラインだった。

 魔物がまとまって動くことなどまずない。これは過去に一度としてなかったことである。

 そのためある程度の戦力で監視ができる数、ということで七〇〇〇の騎士がワイズロア砦には常駐していた。

 他国との国境にある砦には、万を超える騎士が置かれていることを考えれば役割の違いも理解できるだろう。


 クレアたちの隊が聖都を出発した初日の野営で、珍しくルイが隊について意見をした。



「初期の隊員と他を分けたほうがいい。他に移動まで合わせていたら、休める時間が減るだけだ」


「どういうことですか? 先に我々だけ行くということですか?」


「今のペースならよくて一二日というところだろう。

 だが小隊だった頃の隊員だけ先行させて、先に野営の準備をしてしまえばしっかり休める。

 他のやつらはあとからくればいい」


「それだと不満は出ないでしょうか?」


「いや、たぶん大丈夫だ。確かに俺たちのやることは増えるが、それと休める時間を考えればこっちを取るはずだ。

 今日はまだ初日だからいいが、これが続けば相当しんどくなる。

 日数をかけていくならそのへんは抑えられるが。

 これから隊が大きくなっていけばこれもできなくなる。

 まだ数が少ないうちに日数を稼ぐべきだ」


「クレア様、私もルイの案に賛成です。

 移動による疲労の蓄積はバカにできません。しっかり休める体勢を作る方がいいかと思います」



 この結果、翌日からゴードンを隊長にした先行隊が出されることになった。

 魔力コントロールがクレア隊は全体的にあがっていたことで、馬への魔力付与も他より向上していた。

 朝同時に出発しても、目的地までにかかる時間が違うのだ。

 その日から野営となる日は先行隊が出て、朝の出発準備は他の隊が行うことになった。

 そのかわり先行した隊は、先に野営の準備を進める。

 

 この結果、民間人の移動が一四日というところを、大隊規模にまでなったクレアたちは一〇日でワイズロアに到着した。

 クレアの隊は途中で各地から派遣されてくる隊を指揮下に入れていき、ワイズロアについたときには一七〇〇という規模になっていた。

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